1 価格賠償の基本(部分的価格賠償と全面的価格賠償)
2 部分的価格賠償の基本事項
3 部分的価格賠償を認めた昭和62年判例
4 過不足が小さいので調整金を不要とした裁判例
5 老朽化建物の価値をゼロとした裁判例
6 全面的価格賠償の基本事項
7 全面的価格賠償における典型的争点

1 価格賠償の基本(部分的価格賠償と全面的価格賠償)

共有物分割の分割類型(分割方法)として条文に規定されているのは現物分割と換価分割です。しかし,判例が価格賠償を認めています。
本記事では価格賠償の基本的なことを説明します。

2 部分的価格賠償の基本事項

昭和62年判例が,現物分割の過不足を金銭で調整するという手法を認めました。

<部分的価格賠償の基本事項>

あ ネーミングのバラエティ
ア 部分的価格賠償
イ 補充的価格賠償
ウ 一部価格賠償
い 分割の具体例

共有者A・Bで現物分割をする
Aの取得した現物が,持分の価格を超える
AがBに超過分の対価を支払う
=過不足分を補償金(調整金)で調整する
現物分割と価格賠償の組み合わせといえる

う 認めた判例

『い』の分割類型は,現物分割の一種として判例で認められた
※最判昭和62年4月22日(後記※1

3 部分的価格賠償を認めた昭和62年判例

昭和62年判例は,森林法の法令違憲を含めていろいろな大きな判断を示していますが,その中の1つが部分的価格賠償を認めたという判断です。この判断を示した部分を引用します。あくまでも現物分割の一種という位置づけであることが分かります。

<部分的価格賠償を認めた昭和62年判例(※1)

・・・民法二五八条による共有物分割の方法について考えるのに,現物分割をするに当たつては,当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮すべきであるから,持分の価格に応じた分割をするとしても,なお共有者の取得する現物の価格に過不足を来す事態の生じることは避け難いところであり,このような場合には,持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ,過不足の調整をすることも現物分割の一態様として許されるものというべきであり,・・・と解すべきである(最高裁昭和二八年(オ)第一六三号同三〇年五月三一日第三小法廷判決・民集九巻六号七九三頁,昭和四一年(オ)第六四八号同四五年一一月六日第二小法廷判決・民集二四巻一二号一八〇三頁は,右と抵触する限度において,これを改める。)。
※最判昭和62年4月22日

4 過不足が小さいので調整金を不要とした裁判例

部分的価格賠償は,現物分割をベースとして,その結果,取得する価値に過不足が生じたら金銭の支払いで調整するというものです。そこで実際には,価値に過不足があるかどうかについて意見の対立が生じることがよくあります。
これに関して,過不足が小さいので調整金は不要とした,つまり,単純な現物分割とした裁判例があります。

<過不足が小さいので調整金を不要とした裁判例>

あ 裁判例の要点

現物分割の結果,過不足が生じると思われた
しかし,裁判所は,過不足が大きくないため調整金を不要とした
=単純な現物分割を命じた

い 裁判例の引用

・・・右三名に対する分与割合がやや大きいように考えられないでもないが,同目録五記載の土地は被控訴人Iの居宅の敷地として使用されているものであり,現実的な利用価値はほとんどないこと,これに対し,同目録六の土地はその上に会社の工場等が存在するとはいえ,右建物は相当老朽化しており,近い時期に工場の取り壊し,移転等により,更地としての利用も見込まれること,仮に,工場が現在のまま利用されるとしても,その利用につき会社と賃貸借契約を締結するなどしてそこから収益を挙げることも可能であると考えられることなどからすれば,同目録五の土地は同目録六に比べ,その評価額は鑑定の結果より少なくとも一五パーセント以上は下回るものと認めるのが相当であり,被控訴人Aらの取得分が,金銭による調整,清算を必要とするほど過大であるとはいえないというべきである。
※東京高判平成6年11月30日

5 老朽化建物の価値をゼロとした裁判例

前述の裁判例と同じように,現物分割を選択した上で,価値に過不足はないと判断した裁判例です。この裁判例は,老朽化した建物の価値をゼロと評価しました。

<老朽化建物の価値をゼロとした裁判例>

あ 裁判例の要点

土地・建物を対象とする共有物分割において
建物は築29年の木造であったことから価値をゼロとした
調整金のない単純な現物分割とした

い 裁判例の引用

本件土地を分割する場合には,その地上建物である本件建物は,建築後29年を経過する老朽の木造家屋であるから,その経済的価値を無視して差し支えないものと考えられる。
※東京地判平成5年6月30日

う 批判的な指摘

仮に経済的価値を零としても,分割を拒む共有者には相当の価値を置くかも知れない
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p21

6 全面的価格賠償の基本事項

部分的価格賠償は,現物分割ができる範囲を拡げることになりましたが,あくまでも調整といえる規模にとどまりました。
これに対して,平成8年判例が全面的価格賠償を認めました。共有者の一部が現物は取得せず,対価(金銭)だけを取得するという分割方法のことです。要するに強制的に相手の共有持分を買い取る,という方法です。私的収用という見方もできる分割方法です。

<全面的価格賠償の基本事項>

あ 分割内容

共有物を共有者のうち1人の単独所有or数人の共有とする
他の共有者に持分権の価格を賠償する

い 認めた判例

『あ』の分割類型は条文に規定がなく,判例で創設したという解釈が一般的である
※民法258条2項
※最高裁平成8年10月31日;判決が複数ある
※最高裁平成9年4月25日
※最高裁平成10年2月27日
※最高裁平成11年4月22日

7 全面的価格賠償における典型的争点

全面的価格賠償は,実際のケースで活用できることがとても多いです。共有者の1人が,自身が取得する全面的価格賠償を主張し,他の共有者もそのことには賛成するけれど対価(賠償金)の金額で対立する,ということがよくあります。

<全面的価格賠償における典型的争点>

あ 取得する共有者

共有者の1人Aが共有不動産を単独で取得すること
→共有者間で意見が一致することが多い

い 金額

賠償金の金額・不動産の評価額
→見解の対立が生じることが非常に多い

本記事では,共有物分割の分割類型の中の価格賠償の基本的なことを説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。