【共有持分譲渡に関する法的問題の全体像】

1 共有持分譲渡に関する法的問題の全体像

共有持分を購入した場合には、共有持分を取得し、新たな共有者となります。このことは所有権の購入と同じなのですが、共有特有の特殊な法的扱いがあります。代表的なものは、新たな共有者は、それ以前に共有者が決めたことに拘束されるという扱いです。
また、民法上の組合の財産については、一種の共有となっていますが、共有持分を譲渡自体ができません。
本記事ではこのような、共有持分の譲渡に関する法律的な問題の全体像を説明します。

2 共有持分譲渡の自由と制限

(1)持分譲渡(処分)自由の原則

共有持分の譲渡(売買)は原則として自由です。持分の性質は所有権なので処分は本質的な権能という位置づけなのです(民法206条)。

持分譲渡(処分)自由の原則

このように、共有物分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるに至つたものである。
※最判昭和62年4月22日(森林法違憲判決)

(2)持分譲渡禁止の合意の効力→債権的

共有者全員の間で共有持分の売却を禁止するという合意があった場合、合意自体は有効ですが、違反してなされた譲渡は無効になりません。つまり、共有持分の譲受人(買主)は有効に共有持分を取得できます。

持分譲渡禁止の合意の効力→債権的

あ 持分処分禁止合意→債権的+譲受人への承継否定

共有者間で持分権を処分しないという特約をした場合、それは債権的効力をもちうるにとどまる
持分を譲渡しないという特約は、持分権の本質上、譲受人を拘束しえない
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p435
※我妻栄著『民法講義Ⅱ 新訂 物権法』岩波書店1983年p326

い 持分譲渡禁止特約→債権的

共有者間で持分譲渡をしない特約(譲渡禁止特約)をすることは可能であるが、これは債権的な効力を有するのみで第三者には対抗しえず、また、不動産についてもこれを登記することはできない(登記事項ではない)。
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p358

(3)組合財産の持分譲渡の制限(概要)

ただし、民法上の組合の財産の共有持分であった場合は代金を支払っても共有持分を取得できない、という結果になります。共有持分の売買のリスクの1つです。

組合財産の持分譲渡の制限(概要)

あ 民法上の組合による譲渡無効

共有者間に民法上の組合が成立していた場合
→出資した共有持分の譲渡は無効となる
詳しくはこちら|民法上の組合の財産の扱い(所有形態・管理・意思決定・共有の規定との優劣)

い 公示なし

民法上の組合(の財産であること)について
→不動産の登記も法人(商業)登記もなされない
→共有者(組合員)以外が公的記録から知ることはできない

3 共有者間の権利関係の承継(概要)

共有持分の譲渡が一般の財産の譲渡と大きく違うのは、共有者間の、共有関係と分離できない権利関係(合意)が広く承継されるというものです。たとえば維持費の立替や購入資金の立替についての求償などです。
しかも、原則として登記されていない内容が承継されるのです。例外的に不分割特約(分割禁止特約)だけは登記してある場合だけ承継されます。
共有者間の権利関係の承継については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分譲渡における共有者間の権利関係の承継(民法254条)の基本

4 決定した使用方法の事後的変更(概要)

共有持分を譲り受けた(購入した)者が、過去に共有者間で決定(合意)した内容を承継した場合、その決定内容を変更したいと思うことでしょう。
しかし、既になされた決定内容を変更するには、原則として共有者全員の同意が必要となります(※1)
詳しくはこちら|共有物|『変更』『処分』行為
結局、そう簡単には拘束から脱せないことになるのです。

5 持分譲受人が共有物に関する合意に拘束される具体例

持分を購入した者が、過去の共有者間の合意に拘束される具体例は、購入したけれど共有物(共有不動産)を使えないし、対価ももらえないというような状況です。

持分譲受人が共有物に関する合意に拘束される具体例(※2)

あ 使用方法の合意

建物がA・B・Cの共有となっていた
建物にはAが単独で居住していた
B・Cは無償でAが単独で居住することを承認していた

い 持分譲渡

Cが共有持分をDに売却した
DはAに対して明渡・賠償金を請求した

う 承継

A・B・Dは従前の合意に拘束される
→Aが単独・無償で占有する合意は有効である
Dの明渡・賠償金の請求は認められない

え 変更

A・B・Dの全員が合意しない限り
→『あ』の合意は解消できない(前記※1

6 共有物に関する合意を承継した譲受人の救済手段

前述のように、共有持分を購入した後に、いろいろな負担(債務)を承継したことが分かったケースでは、持分の譲受人を救済する法的手段がいくつかありますので整理します。

共有物に関する合意を承継した譲受人の救済手段

あ 前提事情

(前記※2)の事案において
持分を購入したDは現実的な利益がほとんどない
Cが事前に合意内容をDに説明していなかった
Dとしては想定外の損失を受けた

い 売買契約に関する救済手段

売買契約に問題があったと言える
→DはCに対して次の主張・責任追及をすることができる可能性がある
ア 契約の取消 錯誤・詐欺による取消
イ 説明義務違反→債務不履行責任ウ 契約不適合責任(瑕疵担保責任) 詳しくはこちら|売買契約に関する責任の種類(瑕疵担保・債務不履行・不法行為)

う 共有一般の救済手段

根本的な共有関係からの離脱の手段がある
ア 共有物分割請求イ 共有持分を第三者に譲渡するウ 共有持分を放棄する

7 共有持分譲渡による「紛争の母」召喚(概要)

以上のように、共有持分の譲渡にはいろいろな法律問題(リスク)が伴います。この点、共有持分の譲渡により、従前の共有者間の関係が壊れるということを「紛争の母」と呼ぶ、鋭い指摘もあります。

共有持分譲渡による「紛争の母」召喚(概要)

(共有持分権の自由譲渡により、共有者間の合意(関係性)を維持できないことになることについて)
ついには、共有をして、徒らに、「紛争の母」(mater rixarum)たらしめるばかりでなく、なんら妥当な結果をもたらさないことは、火をみるより明らかである。
※玉田弘毅稿『民法第二五四条の適用が認められた事例』/『法律論叢34巻1号』明治大学1960年p98、99
詳しくはこちら|民法254条(共有者の内部関係の承継)の趣旨・背景

8 共有持分の購入と弁護士法73条違反

不動産の共有持分を購入した場合、通常はそのままでは不動産を使えることにはなりません。占有する共有者や入居者(賃借人)に対して明渡や金銭(賃料相当の損害金)を請求し、さらに状況によっては共有物分割を請求することが前提となっています。
このようなプロセスを繰り返して行う場合、他人の権利の譲り受けとその後の権利の実行として、弁護士法73条違反となることがあります。弁護士法73条に違反すれば、犯罪(刑事罰の対象)になるとともに、取引(共有持分権の売買)も無効となります。
詳しくはこちら|業としての権利の譲受と実行の禁止(弁護士法73条の全体像)

本記事では、共有持分を譲り受けた者が拘束される可能性のある事情、つまり譲受人の負うリスクについて説明しました。
共有持分を取得する際は、多くの法的なリスクが生じるので、十分に把握・理解することが求められます。
共有持分の譲り受け(購入)を予定している方や、これに伴う問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)】
【民法254条(共有者の内部関係の承継)の趣旨・背景】

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