【全面的価格賠償の賠償金算定における建付減価・使用貸借相当額減価】

1 全面的価格賠償の賠償金算定における建付減価・使用貸借相当額減価

共有物分割の方法の1つとして、全面的価格賠償があり、これが認められるための要件の1つが、実質的公平性です。要するに、支払う賠償金の金額が適正でなくてはならない、ということです。
詳しくはこちら|全面的価格賠償における価格の適正評価と共有減価・競売減価
実際にも、不動産の評価額について熾烈な対立が生じることがとても多いです。
土地の評価の中で、建付減価をするかどうか、使用貸借相当額を控除するかどうか、という問題があります。
本記事では、このことを説明します。

2 建付減価(建付地評価)・使用貸借相当額控除の意味(前提・概要)

共有物分割と関係ない土地の評価の一般論として、建物の敷地となっている土地については、すぐに使用できない不都合を評価に反映させる、建付減価がなされます。
これとは別に、使用貸借の目的の土地(無償使用を承諾している状況)の評価では、この土地をすぐには使えないという不都合を評価に反映させるため、使用貸借という負担に相当する金額を控除する手法があります。

建付減価(建付地評価)・使用貸借相当額控除の意味(前提・概要)

あ 建付減価

ア 建付減価の考え方 土地の評価において、当該土地上に建物があることにより土地の活用が妨げられている
これを評価に反映させる
イ 評価(減価)の方法 建物の継続利用が合理的である場合→建物と土地全体の価値をもとにして、土地部分の割合を乗じる、または建物価値を控除する
建物を解体することが妥当である場合→更地としての価値から建物の解体費用相当額を控除する
詳しくはこちら|「建付地」の鑑定評価と「建付減価」の意味

い 使用貸借相当額控除

使用貸借の対象の不動産の評価において、使用貸借の負担に相当する金額を控除する
詳しくはこちら|土地の使用借権の評価額(割合方式・場所的利益との関係)

う 場所的利益(参考)

使用貸借相当額の控除は、建物買取請求権における場所的利益と類似する概念であるが、同じというわけではない
詳しくはこちら|建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場

え 底地評価との違い(参考)

底地評価とは、借地権がある場合に、更地価格から借地権価格相当額を控除するというものである

3 全面的価格賠償における建付減価・使用貸借相当額控除の傾向

全面的価格賠償の賠償金の算定では、建付減価をするかしないか、また、使用貸借相当額の控除をするかしないか、について統一的見解はありません。
建物所有者が現物取得者となる場合には建付減価をしない発想が自然ですが、実際には、裁判所が建付減価をすることも、しないこともあります。使用貸借相当額の控除については、部分的に控除する、という実例もあります。

全面的価格賠償における建付減価・使用貸借相当額控除の傾向

あ 建付減価の採否傾向

建付地(建物の敷地となっている土地)の全面的価格賠償の賠償金の算定において、建付減価をするかどうかの統一的見解はない
建物が、現物取得者または実質的に同一といえる者の所有である場合には建付減価をしない傾向がある

い 使用貸借相当額控除の有無の傾向

使用貸借(の状態)の対象となっている土地の全面的価格賠償の賠償金の算定において、使用貸借相当額の控除をするかどうかの統一的見解はない
使用貸借相当額のうち対価取得者の持分割合相当額を控除する実例もある(後記※1

4 建付減価・使用貸借相当額控除の適用をしなかった裁判例

建物が建っている土地についての全面的価格賠償の賠償金の算定で、建付減価も使用相当額控除も適用しなかった裁判例があります。判決文からは、建付減価や使用相当額控除は争点となっていなかったようです。単純に更地評価額に(対価取得者の)共有持分割合を乗じただけのように読み取れます。

建付減価・使用貸借相当額控除の適用をしなかった裁判例

あ 物理的状況→分割対象土地上に建物あり

そうすると、本件においては、本件各土地上に存する建物は、いずれも一審原告会社及び一審原告X1所有名義の建物であること、一審原告会社の代表者は一審原告X2であるが、一審原告会社と一審原告X1との間に利害が対立しているというような事情はうかがわれず、双方ともに本件各土地及び18番5の土地上に存する建物を取り壊して、その跡地にマンションを新築することを望んでいること、・・・

い 分割方法(全面的価格賠償の相当性)

上記Aの持分を一審原告会社に取得させることは相当であると認められる。

う 土地の評価(前提)

そして、本件各土地については、証拠(甲10)によれば、a株式会社(不動産鑑定士F)において、取引事例比較法による比準価格及び収益還元法による収益価格を比較検討した上で、その平成21年6月1日時点の正常価格を1億1200万円(1m2当たり46万6000円)と鑑定評価していることが認められるところ、上記鑑定の手法及び鑑定にあたり採用された数値等は十分合理性を有するから、上記鑑定価格は適正に評価されたものと認められる・・・

え 賠償金算定→建付減価、使用貸借相当額の減価いずれもなし

そして、上記鑑定価格に基づいて本件各土地におけるAの持分相当額を算定すると466万4660円(46万6000円×10.01)となるところ、証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告会社には、その支払能力が十分あると認められる。
※東京高判平成22年8月31日

5 建付減価を否定した裁判例

全面的価格賠償の賠償額算定で、建付減価を否定した裁判例を紹介します。
XY共有の土地上に、X所有の建物があり、Xが土地を取得する全面的価格賠償が選択されました。建物が現物取得者の所有であるという状態です。現物を取得する共有者の立場になってみると、建物が存在するけれど、自身の所有物なので、実質的に土地の利用が制限されているわけではありません。
さらに、共有土地上の建物の老朽化が進んでいる事情が理由となり、建付減価が否定されました。

建付減価を否定した裁判例

あ 実質的な使用貸借の終了(前提)

・・・現況ではA土地・・・上に原告が建物を所有して、被告持分を無償使用しているところ、通常は被告が原告に対しその使用収益を承認したものというべきであるが、その承認は通常使用収益の目的を達成すること、すなわち原告所有の建物の経済的な耐用年数を前提とするのが一般的であろうし、当該建物の築後経過年数からしてその経済的目的はほぼ達成されているといえるから・・・

い (共有減価と)建付減価の否定

A土地を原告が単独取得することを前提とすると、・・・A土地・・・には原告が所有する建物が存在することからすれば、原告はA土地を今後も・・・使用収益することとなるから、共有減価及び建付減価のいずれも要しない(とした点についても適切かつ妥当であって)・・・
※東京地判平成26年10月6日

う 共有減価(参考)

共有減価については別の記事で説明している
詳しくはこちら|全面的価格賠償における価格の適正評価と共有減価・競売減価

6 建付減価を適用した裁判例

全面的価格賠償の賠償金算定で、建付減価が適用された裁判例を紹介します。特に理由を示すことなく、建付減価を適用しています。

建付減価を適用した裁判例

あ 平成15年広島高判(概要)

共有土地上に、現物取得者が所有する建物が存在するケースにおいて
土地評価額の算定上、建付減価(解体費用相当額の控除)をした(建付地評価を採用した)
※広島高判平成15年6月4日
詳しくはこちら|共有持分の担保権を全面的価格賠償の賠償金に反映しなかった裁判例(平成15年広島高判)

い 令和3年裁判例

共有土地上に、現物取得者が所有する建物が存在するケースにおいて
建付減価として3%の減額をした
※非公開裁判例(当事務所扱い事例)

7 使用貸借相当額の控除をした裁判例

次に、土地の評価において、使用貸借相当額(使用借権の評価額)の控除をした裁判例を紹介します。いずれも、共有土地上に、現物取得者が所有する建物があったケースです。
使用借権の評価額は、更地の一定割合(10%など)ということが多いですが、収益還元方式で計算する例もあります。

使用貸借相当額の控除をした裁判例(※1)

あ 東京地判平成27年5月14日→15%

・・・本件建物は築後20年以上が経過していること、使用借権者である被告が本件各土地を全部取得することとなり、市場性回復等に即応する経済的価値の増分が見込まれることなどを考慮し、減価割合は、15パーセントと認めるのが相当である。
(注・更地価格を元としている)
※東京地判平成27年5月14日

い 東京地判平成25年6月25日→DCF法

ア 更地価格 ・・・本件土地が更地である場合の価額は、m2当たり単価40万円に実効面積(私道負担を除いた面積)183.98m2を乗じた7359万円であると認められる。
イ 使用借権相当額 そして、本件土地上に本件建物が存在していることからすれば、本件土地の相当価額は、更地価額から使用借権価額を控除して求めるべきである。
・・・
そこで、使用借権価額をDCF法の考え方に基づいて算出すると、下記のとおり、2154万円となる。
ウ 賠償金額(まとめ) 以上から、全面的価額賠償の方法による共有物分割に当たり原告が被告らに支払うべき金額は、本件土地の更地価格7359万円から使用借権価格2154万円を控除し、被告らの共有持分割合(各15分の2)を乗じた694万円となる。
※東京地判平成25年6月25日

う 令和3年裁判例→10%

共有土地上に、現物取得者が所有する建物が存在するケースにおいて
土地評価額の算定上、使用貸借相当額(10%)に、対価取得者の持分割合を乗じた金額を控除した
※令和3年非公開裁判例(当事務所扱い事例)

え 使用貸借の成否(参考)

土地共有者の1人が建物所有者である場合、共有土地を対象とする使用貸借は成立しないと思われる
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)
この理論を前提とすると、「使用貸借の状態」というのが正確であろう

8 建物評価で使用貸借相当額の加算をした裁判例

土地の評価においては、前述のように、土地利用権の評価額を控除しますが、逆に、建物の評価においては、(従たる権利である)土地利用権の評価額を加算します。
土地(敷地)利用権が使用借権であったケースで、土地(建付地)価格の2割敷地利用権の価格として認めた裁判例があります。

建物評価で使用貸借相当額の加算をした裁判例

(注・建物を対象とする共有物分割において)
甲3(評価書)によれば、・・・建付地価格を2498万円と算定し、これに敷地利用権割合を0.2としてこれを乗じた金額約500万円敷地利用権の価格と算定していること、・・・
以上の事情によれば、本件建物の価格は、本件建物自体の価格とその敷地利用権の価格合計であると解されるところ、
前者(本件建物自体の価格)は、上記評価書における本件建物の基礎となる価格である959万1808円と解すべきであり、
後者(敷地利用権の価格)は、上記評価書における敷地利用権の価格である500万円と解すべきであるから、その合計1459万1808円が、本件建物の価格と解される。
※東京地判平成17年10月19日

9 まとめ

一般的な土地の評価のおける建物減価や使用貸借相当額の控除は、その方法(特に割合)が画一的に決まっているわけではありません。評価する者によるブレがあります。
全面的価格賠償の賠償金の算定では、さらに、個別的な事情によって裁判所が妥当性・合理性の観点からいろいろな調整をします。つまり、ブレはさらに大きくなります。
本記事で説明した実例は参考になりますが、実際の事案にそのまま当てはまるとは限りません。もちろん、主張の中で使うことは有利な結果につながることがあります。

本記事では、全面的価格賠償の賠償金算定における建付減価と使用貸借相当額の控除について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、全面的価格賠償(共有物分割)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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