1 相続に関する登記|実務的なリスク・申請タイミングの最適化
2 遺留分減殺請求を行う準備→法定相続登記が望ましい
3 遺留分減殺請求×遺言による登記|遺留分権利者はリスクが生じる
4 遺言で不動産を承継した者×登記|早めの登記が望ましい
5 遺産分割手続進行中×法定相続登記|リスク回避策
6 遺産分割手続進行中×法定相続登記|デメリット
7 遺産分割手続進行中×法定相続登記|まとめ

1 相続に関する登記|実務的なリスク・申請タイミングの最適化

相続による財産の承継は,対立状況・規模・手続によっては時間を要します。
最終的に確定するまでに数か月,あるいは数年単位で要することもあります。
一方,相続に関する不動産登記は法解釈や方法などがいくつもあり複雑です。
登記のタイミングや方法自体が全体を見通した検討・戦略の重要な1項目です。
付随的な事項だと思ってしっかり考慮しない弁護士も存在するようです。
しかし,判断1つが,実際の交渉や裁判の結果に大きい影響が生じることもあります。
本記事では次のテーマについて説明します。

<相続に関する登記・実務的な検討事項>

あ 遺留分減殺請求×法定相続登記
い 遺言による登記×法定相続登記
う 遺産分割手続中×法定相続登記

なお,前提となる原則的な相続(法定相続)の登記に関しては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|一般的な相続(法定相続)では対抗関係は生じず登記義務が承継される
また,相続登記自体をしないままにしておくリスクも別に説明しています。
詳しくはこちら|n次相続×遺産分割協議|関係の薄い者が参加→合意困難になる

2 遺留分減殺請求を行う準備→法定相続登記が望ましい

遺留分減殺請求を行う場合の実務的な準備行為について説明します。
対象の相続財産に不動産が含まれている場合の登記に関する手続です。

<遺留分減殺請求×法定相続登記>

あ ベスト=法定相続登記を行う

ア 法定相続登記
登記上は被相続人名義のままである場合
→相続人のうち1人が単独で申請可能である
遺言の有無・遺留分侵害の有無は関係ない
イ 『相続登記禁止の仮処分』
これは認められない

い 法定相続登記|理論的な効果

合意・調停成立・判決確定などがない限り
→相手が『更正・移転登記』をできなくなる

う 法定相続登記|実務的な効果

ア 『同時履行』の担保となる
イ 交渉における有利なポイントの1つとなる

まだ相手が『遺言による相続登記』を行っていない段階でしかできない予防策です。

3 遺留分減殺請求×遺言による登記|遺留分権利者はリスクが生じる

遺留分減殺請求を行使する前に,相手が『遺言による登記』を済ませてしまうことも多いです。
この場合の法的な状況を整理します。

<遺留分減殺請求×遺言による登記|概要>

あ 遺言による登記がなされた後の状態

『法定相続登記』はできない
合意・和解成立・判決確定に至れば移転登記ができる

い リスク=第三者への移転登記

『第三者への移転』が優先されることがある

第三者の権利取得時期 優劣の判断
減殺請求『前』の第三者 善意であれば優先される
減殺請求『後』の第三者 登記により優劣が決まる
う リスク回避策

減殺請求と同時に『処分禁止の仮処分』を行う

このように一定の法的リスクが生じてしまうのです。
減殺請求と譲渡のタイミングとの関係は別に説明しています。
リスク回避策についても含めて,まとめて説明しています。
詳しくはこちら|遺留分vs第三者保護|全体|減殺請求『前/後』|実務的初動

4 遺言で不動産を承継した者×登記|早めの登記が望ましい

遺言で不動産を承継・取得することがあります。
この場合,早めに登記を終えないと一定の法的リスクが生じます。

<遺言で不動産を承継した者×登記>

あ ベスト=単独登記申請を行う

承継した相続人が単独で登記申請をできる

い 法定相続登記がなされた後の状態

ア 登記妨害状態
『遺言による相続登記』はできなくなる
イ 他の相続人から取得した者(転得者)との関係
原則的に『遺言により承継した相続人』が優先される
特殊事情によりごく例外的に『転得者が優先』となる
詳しくはこちら|一般的な相続(法定相続)では対抗関係は生じず登記義務が承継される

う リスク回避策

処分禁止の仮処分を行う

5 遺産分割手続進行中×法定相続登記|リスク回避策

遺産分割の協議・調停・審判などである程度長い期間がかかることがあります。
この場合,完了までの間に相手が単独で『法定相続登記』をする可能性があります。
その場合の法的な状況・リスクとその回避策をまとめます。

<遺産分割手続進行中×法定相続登記|リスク回避策>

あ 法定相続登記後の取得者との関係

相続人の1人が不動産を第三者に譲渡した場合
→『取得した者(第三者)』と『他の相続人』は対抗関係となる
→第三者が登記を得れば優先される

い リスク回避策

ア 法定相続登記禁止の仮処分
これは認められない
イ 法定相続登記+処分禁止の仮処分
家裁の『審判前の保全処分』として行うことができる

6 遺産分割手続進行中×法定相続登記|デメリット

遺産分割の手続が進行中に『法定相続登記をしておくべき』状況もあります(前述)。
とは言っても,法定相続登記を必ずしておくべき,というわけではありません。

<遺産分割手続進行中×法定相続登記|デメリット>

あ 相続人の債権者が差押をしやすくなる

もともと相続人の債権者は『法定相続登記+差押登記』が可能
『代位の登記』として特に難しいものではない
『法定相続登記』が完了している場合
→債権者が差押のために要する手続の手間が省ける

い 登録免許税が重複してかかる

事後的に遺産分割が完了した時点で改めて登記が必要になる
→『事後的な移転』について登録免許税が課される

7 遺産分割手続進行中×法定相続登記|まとめ

遺産分割の手続中に『法定相続登記』をすべきかどうか,についてまとめます。

<遺産分割手続進行中×法定相続登記|まとめ>

あ 遺産分割手続がある程度円満に進んでいる場合

法定相続登記をしないままでも良い

い 対立が熾烈である場合

法定相続登記+処分禁止の仮処分を行う