1 譲渡許可申立×譲渡担保|申立時期|全体
2 譲渡許可申立×譲渡担保|申立時期|占有移転前
3 譲渡許可申立×譲渡担保|債権者代位
4 借地上の建物×譲渡担保権|設定×『譲渡』

1 譲渡許可申立×譲渡担保|申立時期|全体

借地上の建物に譲渡担保権が設定されていて,これが実行される場合も借地権譲渡と同じ扱いとなります。
そこで,地主の承諾または裁判所の許可が必要になります。
本記事では,譲渡担保権実行の際の借地権譲渡の裁判所の許可の手続について説明します。
まず前提として,地主の承諾に代わる裁判所の許可は,手続の種類によって申立時期が2種類あります。

<譲渡許可申立×譲渡担保|申立時期|全体>

あ 一般の借地権譲渡許可の申立時期

譲渡『前』に申立をする
※借地借家法19条1項
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の申立人と申立時期

い 買受人譲渡許可の申立時期

競売・公売による借地権移転(譲渡)について
譲渡『後』に申立をする
※借地借家法20条1項
詳しくはこちら|買受人譲渡許可の裁判の形式的要件

譲渡担保権の実行は,このどちらにもストレートには当てはまりません。
実際には状況や解釈によって申立時期が決まります。
以下,説明を続けます。

2 譲渡許可申立×譲渡担保|申立時期|占有移転前

譲渡担保権者が目的物の引渡を受けていない(占有移転前)ケースについて説明します。
この時点で譲渡担保権者が借地権譲渡許可の申立をすることは認められません。
そこで,債権者代位によって借地権譲渡許可の申立をするという発想があります。

<譲渡許可申立×譲渡担保|申立時期|占有移転前>

あ 前提事情

借地上の建物に債権者Aが譲渡担保権の設定を受けた
Aは建物の引渡を受けていない

い 占有移転前×自ら申立→否定

建物の引渡・使用・収益の開始前
実質的に『譲渡』があったとは言えない
→Aによる譲渡許可申立を認めない

う 占有移転前×代位による申立→両説あり

認める/認めない見解に分かれている(後記※1

3 譲渡許可申立×譲渡担保|債権者代位

譲渡担保権者が債権者代位により譲渡担保権者が申し立てる発想があります(前記)。
これについては,認める見解と認めない見解の両方があります。

<譲渡許可申立×譲渡担保|債権者代位(※1)

あ 見解|占有移転前→肯定

譲渡担保権を実行する目的
→Aは借地人に代位して譲渡許可申立ができる
A自らが申立をすることもできる
※民法423条
※東京地裁昭和44年2月19日
※荒木新五『判批』判タ649号p51
※西村宏一『実務民事訴訟講座7』日本評論社p214

い 見解|占有移転前→否定

Aによる譲渡許可申立を認めない
※東京高裁昭和42年9月11日
※東京地裁昭和43年9月2日
※大阪高裁昭和61年3月17日
※加藤正男ほか『基本法コンメンタール借地借家法』p217
※鈴木禄弥ほか『新版注釈民法(15)』有斐閣p526

4 借地上の建物×譲渡担保権|設定×『譲渡』

以上のように,借地上の建物に譲渡担保権を設定すると,借地権譲渡許可の裁判を実際に行うことができないリスクがあるのです。
一方,借地上の建物に譲渡担保権の設定すること自体や実行することが無断譲渡にあたるかどうか,という別の問題もあります。
詳しくはこちら|賃借権への担保権の設定・実行は賃借権譲渡に該当するか

本記事では,譲渡担保権の目的物が借地権上の建物であるケースでの裁判所の手続について説明しました。
譲渡担保権の実行は,借地権と関係なくても,いろいろな法律上の規定や解釈があります。
詳しくはこちら|譲渡担保権の設定方法と実行方式(処分清算方式と帰属清算方式)
譲渡担保の目的物に借地権が含まれるとさらに複雑になるのです。
実際に借地上の建物についての譲渡担保権の実行の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。