1 買戻特約付売買は実質的な『担保』で使われることが多い
2 買戻特約の現実的目的は『担保』or『純粋な売買撤回の確保』
3 『担保目的』の『買戻特約』は『譲渡担保』の扱いとなる
4 買戻特約付売買契約の締結・変更・解除
5 『買戻期間』は最大で10年,定めない場合は5年
6 買戻特約の対抗要件は『登記』
7 買戻権は譲渡できる・登記が譲渡の対抗要件となる
8 買戻権の代位行使
9 買戻権の実行は『買戻金の提供+買戻しの意思表示』
10 買戻権行使と他の権利との調整

1 買戻特約付売買は実質的な『担保』で使われることが多い

民法上『担保物権』が規定されています。
しかし自由度が低いので,他の制度の組み合わせによって『担保の設定』をする方法も考えられてきました。
詳しくはこちら|担保の種類・全体像|典型担保・非典型担保|実行の要件
そのような『非典型担保』の1つに『買戻特約付売買』というものがあります。
本記事では『買戻特約』についての基本的事項を説明します。
まずは法的性質・概要をまとめます。

<『買戻特約付売買』の概要>

あ 概要

ア 法形式
売主に解除権を留保する特約付きの不動産売買
イ 具体的な動き
いったん不動産を『売却』する
売主(元所有者)に資金が用意できたら返済する→不動産が返還される

い 要件

目的物が不動産である
売買契約と同時に買戻特約がなされた
買戻しを行うには,代金・契約費用を返還する

『買戻特約』は,分類上,『約定解除』の1つとなります。

<講学上の分類|『約定解除』=民法540条>

解約手付 民法557条
買戻特約 民法579条

2 買戻特約の現実的目的は『担保』or『純粋な売買撤回の確保』

(1)買戻特約の現実的目的は2種類ある

買戻特約が使われる場面・現実的な機能は主に『債権担保』です。
それ以外に『純粋に撤回を確保する』というものもあります。

<『買戻特約』の現実的な機能>

ア 債権担保目的→譲渡担保の扱い
イ 純粋な『売買撤回』の確保

(2)買戻特約が『純粋な売買撤回』で使われる具体例

買戻特約が『純粋な売買撤回目的』で使われるレアなケースを紹介します。

<『売買撤回』確保目的の『買戻特約』の例>

公団・公社が宅地を分譲する時に,特定の契約条件を定める
→分譲を受けた者がこれに違反した場合に解消する
違反行為の例=使用方法・転売禁止
※新住宅市街地開発法33条など

3 『担保目的』の『買戻特約』は『譲渡担保』の扱いとなる

買戻特約は主に『担保目的』で使われます。
この場合,『譲渡担保』という別の概念(扱い)との関係が問題になります。
いろいろな説がありますが,判例上統一されるに至りました。

<買戻特約と譲渡担保の関係>

あ 基本的な判断

『担保目的』であれば広く『譲渡担保』に含めて扱う

い 『債権担保目的』の判断基準

占有の移転を伴わないものは特段の事情がない限り『債権担保目的』と推認する

う 『特段の事情』の例

賃貸借契約が担保目的以外の特別な理由で締結された
※民法579条後段
※最高裁平成18年2月7日

要するに『譲渡担保』と同様に,実行の際に一定の『清算』が必要になります。
買戻特約については条文上,清算の大枠が規定されています(後述)。
詳しくはこちら|譲渡担保|設定方法・実行方式|処分清算・帰属清算方式

4 買戻特約付売買契約の締結・変更・解除

『買戻特約』は,文字どおり『特約』です。
メインとなる『売買契約』に付随する関係となります。
そして,買戻特約は『売買契約と同時に』する,ということが法律上規定されています(民法579条1項)。
この『同時』に関する判例の判断を紹介します。

<売買契約『後』の買戻特約>

条文規定から有効とはならない
ただし,『再売買予約』として有効
※大判明治33年10月5日

<事後的な買戻特約の『内容の変更』>

同一性がある限りは有効
※大判大正11年5月5日

<買戻特約のみの解除>

売買契約だけが残る(影響なし)
※大判大正10年3月31日

5 『買戻期間』は最大で10年,定めない場合は5年

『買戻特約』については『買戻しができる期間』について民法上,明確な規定があります。

<『買戻期間』>

あ 設定できる最大

10年間

い 約定による扱い
約定内容 適用される期間
10年以上を約定 10年
期間の定めなし 5年

※民法580条1項,3項

6 買戻特約の対抗要件は『登記』

買戻特約は『登記』をするのが通常です。
『登記』が『対抗要件』となっているのです。

<買戻特約の登記>

あ 買戻特約の対抗要件

登記
※民法581条

い 登記事項

ア 代金額
イ 契約費用
ウ 買戻期間
不動産登記法96条

う 対抗力

第三取得者に対して買戻特約を主張(行使)できる

<第三取得者に対する買戻権の行使>

第三者が所有権登記を得ている場合

買戻権は第三取得者に対して行使する
売主(元の所有者)に対して行使しても効力なし
※最高裁昭和36年5月30日
※大判明治39年7月4日

詳しくはこちら|対抗要件のまとめ|登記・登録・明認方法など

7 買戻権は譲渡できる・登記が譲渡の対抗要件となる

『買戻権』は,一般的な権利(債権)として譲渡することが認められています。
そして,譲渡の対抗要件は『登記』です。

<買戻権の譲渡→買戻権行使>

あ 買戻権譲渡の可否

可能
買主の承諾は不要
※大判明治38年3月10日

い 対抗要件

登記
買主に対する通知は不要
※大判大正11年12月21日

う 譲受人が『買戻権行使』をした場合の効果

譲受人に直接,不動産所有権が帰属する
※大判明治41年7月8日
※大判大正8年5月24日

8 買戻権の代位行使

『買戻権』を行使するのは通常は『売主=買戻権者』です。
この点,『買戻権者の債権者』が『代位行使』することも認められています。

<買戻権の代位行使>

あ 代位行使の概要

『売主=買戻権者』の債権者が行使する
※民法423条

い 実質的な『代位行使』の目的・メリット

『対象不動産の現在の価値』と『代金+契約費用』の差額
→これを債権回収の対象とする
※民法582条

ところで『買主』も『買戻権者』に対する『債権者』です。
つまり『代位行使』は『買戻権者の債権者』同士が関与する手続なのです。
そこで『金銭の支払』によって解決を簡略化する方法が用意されています。

<『買主』の対抗手段>

あ 鑑定人選任申立

裁判所が鑑定人を選任する
※非訟事件手続法84条

い 支払→買戻権の消滅

『現在価値』と『代金+契約費用』の差額(上限)を債権者に支払う
→買戻権が消滅する

う 『差額』全額を支払わない場合

『差額A』よりも『債権額B』が小さい場合
→(AとBの)差額を『買主』が『売主』に返還する
※我妻栄 民法講義V2 p335

このような『清算』については,『譲渡担保』の性格が反映されていると言えます。

9 買戻権の実行は『買戻金の提供+買戻しの意思表示』

(1)買戻権の実行の方法

『売主=買戻権者』が『金銭を用意できた』場合は,担保物を取り戻すことができます。
法律上『買戻権の行使』ということになります。

<買戻権の実行>

あ 買戻権の実行の方法

買戻金の提供+買戻しの意思表示(買主に対して)
※大判明治41年2月21日

い 買戻金

代金額+契約費用
※民法583条

『契約費用』の解釈は細かい部分でいくつかの説があります。
判例などの有力(再現性が高め)なものをまとめます。

<『契約費用』の内容>

目的物の測量・鑑定費用,証書作成費用など
買主が支出した登記費用・登録免許税を含む
※民法558条
※大判大正7年11月1日
※柚木=高木編・新版注釈民法(14)p441

買戻しを行った場合,不動産の登記も戻すことになります。

<買戻権実行と登記>

あ 同時履行ではない

『買戻金の提供』と『不動産の引渡・登記』は同時履行ではない
※大判大正10年9月22日

い 登記の目的|抹消or移転

『抹消』ではなく『所有権移転登記』とする(再売買と同じ扱い)
※大判明治37年6月15日

(2)買戻権実行と付随的な清算

買戻権を実行した時には『代金額+契約費用』というメインのもの以外にも付随的な清算が必要となります。

<買戻権実行と清算>

あ 費用償還

『占有者の費用償還』が適用される
※民法583条2項,196条

い 果実vs利息→相殺

不動産の果実・代金の利息は相殺されたものとみなす(条文)
→この『相殺』は『対当額』とは関係なく『解消・消滅する』という意味
※民法579条後段

一般的な『解除』の場合は,『利息・果実』も返還するのが原則です(民法545条2項)。
買戻しの場合は,簡略化のために相互に請求しないこととされているのです。

10 買戻権行使と他の権利との調整

買戻権行使をすると『遡及的に』売買契約が解消されます。
そうすると『買主』が行った,用益権・担保権などの権利設定が『無効』となります。
ただし,一定の範囲で例外=賃借権の保護,が規定されています。

<買戻権行使と他の権利との調整>

あ 買戻権行使の効果;原則

買主・第三取得者が設定した用益権・担保権は遡及的に消滅する
※大阪高裁昭和53年4月10日(抵当権につき)

い 例外

ア 『登記をした賃借人』
→1年限定で存続する
イ 詐害目的の場合
→主張できない=消滅する
※民法581条2項

買戻特約の対象が不動産の『共有持分』の場合は,また別に特殊なルールがあります。
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