1 全面的価格賠償の賠償金の算定
2 共有物の価格の適正評価
3 一般的な共有減価の意味と減価率(参考)
4 全面的価格賠償における共有減価(否定)
5 一般的な競売減価(参考)
6 全面的価格賠償における競売減価
7 土地の全面的価格賠償における建付減価
8 協議による共有物分割における共有減価・競売減価
9 現物分割・部分的価格賠償における評価の特徴(参考・概要)
10 共有物の価格の適性評価のプロセス(鑑定・概要)
11 賠償金の計算における被担保債権相当額の控除(概要)

1 全面的価格賠償の賠償金の算定

共有物分割において,全面的価格賠償を用いる場合には,賠償金を定めることになります。
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)
実際には,賠償金の算定に関して意見が熾烈に対立することがよくあります。
本記事では,賠償金の算定の内容(計算方法・理論)について説明します。

2 共有物の価格の適正評価

全面的価格賠償の要件の中には,共有物(全体)の価格が適正に評価されることが含まれています。
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)
具体的には,卸売価格(競売による売却代金)ではなく時価によるという意味です。なお,平成10年最高裁の補足意見では競売した場合の配当金というコメントが登場していますが,これは卸売価格であることを認めるものではないと思えます。

<共有物の価格の適正評価(※1)

あ 基本

実質的公平性の中の共有物の価格の適性評価について
共有物の価格は,卸売価格ではなく,取引価格ないし時価そのものである
卸売価格=競売不動産の鑑定評価額のように不動産が民事執行法による売却に付されることを前提とした価格
※最高裁平成8年10月31日

い 競売との比較(参考)

(現物取得者が判決確定後一定の期間内に裁判所の定める一定の額の金員を支払うことを条件として当該共有物を被告の単独所有とする判決において)
現物取得者の支払うべき金員の額は,当該共有物の口頭弁論終結時における市場価格を基礎として,これを競売した場合に対価取得者が取得し得るであろう配当金等の額を下回ることのないように定められるべきである
※最高裁平成10年2月27日・河合裁判官の補足意見

3 一般的な共有減価の意味と減価率(参考)

ところで,一般論として,共有持分の取引(売買)では,代金は,共有であることによりディスカウントされます。これを共有減価と呼びます。全面的価格賠償の賠償金の算定でも共有減価を適用するかどうかという問題について説明する前提として押さえておきます。

<一般的な共有減価の意味と減価率(参考)>

あ 共有持分の特殊性

100%所有権=単独所有と比べて制約が非常に大きい
潜在的なリスク・負担も大きい

い 共有減価の意味

共有持分の評価は一般的に低くなる
不動産鑑定評価基準において共有減価と呼ばれる
共有であるためのディスカウントという意味である

う 共有減価率の相場

一般的な共有減価割合・割引率
→20〜30%程度が目安である

え 共有減価が適用される典型的状況

(共有者以外が)共有持分を取得する取引(売買)において,共有減価を適用した代金額が定められる

お 共有減価を適用した計算の具体例
ア 前提事情

所有権価格=1億円
対象の持分割合=50%
共有減価=30%

イ 持分評価額算定
持分の評価額
=1億円 × 50% × 70% =3500万円

4 全面的価格賠償における共有減価(否定)

全面的価格賠償は,経済的な面では,共有持分の売買と同じです。そこで,賠償金の計算でも共有減価を適用するという発想が生じます。
しかし,全面的価格賠償の場合の現物取得者は結果的に100%の所有権を実現するので,共有減価は適用しない解釈が一般的となっています。

<全面的価格賠償における共有減価(否定・※2)>

あ 全面的価格賠償の特徴

全面的価格賠償の結果について
→『共有』を脱する=単独所有になる
→『共有』による制約・不都合はなくなる

い 全面的価格賠償における共有減価
ア 解釈

全面的価額賠償の賠償金算定において
→一般的に共有減価を適用しない
※東京地裁平成25年7月19日
※東京地裁平成17年10月19日
※東京地判平成26年10月6日(後記※5

イ 計算方法
賠償金 = 共有物(全体)の価格(前記※1) × (各対価取得者の)共有持分割合

5 一般的な競売減価(参考)

ところで,一般論として,競売における売却では,競売であることにより売却金額が下がってしまうことになります。これを競売減価と呼びます。全面的価格賠償の賠償金の算定でも競売減価を適用するかどうかという問題について説明する前提として押さえておきます。

<一般的な競売減価(参考)>

あ 競売の特殊性(※4)

一般的な取引と比べて大きな制約・リスクがある

ア 事前に得られる情報が限られている
イ 内見が容易ではない
ウ 引渡が確実ではない
エ 権利の負担の有無が不明確である
オ 瑕疵担保責任に制限がある
※民法570条ただし書

い 競売減価の意味

競売は一般的な取引と比べて評価が下がる
=売却金額が低くなる傾向がある
このディスカウントを『競売減価』と呼ぶ

う 競売減価率の相場

一般的な競売減価・割引率
→30%程度が目安である

6 全面的価格賠償における競売減価

共有物分割訴訟では,仮に全面的価格賠償も現物分割も認められない(できない)場合には換価分割となります。そうなると競売によって共有物(全体)を売却することになります。そこで競売であることにより売却金額は下がってしまうことになります。
換価分割の場合の結論と合わせて,全面的価格賠償の賠償金の計算でも競売減価を適用するという発想もあります。しかし,全面的価格賠償は競売による売却とは違うので,競売減価を適用することを否定する見解が一般的となっています。

<全面的価格賠償における競売減価(否定・※3)>

あ 換価分割との比較

仮に換価分割となった場合
→競売で売却することになる
→一般的取引よりも大幅に売却金額が下がる
→共有者が得る金額は競売減価が適用されたものになるといえる

い 全面的価格賠償における競売減価

実質的に共有者間の取引である
競売の特殊性(前記※4)に該当しない
→一般的に競売減価を適用しない
※東京地裁平成17年10月19日

7 土地の全面的価格賠償における建付減価

一般論として,建物の敷地となっている土地については,すぐに使用できない不都合を評価に反映させる,建付減価がなされます。
全面的価格賠償の賠償金の算定では,建付減価をするかしないかについて統一的見解はありませんが,少なくとも,建物所有者が現物取得者となる場合には建付減価をしない傾向が強いです。
なお,ここで紹介している裁判例は,土地の使用貸借が実質的に終了していることを,建付減価をしない理由としているとも読めます。

<土地の全面的価格賠償における建付減価>

あ 一般的傾向

建付地(建物の敷地となっている土地)の全面的価格賠償の賠償金の算定において,建付減価をするかどうかの統一的見解はない
建物が,現物取得者または実質的に同一といえる者の所有である場合には建付減価をしない傾向がある(い)
なお,借地権がある場合の借地権価格相当額の控除とは別である

い 建付減価を否定した裁判例(※5)
ア 実質的な使用貸借の終了(前提)

・・・現況ではA土地・・・上に原告が建物を所有して,被告持分を無償使用しているところ,通常は被告が原告に対しその使用収益を承認したものというべきであるが,その承認は通常使用収益の目的を達成すること,すなわち原告所有の建物の経済的な耐用年数を前提とするのが一般的であろうし,当該建物の築後経過年数からしてその経済的目的はほぼ達成されているといえるから・・・

イ (共有減価と)建付減価の否定
A土地を原告が単独取得することを前提とすると,・・・A土地・・・には原告が所有する建物が存在することからすれば,原告はA土地を今後も・・・使用収益することとなるから,共有減価及び建付減価のいずれも要しない(とした点についても適切かつ妥当であって)・・・
※東京地判平成26年10月6日
ウ 使用貸借の成否(参考)
土地共有者の1人が建物所有者である場合,共有土地を対象とする使用貸借は成立しないと思われる
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)

8 協議による共有物分割における共有減価・競売減価

以上の説明は,法的・理論的な賠償金の計算方法です。つまり,裁判所が全面的価格賠償の判決をする時の賠償金の定め方ということです。
逆に,共有者全員が合意する場合には,当然ですが自由に金額を定めることができます。現実には純粋な時価(に持分割合をかけた金額)よりも低い金額を賠償金として定めるケースもよくあります。

<協議による共有物分割における共有減価・競売減価>

あ 訴訟・判決(参考)

裁判所が全面的価格賠償の判決をする場合
→賠償金の算定において共有減価・競売減価は適用しない(前記※2)(前記※3

い 協議(合意)

共有者全員が協議により,全面的価格賠償の合意をする場合
共有減価・競売減価の適用の有無について決まりはない
当事者の意向により減価を適用することもある

9 現物分割・部分的価格賠償における評価の特徴(参考・概要)

全面的価格賠償の賠償金の評価は,対象となっている財産(共有物)の評価額を出すことです。これに近いことが,現物分割や部分的価格賠償でも行われます。現物分割(部分的価格賠償を否定した)の事例では老朽化した建物の価値をゼロとした裁判例などがあり,これは全面的価格賠償における評価でも参考となるでしょう。

<現物分割・部分的価格賠償における評価の特徴(参考・概要)>

現物分割を前提として,各共有者が取得する財産の価値に過不足があるかどうかが問題となることがある
その際,次のような扱いをする実例(裁判例)がある

ア 老朽化した建物の価値をゼロとする
イ 過不足が小さい場合は調整金を不要とする
詳しくはこちら|価格賠償の基本(部分的価格賠償と全面的価格賠償)

10 共有物の価格の適性評価のプロセス(鑑定・概要)

以上のように全面的価格賠償の賠償金の計算は共有物の時価を元にします。ところで,実際に価格の適正な評価をするプロセスは,裁判所の鑑定が基本です。ただし,私的鑑定を用いることもあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|全面的価格賠償における共有物の価格の評価プロセス(鑑定)

11 賠償金の計算における被担保債権相当額の控除(概要)

以上の説明では,共有物に担保の負担がないことを前提としています。実際には共有不動産に抵当権が設定されているケースもよくあります。このような不動産について全面的価格賠償の判決となる場合には被担保債権の残額を控除することも控除しないこともあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|全面的価格賠償|賠償金算定|担保負担額の控除

本記事では,全面的価格賠償の賠償金の算定方法(理論)について説明しました。
実際には,具体的事情によって法的扱いや最適なアクションが違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。