1 相続放棄者の管理義務
2 相続放棄者の管理義務の条文規定
3 相続放棄者の管理義務の趣旨と法的性質
4 相続放棄者の管理不備による賠償責任
5 相続放棄者は別の法的責任を負うこともある
6 相続放棄者は管理引継or相続財産管理人選任をすべき

1 相続放棄者の管理義務

相続放棄をした者は,相続人ではないものとして扱われます。
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)
要するに,まったく関係のない赤の他人と同じことになるのです。
しかし,一定の範囲で相続財産の管理義務があります。
本記事では,相続放棄をした者の管理義務について説明します。

2 相続放棄者の管理義務の条文規定

相続放棄をした者の管理義務を規定する条文の内容を整理します。

<相続放棄者の管理義務の条文規定>

あ 管理継続義務

相続の放棄をした者は
その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで
自己の財産におけるのと同一の注意をもって
その財産の管理を継続しなければならない
※民法940条1項

い 家裁による保存に必要な処分(概要)

家庭裁判所は,利害関係人or検察官の請求によって
いつでも,相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる
詳しくはこちら|相続財産の管理(相続人による管理と家裁による保存に必要な処分)
※民法940条2項,918条2項

3 相続放棄者の管理義務の趣旨と法的性質

相続放棄の後も相続財産に関する義務が残っているのは非常に特殊な状態です。
これは,原則どおりに管理から解放してしまうと実際に弊害が生じることを回避する趣旨なのです。

<相続放棄者の管理義務の趣旨と法的性質>

あ 熟慮期間の管理義務(前提)

一般的な相続人の相続財産管理義務について
相続放棄によって終了する
※民法918条1項
詳しくはこちら|相続財産の管理(相続人による管理と家裁による保存に必要な処分)

い 相続放棄後の管理者不在の不都合

相続放棄の後,次の管理義務者による管理が始まるまでの間について
管理者不在となった場合『ア〜エ』のような者が害される
ア 他の相続人
イ 次順位相続人
ウ 相続債権者
エ 受遺者

う 管理義務の継続

『い』の不都合を回避するために
例外的に『あ』の管理義務が継続する

え 法的性質

一種の事務管理(民法697条)に基づくものである
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)相続(2)補訂版』有斐閣2013年p634

4 相続放棄者の管理不備による賠償責任

相続放棄をした者が前記の管理義務を負っている時に,義務の懈怠があると,賠償責任を負うことがあります。

<相続放棄者の管理不備による賠償責任>

あ 義務の懈怠(要件)

相続放棄者が相続財産管理の注意義務を怠った
これにより相続人に損害を与えた

い 賠償責任

相続放棄者は損害賠償責任を負う
※我妻栄編著『判例コンメンタール8 相続法』日本評論社1966年p211
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(27)相続(2)補訂版』有斐閣2013年p635

5 相続放棄者は別の法的責任を負うこともある

前記の管理義務は,相続人に対する義務であると解釈されています。
そこで,一般的には賠償責任は相続人に対して負うことになります。
一方,相続財産の管理の不備によって相続人以外の第三者が損害を受けた場合に責任が生じない,というわけではありません。
管理責任を前提にして,土地工作物責任や一般的な不法行為責任を負う可能性は十分にあります。
詳しくはこちら|土地工作物責任の全体像(条文規定・登記との関係・共同責任)
 詳しくはこちら|竹木の管理不備による占有者・所有者の責任の解釈と具体例
少なくとも,相続放棄者が民法940条以外の責任を負わないという規定や解釈はありません。
また,登記の名義によっては,相続放棄をした者であっても固定資産税が課せられることもあり得ます。
詳しくはこちら|固定資産税の賦課期日や建物の新築基準時点と台帳課税主義

6 相続放棄者は管理引継or相続財産管理人選任をすべき

以上のように,相続放棄をした者であっても,いろいろな法的責任から解放されるわけではないのです。
実際には,相続放棄をしたら,残る相続人に通知して管理を引き継いで,管理責任を終了させるとよいでしょう。
相続人が存在しない状態になった場合は,相続財産管理人に管理を引き継ぐことになります。
そのためには,家庭裁判所に相続財産管理人の選任の申立をすることが必要です。
詳しくはこちら|相続人不存在のケースで相続財産管理人の選任を請求できる者