1 内縁の夫婦の死別における不動産所有権のない内縁者の居住の保護
2 死別における残された内縁者の居住(基本)
3 死別後の内縁者の居住を保護する解釈
4 使用貸借を認めた裁判例
5 使用貸借の終了リスク
6 明渡請求を権利の濫用とした判例
7 重婚的内縁関係と権利濫用
8 内縁関係への財産分与の類推適用(概要)
9 内縁者の共有持分の認定
10 内縁者への配偶者居住権の適用
11 建物賃借人が亡くなった後の内縁配偶者の保護(参考)
12 内縁者の居住トラブルの予防法
13 内縁の妻への土地建物の生前贈与の事例(参考)

1 内縁の夫婦の死別における不動産所有権のない内縁者の居住の保護

内縁の夫婦の住居が夫の単独所有としてあることはよくあります。このようなケースで,夫が亡くなると,内縁の妻は(夫の)相続人から退去を求められることになります。
原則論としては,退去しなくてはならないのですが,このような状況を救済するような解釈があります。
本記事では,死別によって残された内縁者(内縁の配偶者)が,所有権や共有持分を持たないケースについて,居住が保護されるかどうか,という問題について説明します。
なお,もともと住居が内縁の夫婦で共有となっていたケースについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|内縁の夫婦の一方が亡くなると共有の住居は使用貸借関係となることがある

2 死別における残された内縁者の居住(基本)

最初に原則論を押さえておきます。
内縁者(内縁の妻)は相続権がないので,相手方(夫)のもっていた財産を相続によって承継する(取得する)ことはできません。不動産(住居)を承継するのは相続人です。実際によくあるのは,亡くなった方の子です。
相続人が不動産の所有者なるので,居住している者(内縁の妻)に対して明渡請求や賃料に相当する金銭の請求をすることができます。つまり,内縁の妻は不動産を退去しなくてはならないし,退去するまでの間は家賃分の金銭を払い続けないといけないのが原則です。

死別における残された内縁者の居住(基本)

あ 前提事情

ABは内縁の夫婦であった
A名義で不動産(住居)を所有していた
ABが同居していた
Aが亡くなった
Aには(前妻との間の)子Cがいる(Cが相続人である)

い 原則論

Bは相続権を持たない
詳しくはこちら|婚外子として子供を持つ家族(事実婚・内縁など)の普及と社会の変化
不動産は相続人であるCが承継する
Cは所有者として,Bに対して明渡請求,金銭の請求をすることができる(Cは退去しなくてはならない)
※古川瓔子稿『事実婚・内縁の死亡解消における居住権と夫婦財産制』/『岡山大学法学会雑誌 第68巻第3・4号』2019年3月p333参照

3 死別後の内縁者の居住を保護する解釈

実際には,死別で残された内縁の妻の居住を保護する理論があり,結果的に内縁の妻は退去や金銭の支払をしなくて済むことが比較的多いです。ここで用いる理論(解釈)にはいろいろなものがあります。
無償で住居を使うことができるという使用貸借契約を認める方法,相続人による明渡請求を権利の濫用として否定する方法,(死別ではなく)協議によって離婚(内縁解消)したものとして,その清算として不動産を内縁の妻に与える方法,内縁の妻に共有持分を認める方法や,平成30年改正で作られた配偶者居住権を用いる方法などです。
それぞれの解釈について,採用される傾向は違いますし,もちろん個別的な事案によっても認められる見込みは違ってきます。

死別後の内縁者の居住を保護する解釈

あ 使用貸借

残された内縁者は住居を無償で使用できることにする救済方法(後記※1

い 権利の濫用

相続人による明渡請求を権利の濫用として否定する救済方法(後記※2

う 財産分与の類推適用

死別ではなく,生前の内縁解消と同じように扱う,つまり,内縁解消に伴う財産分与として,残された内縁者に住居の権利(所有権)を与える救済方法
現在ではこの解釈を否定するのが一般的である(後述)

え 共有持分推定(認定)

残された内縁者が共有持分権(所有権)を持つと解釈する救済方法
経済的な貢献・関与の程度が大きい場合に認められることがある(後記※4

お 配偶者居住権の類推適用

民法の平成30年改正により作られた配偶者居住権を内縁者にも与える救済方法
一般的には否定される傾向にある(後記※5
※古川瓔子稿『事実婚・内縁の死亡解消における居住権と夫婦財産制』/『岡山大学法学会雑誌 第68巻第3・4号』2019年3月p333

4 使用貸借を認めた裁判例

前述の救済方法のうち,使用貸借契約(無償使用の合意)を認める解釈は比較的採用されやすいです。
この理論は,不動産が内縁の夫婦の共有であったケースについて,平成10年に最高裁が採用した解釈です。その後,多くの裁判例が,(共有ではなく)夫の単独所有のケースについても同じ解釈を採用してきています。

使用貸借を認めた裁判例(※1)

あ 身分的合意に付随する使用貸借

・・・別段の合意のあるばあいのほか,内縁の夫の死亡(内縁の妻の生存中にその夫が死亡したばあい)を停止条件とし,その妻の死亡を終期,その不行跡その他特段の事由の存在を解除条件として,夫婦生活の本拠であつた家屋を妻に無償で使用収益させる合意(使用貸借)が内縁関係そのものの身分的合意に付随して,夫婦間に存するものというべく・・・
※大阪地判昭和37年11月30日

い 特定の状況による使用貸借の認定

そうすると,本件B申渡しのあった平成一六年ころには,B(夫)と被控訴人(内縁の妻)との間で,黙示的に,被控訴人が死亡するまで本件建物を無償で使用させる旨の本件使用貸借契約が成立していたものと認めるのが相当である。したがって,被控訴人の上記主張は理由がある。
※大阪高判平成22年10月21日

う 建物取得への寄与などによる無償使用合意の認定

・・・本件土地建物の購入資金は,このような被告(内縁者)の援助によって得られた亡A(内縁者)の収入から支払われていたことが認められるのであって,これらの事実からすれば,被告は,亡Aの本件建物の取得について共有持分取得に相応する程度の寄与をしていると評価できる。
以上の諸点を考慮すれば,亡Aが,自身が先に死亡した場合に本件建物が原告や訴外Bの管理に委ねられ,被告が本件建物から出て行くことになるなどということを想定していたとは考えられず,自分の死後は当然被告が本件建物を単独で無償使用することを想定していたと考えるのが合理的であり,被告と亡Aの間ではかかる合意が黙示に成立していたものと認めるのが相当である。
※名古屋地判平成23年2月25日

え 平成10年判例(共有のケース・参考)

内縁の夫婦がその共有する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは,特段の事情のない限り,両者の間において,その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である
※最判平成10年2月26日
詳しくはこちら|内縁の夫婦の一方が亡くなると共有の住居は使用貸借関係となることがある

5 使用貸借の終了リスク

前述の,使用貸借契約を認める解釈が採用されれば,内縁の妻は無償で住居を使用できることになります。退去しなくてよくなります。
しかし注意が必要です。使用貸借の期限が定められていない(裁判所が定めなかった)場合は,どこかの時点で,解約(契約終了)と認められるリスクが残ります。どの時点で終了となるのか,ということについては明確な基準がないので予測がつきにくいのです。
一方,内縁の妻が亡くなるまでという期限が定められれば居住(生存)している限り契約は終了にはなりません。安心ではありますが,仮に,所有者(相続人)が第三者に不動産を売却してしまうと,その第三者(買主)は原則として使用貸借契約を引き継がないので,明渡を請求することができるようになってしまいます。

使用貸借の終了リスク

あ 期限の認定なし

使用貸借の期限が定められていない(と判断された)場合
→「相当期間」経過後といえれば契約終了となる
※民法597条2項
建物の「相当期間」の判断基準として明確なものはない
詳しくはこちら|建物の使用貸借における相当期間を判断した裁判例
居住期間がある程度長くなった時点で契約終了となるリスクがある

い 期限の認定あり

ア 原則 たとえば「内縁者死亡まで」という期限が定められた(と判断された)場合
内縁者が亡くなるまでは使用貸借契約は終了しない(退去しなくてもよい)
イ 例外 使用貸借の存続中に所有者(相続人)が第三者に当該不動産を売却した場合
新たな所有者(買主)は,居住する内縁者に明渡請求をすることができる(退去しなくてはならなくなる)

6 明渡請求を権利の濫用とした判例

相続人からの明渡請求を権利の濫用であるとして否定してしまう判断も比較的よく採用されます。
広い範囲で個別的な事情を考慮して,退去させることが著しく不合理であるといえる場合に権利の濫用として認められることになります。

明渡請求を権利の濫用とした判例(※2)

XおよびY間の身分関係,甲建物をめぐる右両者間の紛争のいきさつ,右両者の甲建物の各使用状況およびこれに対する各必要度等の事情につき,原審がその挙示の証拠により確定した事実関係に照らせば,Yに対するXの甲建物明渡請求が権利の濫用として許されない
※最判昭和39年10月13日
※東京地裁昭和39年10月9日(同趣旨)
※東京地裁平成2年3月27日(同趣旨)
※東京地裁平成9年10月3日(同趣旨)

7 重婚的内縁関係と権利濫用

ところで,内縁の夫婦の死別の実際のケースで法律婚の妻がいるというケースもあります。
このような場合は,重婚(いわゆる不倫)の状況ということになります。そこで,重婚・不倫をした者に対して明渡請求をするのは不合理ではない(権利濫用ではない)と考えることもできます。
しかし実際には,夫と(法律婚の)妻は長年連絡すらしていないというケースも比較的多いです。たとえば,過去に離婚の話し合いをしたけれど,妻が強硬に拒絶して決裂したため,結果的に戸籍上夫婦として残っているだけ,ということもあります。長年の間,法律婚の妻(や子)がクレームをつけることもない(意識すらしていない)ような状況が続いていれば,形式的な重婚であっても,それほど批判するような関係とはいえないので,通常どおりに権利の濫用を採用する方向となります。平成23年名古屋地判では,内縁の夫婦の両方がそれぞれ戸籍上は別の配偶者がいました。それでも明渡請求を権利の濫用として否定するという判断になっています。

重婚的内縁関係と権利濫用

あ 裁判例

上記の事情を総合すると,亡A(内縁者)が死亡するまで,亡Aと訴外Bの生活を知ろうと思えば知り得たが敢えてこれを知ろうとせずに放任し,同人らの労働によって得られた収入から生活費を受領して育てられ,亡Aを責めることもしていなかった原告(Aの子)が,亡Aが死亡した段階になって,突然,被告(内縁者)の権利をすべて否定し,本件建物の明渡し及び賃料相当損害金を要求することは,被告が訴外Bの法律上の妻としての権利を侵害している事実を考慮してもなお,権利の濫用として許されないというべきである。
※名古屋地判平成23年2月25日

い 重婚的内縁関係への法律婚の規定の適用(参考)

重婚的内縁関係には,法律婚の規定のうち,適用されるものとされないものがある
詳しくはこちら|重婚的内縁関係にも適用される法律婚の規定と適用されない規定がある

8 内縁関係への財産分与の類推適用(概要)

内縁の妻の居住を保護する救済策のひとつとして,財産分与の類推適用があります。
もともと,内縁の夫婦でも,話し合って別れる(内縁関係を解消する)場合には,法律婚と同じように財産分与として財産の清算を行います。
一方,死別の場合は,内縁の妻は相続権がない(法律婚と同じことにはならない)ので財産の清算が行われません。
このふたつのバランスがとれていないので,バランスをとるために,死別でも(生前の別れと同じように)財産分与を適用するという考え方があるのです。以前はこの解釈を採用する裁判例もあったのですが,平成12年の最高裁判例が否定しました。そこで,現在ではこの方法は採用されなくなっています。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|内縁関係の死別における相続権・財産分与の適用の有無

9 内縁者の共有持分の認定

内縁の妻の居住を保護する解釈のひとつとして,共有持分を認めるというものがあります。
内縁の妻は相続権がないので,亡くなったことにより(相続により)共有持分を得ることはありません。そうではなく,最初から(夫の生前から)実は内縁の妻も共有持分(所有権の一部)を持っていた,という認定です。登記が夫の単独所有であっても,それは対外的なものであり,実質的には内縁の夫婦の共有だった,と認定するのです。一般論として,近親者の間では,実質的な権利と登記と一致させない(一致していないと判断される)ことはそれほど珍しいことではありません。
内縁の妻に共有持分が認められれば(共有者となれば),退去する必要はなくなります。
詳しくはこちら|内縁の夫婦の一方が亡くなると共有の住居は使用貸借関係となることがある
ただ,共有持分が認められるためには,実質として,購入資金を負担したというような事情が必要です。とはいっても,共働きで住宅ローンを支払ったというようなものも含めて判断されます。
なお,内縁の夫婦間の共有関係を認定する,という枠組みは,法律婚(の夫婦)でも同じです。実際に(内縁・法律婚の)夫婦間の共有を認めた裁判例はいくつもありますが,明確な基準というものは見いだせません。

内縁者の共有持分の認定(※4)

あ 否定した裁判例

被告が亡Aの生活や事業に協力したことのみから直ちに被告が共有持分を取得しているとまでは言えず,ほかに被告が共有持分を取得したことを認めるに足りる証拠はない。
※名古屋地判平成23年2月25日

い 肯定した裁判例(法律婚のケース・参考)

法律婚の夫婦が不動産(住居)を購入した
夫の単独所有名義にした
実質的には,共働きで得た収入を購入代金にあてた
夫が亡くなった
→共有にする意思であったと認定し,残された妻の共有持分(2分の1)を認めた
※大阪家審昭和40年3月23日
詳しくはこちら|共有であるかどうか・持分割合の認定(民法250条の推定・裁判例)

10 内縁者への配偶者居住権の適用

最後に,平成30年の民法改正で新たに作られた配偶者居住権内縁の妻にも適用する,という解釈もあります。これが認められれば,長期であれば亡くなるまで,短期であれば一定期間に限り,居住することが可能になります。
ただし,条文上「配偶者」と規定されています。内縁の妻への(類推)適用を認める見解も提唱されていますが,一般的には否定される傾向があります。

内縁者への配偶者居住権の適用(※5)

あ 配偶者居住権(前提)

平成30年の民法改正により,遺産分割のひとつとして,遺産の中の不動産に配偶者が居住する権利を設定する方法が新設された
詳しくはこちら|遺産分割における用益権設定による分割(現物分割の一種)

い 文理解釈

配偶者居住権の条文(民法1028条,1037条)は(被相続人の)「配偶者」と規定している
内縁・事実婚,同性婚などは適用除外としている

う 短期居住権に類推適用を認める見解

短期居住権(民法1037条)は婚姻の効果であると考えられ,類推適用が可能であると思われる。
これに対して,長期居住権(民法1028条)は,長期居住権の財産的価値に相当する価額を相続したものとして,生存配偶者の具体的相続分から控除することになるので,相続権のない内縁者への類推適用は困難のように思われる。
※古川瓔子稿『事実婚・内縁の死亡解消における居住権と夫婦財産制』/『岡山大学法学会雑誌 第68巻第3・4号』2019年3月p330

11 建物賃借人が亡くなった後の内縁配偶者の保護(参考)

本記事では,内縁の夫婦の一方が不動産を所有していたケースを前提としています。この点,内縁の夫婦の一方が建物の賃借人となっていた,つまり内縁の夫婦が賃貸物件に住んでいたケースでも,同じように,内縁配偶者を保護する解釈が使われます。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物賃借人が亡くなった後の内縁配偶者の居住の保護

12 内縁者の居住トラブルの予防法

以上のように,内縁の配偶者が住居(不動産)の権利を持っていないケースでは,死別の際,居住を保護するには,例外的な法的な主張を行わなくてはならなくなります。しかも,それが認められるとは限りません。
そこで,このような状況にならないように,事前(生前)に,遺言作成,生前贈与や死因贈与契約として,内縁の配偶者に所有権が渡るようにしておくことが好ましいです。本記事の以上の説明は,このような予防策がないことを前提としています。

13 内縁の妻への土地建物の生前贈与の事例(参考)

最高裁判例の中に,生前(亡くなる直前)に,内縁の配偶者に不動産を贈与したというケースがあります。前述の予防策のひとつです。
なお,このケースでは,契約書の作成はしたけれど登記はしていなかったため,相続人が贈与契約を取り消すという主張をしたので,これが問題となっています。結果としては,裁判所は引渡(占有移転)があったと認定し,(履行完了となるので)取消を否定しました。

内縁の妻への土地建物の生前贈与の事例(参考)

原判決が確定した事実によると,被上告人は昭和二七年七月末ごろ駐在巡査の媒酌により亡吉田源吾と婚姻の式をあげ,爾来内縁の夫婦として本件家屋において同棲してきたところ,右源吾は昭和三四年一月九日癌のため入院し,病状からして到底助からないことを覚悟するに至り,同月一八日被上告人に対し本件家屋を土地とともに贈与し,その際,該土地家屋の買受に関する契約書をその実印とともに被上告人に交付し,その後,同年三月九日源吾は死亡するに至つたというのである。
このような事実関係のもとにおいては,右贈与がなされるまでは被上告人の本件家屋に居住する法律関係は,源吾の占有補助者としての立場にあつたと解せられるが,前記のように,本件家屋の贈与がなされ,かつその権利の表象ともいうべき右家屋の買受に関する契約書がその実印とともに被上告人に交付されることによつて,源吾より被上告人に対して簡易の引渡による本件家屋の占有移転が行なわれたものとみるべきであるから,本件贈与の履行はこれにより完了し,したがつて,右贈与契約はもはや取り消すことができない旨の原判示判断は,正当として是認すべきである。
※最判昭和39年5月26日

本記事では,死別によって残された内縁者が住居の所有権や共有持分を持っていないケースで,居住を保護するいろいろな解釈を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,内縁の夫婦の一方が亡くなったことによる不動産の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。