1 担保権『設定』→『譲渡』ではない|原則論
2 抵当権設定×『賃借権譲渡』
3 借地上の建物への担保設定×実務→金融機関は『地主の承諾』を要求する
4 買戻特約付売買×『賃借権譲渡』
5 譲渡担保権設定×『賃借権譲渡』
6 質権設定×『賃借権譲渡』
7 担保権『実行』×『賃借権譲渡』
8 借地権の競売→地主の承諾に代わる裁判所の許可
9 担保権『設定・実行』×『賃借権譲渡』|まとめ

担保権の設定や実行が『賃借権譲渡』に該当するかどうか,について説明します。

1 担保権『設定』→『譲渡』ではない|原則論

『担保権の設定』自体では『所有権の移転』は生じません。
そもそも担保権は,債務が予定どおり完済された時点で消滅することが想定されています。
そこで,担保権の設定は『賃借権の譲渡』には該当しないのが原則です。
一方で『賃借権譲渡による解除』の要件は『第三者の使用・収益』です。
※民法612条2項
実際に占有が移転されたかどうか,ということも判断に影響します。
以下,判例を中心に『担保権設定』と『賃借権譲渡』の解釈について説明します。

2 抵当権設定×『賃借権譲渡』

代表的な担保権である抵当権の設定についての判例を紹介します。

<抵当権設定×占有移転なし→『譲渡』ではない>

借地人が『建物+借地権』に抵当権の設定をした
『使用収益』の状況に変化なし
→『無断譲渡』に該当しない
※最高裁昭和40年5月4日;抵当権のケース

3 借地上の建物への担保設定×実務→金融機関は『地主の承諾』を要求する

借地上の建物への担保設定は『借地権』も担保に含まれます。
『賃借権譲渡』としての『地主の承諾』は不要です(前述)。
しかし,金融機関からの要請で『承諾書が必要』となるのが通常です。

<借地上の建物への担保権設定×金融機関の実務>

借地上の建物に担保を設定して融資を受ける場合
→金融機関が『地主の承諾書』を融資の条件として要求することが多い
詳しくはこちら|借地権への担保設定|土地の抵当権との対抗関係|担保価値相場・地主の承諾書

4 買戻特約付売買×『賃借権譲渡』

担保の方式の1つとして『買戻特約付売買』があります。
詳しくはこちら|買戻特約は非典型担保として使われる|設定・登記・実行・代位行使の方法
これについて『借地権譲渡』との関係が判断された判例があります。

<買戻特約付売買→信頼関係破壊なし>

あ 事案

借地人が『建物+借地権』について『買戻特約付売買』を行った
実質的な担保である
建物の名義人は債権者に移転した
現実的な引き渡しは行われていない=賃借人が占有を継続していた

い 裁判所の判断

解除権は発生しない
※最高裁昭和40年12月17日

5 譲渡担保権設定×『賃借権譲渡』

『譲渡担保』という担保の方式があります。
詳しくはこちら|譲渡担保|設定方法・実行方式|処分清算・帰属清算方式
『譲渡担保の設定』と『賃借権譲渡』の関係についてまとめます。

<譲渡担保権設定→『譲渡』該当性>

占有移転(引渡し) 譲渡=解除事由
あり 該当する
なし 該当しない

※最高裁平成9年7月17日

遅くとも実行の時には地主の承諾が必要となるのです。
承諾に代わる裁判所の許可の制度があります。
この時に申立人・タイミングが問題となります。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可申立・非訟事件|譲渡担保|申立時期・債権者代位

6 質権設定×『賃借権譲渡』

担保の種類の1つとして『質権設定』があります。
質権は不動産を対象として設定することもできます。
この場合における『賃借権譲渡』に該当するかどうかの判断をまとめます。

<質権設定|占有移転あり→『譲渡』に該当する>

あ 前提事情

『賃貸借の対象物=不動産』に質権を設定した
対象物を債権者に引き渡した
↑質権設定のためには引き渡しが必要である
※民法344条,345条

い 裁判所の判断

『無断譲渡』に該当する
※東京地裁昭和50年11月27日

7 担保権『実行』×『賃借権譲渡』

担保権の『実行』の場面で『賃借権譲渡』に該当するかどうかが問題になります。
まずは基本的事項をまとめます。

<担保権実行×占有移転あり→『譲渡』に該当する>

担保権が実行された
→確定的に譲渡・転貸の効力が発生した
→第三者が占有・使用を開始した
→『無断譲渡』に該当する(+背信行為に該当する)

8 借地権の競売→地主の承諾に代わる裁判所の許可

『借地上の建物』について担保権の実行があると『借地権譲渡』に該当します。
なお,担保権実行だけではなく,一般の債務名義による差押→競売の場合も同様です。
競売における『借地権譲渡』については,法律上の救済措置があります。
裁判所が地主に変わって,借地権譲渡の『許可』をする手続です(借地非訟手続)。

<借地上の建物|担保権実行→裁判所の許可制度>

借地上の建物競売→落札者が買い受けた場合
→買受人は『地主の承諾に代わる裁判所の許可』を受けられる
手続は一般の『借地権譲渡許可申立』と基本的に同様である
詳しくはこちら|借地権譲渡|裁判所の許可手続・借地非訟|全体・流れ

9 担保権『設定・実行』×『賃借権譲渡』|まとめ

担保権の設定・実行が『賃借権譲渡』に該当するかどうかの判断をまとめます。

<担保権×『譲渡→解除』|まとめ>

あ 基準

次の両方に該当する場合
→『賃借権譲渡』に該当する
→賃貸人が解除できる

い 2つの要件

ア 形式的な賃借権の移転
例;借地の場合は『建物の所有権』の移転
イ 実質的な賃借権の移転
占有者の変更=引き渡し