1 地主の融資承諾書の効力
2 建物に設定された抵当権の弱点(前提)
3 実務における融資承諾書の利用の実情と内容
4 融資承諾書に関する法的問題点の整理
5 解除前の通知義務不履行と解除の有効性
6 解除前の通知義務不履行と損害賠償責任
7 損害賠償責任を否定する特段の事情
8 損害賠償責任の過失相殺
9 建物譲受人から金融機関への融資承諾書の開示請求(参考)

1 地主の融資承諾書の効力

借地人が建物の建築(改築・再築)する資金のために金融機関から融資を受けることはよくあります。この時には通常、建物(と借地権)を担保にすることになります。
金融機関としては、融資する前提として地主の承諾書を要求します。
本記事では、このような地主の承諾書の法的効力について説明します。

2 建物に設定された抵当権の弱点(前提)

最初に、地主の承諾書が必要になるメカニズムを説明します。
金融機関が(借地上の)建物に抵当権の設定を受けると、従たる権利といえる借地権にも抵当権が及びます。仮に返済が滞った場合には、建物と借地権をまとめて競売手続で売却できます。
ただし、借地権は消滅することがあります。例えば、借地人が借地権を放棄した場合や、借地人と地主が合意解除した場合に借地権は消滅します。ただしこれらの場合でも、特別に、抵当権としては借地権は消滅していない扱いとなります。
唯一、抵当権の対象としても借地権が消滅した扱いになるのは、債務不履行解除です。要するに、借地人(賃借人)が地代を支払わない状況で地主が解除する、というものです。
詳しくはこちら|賃貸借の解除を転借人や借地上建物の賃借人に対抗できるか(5準則まとめ)
借地権がない状態で建物だけを競売にしても、売れないか、売れても二束三文となってしまいます。この点、地代滞納の時に金融機関がこれを知れば、金融機関は、競売を申し立てるとともに、売却が完了するまでの期間は代わりに地代を支払う、という対応ができます。
そこで、金融機関としては、地代が滞納になった時には知らせて欲しいのです。

3 実務における融資承諾書の利用の実情と内容

借地上の建物を担保とする際に金融機関が要求する承諾書の内容は、主に、借地人の地代滞納を理由に解除する場合は、その前に金融機関に通知するという条項です。借地権譲渡を承諾する”ことが内容(条項)となっている例もありますが、多くはありません。
このような地主の承諾書(融資承諾書)について、法律上は何も規定されていません。しかし前述のような理由で、金融機関の融資の実務では通常、必要とされています。

実務における融資承諾書の利用の実情と内容

あ 前提事情

土地の賃借人(借地人)が融資を受けようとしている
金融機関は建物(+借地権)に担保を設定することを想定している

い 融資承諾書の差入の要求

金融機関は、地主が融資に関する承諾書を差し入れることを要求している
融資承諾書・地主承諾書・通知義務念書などと呼ばれている

う 融資承諾書の内容

ア 通知義務条項 賃借人に賃料不払いなどの解除事由が生じた時には、地主は土地賃貸借契約を解除する前に、抵当権者にその旨を通知する(義務がある)
滞納賃料を抵当権者が立て替え払いしても異議はない
イ 賃借権譲渡の承諾(概要) 将来、第三者が建物の所有者になった場合にも、当該第三者に土地を賃貸する
※『判例評論630号』2011年8月p167
※第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会編『弁護士法第23条の2 照会の手引 6訂版』第一東京弁護士会2016年p147(後記※4

4 融資承諾書に関する法的問題点の整理

融資承諾書の法律的な扱いについては、大きく2つの問題点があります。まず、仮に事前に金融機関に通知することなく地主が解除した場合に、解除は有効なのかということと、(解除は有効であるとして)金融機関が受けた損害について地主は賠償義務を負わないかということです。

融資承諾書に関する法的問題点の整理

あ 前提事情

借地人が金融機関から融資を受けた
この際、地主は融資承諾書(通知義務条項あり)に調印して金融機関に差し入れた
その後、賃借人の債務不履行(賃料不払いなど)があった
地主が土地の賃貸借契約を解除した

い 解除の有効性

抵当権者が解除は無効であると主張することがある
実際には解除は有効であると判断される傾向が強い(後記※1

う 損害賠償責任の有無

抵当権者が損害賠償を請求することがある
平成22年の最高裁判例により、原則的に賠償義務が認められている(後記※2
※『判例評論630号』2011年8月p168

5 解除前の通知義務不履行と解除の有効性

地主が解除する前に金融機関への通知するという書面に調印したのに、実際には通知せずに解除したという状況で、解除の有効性が問題となるケースがあります。
最高裁判例はありませんが、下級審裁判例ではほぼすべて解除は有効という結論となっています。

解除前の通知義務不履行と解除の有効性(※1)

あ 通知義務あり・解除有効(一般的見解)

通知義務は、抵当権者と地主の間の合意に基づく義務である
→この義務の不履行が賃借人に対する解除権の発生・行使に当然に影響を及ぼすものではない
→事前通知条項違反があっても解除の効果には影響がない
※東京地裁平成7年8月25日
※大阪地裁平成7年10月5日
※東京地裁平成8年3月25日
※東京地裁平成9年11月28日
※『判例評論630号』2011年8月p168

い 通知義務なし(解除有効)

通知義務による地主の負担が大きい
→地主は通知義務を負わない
→事前通知なく解除しても効力に問題はない
※東京地裁平成11年6月29日

6 解除前の通知義務不履行と損害賠償責任

地主が解除する前に金融機関に通知しないで解除した場合に、金融機関が融資承諾書の義務に違反したという理由で損害賠償を請求することがあります。
これについては、平成22年の最高裁判例が統一的見解となっています。
原則として賠償責任が認められます。その上で、個別的な事情によっては責任が否定される、という枠組みです。

解除前の通知義務不履行と損害賠償責任(※2)

融資承諾書による事前通知義務の不履行により抵当権者に損害が生じた時は、損害賠償を請求することが信義則に反すると認められる場合(後記※3)は別として、地主は賠償責任を負う
※最高裁平成22年9月9日

7 損害賠償責任を否定する特段の事情

例外的に地主の損害賠償責任が否定される事情として、平成22年判例は、信義則に反するということしか示していません(前記)。
これについてはまず、金融機関(担保権者)と地主の負担のバランスで判断するということになります。
知識の量が多いかどうか、つまりプロか素人か、ということが大きく影響します。さらに、融資承諾書の提供する対価(手数料)を地主がもらっているかどうか、ということも影響します。
典型的な状況は、抵当権者は金融機関でプロそのものであり、一方の地主は個人として先代から貸地を承継しただけであり、収益の最適化を本格的に考えるような方ではないというものです。ここまで知識レベルに違いがあると、特段の事情がある、つまり、例外的に地主は賠償責任を負わないということになります。つまり、例外が発動する状況は比較的多いといえます。

損害賠償責任を否定する特段の事情(※3)

あ 特段の事情による責任否定の趣旨

融資承諾書にかかる地主・抵当権者間の知識や情報の量および交渉力などの格差是正を図る準則である

い 具体例(格差が大きい)

抵当権者は金融機関であり、地主は金融取引に精通していない個人である
→知識や情報の量、交渉力の格差が大きい
事前通知義務を含む書面の差入を要求する時は、抵当権者は地主に十分な説明をし、その上で書面の複写を地主の手元に残すなど、地主の理解に欠けることのないようにすることが求められる
→地主の理解が不足している場合は特段の事情ありとして地主の賠償責任は否定される
※最高裁平成22年9月9日(宮川光治裁判官の補足意見)参照
※『判例評論630号』2011年8月p169

8 損害賠償責任の過失相殺

地主が融資承諾書の中の事前通知を怠って解除したケースで、賠償責任を負った(例外に該当しなかった)というケースを想定します。
賠償責任があるといっても、抵当権者が受けた損害の全部を賠償する義務があるとは限りません。
もともと、抵当権者は借地契約が解除されるというリスクを負担しています。これを避ける手段の1つが融資承諾書の中の事前通知条項です。ただしあくまでも危険回避策のメインは抵当権者による積極的なアクション(問い合わせ)と考えられています。結局、地主からの事前通知の比重は軽いのです。
そこで、過失相殺として賠償金額は大幅にディスカウントされる傾向があります。
平成22年判例の事案では8割の過失相殺(減額)となっています。

損害賠償責任の過失相殺

あ 情報把握の負担のバランス論

抵当権者は、抵当権の維持のため借地権消滅の危険を把握する必要がある
これは基本的に借地人(債務者)や地主への問い合わせにより行うべきである
地主からの報告に主として依拠すべきではない

い 対価性

融資承諾書の差入(調印)について、地主は対価を得ていない

う 平成22年判例の判断

8割の過失相殺とした(賠償額を8割減額した)
※最高裁平成22年9月9日(原審の判断を維持した)
※『判例評論630号』2011年8月p169参照

9 建物譲受人から金融機関への融資承諾書の開示請求(参考)

以上は、融資承諾書の法的効力についての説明でした。
ところで、実際には、建物の譲受人(や競売による買受人)が、融資承諾書を入手したい、という状況がよくあります。地主が融資承諾書の控えをもっていて、任意に開示してくれればよいですが、通常は地主が借地契約の解除を主張しているなど、協力が期待できない状況であるはずです。そこで、建物の譲受人は金融機関に対して、(地主から取得して保管してある)融資承諾書の開示を求めることになります。金融機関が任意の開示には応じない場合でも、弁護士会照会、あるいは裁判所の手続(文書送付嘱託や調査嘱託)よって開示される、ということもあります。弁護士会照会を用いる場合の記載内容や回答された報告を紹介しておきます。

建物譲受人から金融機関への融資承諾書の開示請求(参考)(※4)

あ 弁護士会照会の内容

ア 照会先 ○○銀行保証株式会社
イ 照会理由(必要性) 依頼者は、貴社申立てによる競売で落札し、建物所有権を取得しましたが、その敷地の賃貸人である相手方が前借地人の地代不払等を理由とする解除を主張しています。
そこで、依頼者は、貴社が抵当権を設定するに際して相手方が借地権の譲渡を承諾していて、「借地権譲渡承諾を伴う借地権」を譲り受けた事実を立証したいと考えています。
前借地人及び相手方のいずれに対しても上記事実を確認できないので、貴社に確認する必要があります。
ウ 照会事項 依頼者は別紙物件目録(略)記載の建物の所有者であり、同建物の敷地所有者である相手方の借地人です。
依頼者は、平成○年○月〇日、前借地人が所有していた別紙建物を、その抵当権者であった貴社の申立てによる競売で落札し、取得しました。
貴社は、別紙建物の敷地の借地権について、相手方より借地権の譲渡を承諾する文書を取得していましたか。
回答に代えて上記文書の写しをご送付頂いても結構です。

い 金融機関の対応の例

上記照会に対しては、照会先から、相手方の「賃借人が将来建物について抵当権を設定することに異議がないこと、賃借人が将来建物を処分し又は抵当権の実行等によって第三者が所有者となった場合にも、その取得者に土地を賃貸すること、地代の滞納等土地賃貸借契約の解除事由が発生した場合には、あらかじめ照会先に通知し無断で契約解除をしないこと、照会先が滞納地代を立替払いしても異議なく、この場合相手方から契約を解除しないこと」の承諾書が送付されました。
※第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会編『弁護士法第23条の2 照会の手引 6訂版』第一東京弁護士会2016年p147

本記事では、借地上の建物の担保設定における地主の融資承諾書の法的効力について説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で、賠償責任の有無や金額が大きく違ってきます。
実際に融資承諾書に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。