1 内縁関係の死別における相続権・財産分与の適用の有無
2 配偶者の相続権の条文(民法890条)
3 内縁の配偶者の相続権
4 内縁関係への財産分与の類推適用
5 財産分与義務の相続(概要)
6 残された内縁の配偶者の居住の保護(概要)

1 内縁関係の死別における相続権・財産分与の適用の有無

内縁の夫婦の一方(たとえば夫)が亡くなった場合,財産の清算について問題となります。
法律婚の「配偶者」であれば相続として通常,夫名義の財産の半分を妻が取得します。しかし,内縁関係では「配偶者」とはいえないので相続権はないという考えが一般的なのです。ただし例外的な扱いもあります。
本記事では,このような内縁関係の死別における財産の扱いについて説明します。

2 配偶者の相続権の条文(民法890条)

最初に,「配偶者の相続権」を定める民法890条の条文を押さえておきます。シンプルに「配偶者」が相続人になるとだけ記述されています。

配偶者の相続権の条文(民法890条)

(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は,常に相続人となる。この場合において,第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは,その者と同順位とする。
※民法890条

3 内縁の配偶者の相続権

一般的に,内縁関係にも法律婚の規定(ルール)を適用するのが大原則です。この原則論があるからこそ,内縁関係でも「(内縁の)配偶者」と呼ぶのです。
しかし,相続だけは別,つまり,内縁の配偶者には相続権はないという見解が一般的になっています。最高裁判例はないですが,多くの裁判例が相続権を否定しています。また,学説としては一部相続権を認めるものもありますが,否定するのが通説となっています。
実際のケースで,相続権を認めるというのはほぼありません。

内縁の配偶者の相続権

あ 法律婚の規定の適用の傾向(前提)

内縁関係について,法律婚と同じ扱いをする(準婚理論)という原則がある
詳しくはこちら|内縁関係に適用される制度と適用されない制度(法律婚の優遇)

い 裁判例(否定方向)

内縁の配偶者は(民法890条の)「配偶者」にあたらない
ただし,裁判例によってニュアンス(読み方)に違いがある
※仙台家審昭和30年5月18日
※東京家審昭和34年9月14日
※東京家審昭和31年7月25日

う 学説(否定方向)

内縁配偶者に相続権を認めないのが従来の通説である
ただし,相続権を認める余地があるという見解もある
※中川善之助ほか編『新版 注釈民法(26)相続(1)』有斐閣2010年p279

4 内縁関係への財産分与の類推適用

前述のように,内縁関係に相続のルールは適用されないので,夫名義の財産を妻が取得することはありません(原則)。
一方,死別ではなく,生前に内縁関係を解消した場合は,(法律婚と同じように)財産分与として夫名義の財産の(原則として)半分を妻に渡すことになります。
死別と生前の内縁解消とで,一方は清算あり(半分を渡す),他方は一切清算なし,という大きなアンバランスがあるのです。そこで,解釈として,死別でも財産分与を認めようという考え方があります。以前はこの考え方を採用する裁判例もあったのですが,平成12年判例がこれを否定しました。そこで現在では内縁の死別で財産分与はなされない,ということになっています。
<内縁関係への財産分与の類推適用>

あ 内縁関係への財産分与の適用(前提)

(死別ではなく)協議によって内縁解消をする場合,離婚における財産分与の規定が適用される
詳しくはこちら|内縁関係の解消(離婚)における清算(財産分与の適用・家裁の調停・審判)

い 古い裁判例

夫婦共同体の解体の一場合たる死亡による内縁関係の解消の場合にも右同条(財産分与)の類推適用を認められるべきであり・・・
※大阪家審昭和58年3月23日

う 最高裁判例

(死亡による内縁関係の解消について)
法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできないと解するのが相当である。
※最決平成12年3月10日

5 財産分与義務の相続(概要)

前述のように,内縁の死別では財産の清算(財産分与)はなされないことになりましたが,状況によっては例外的な扱いになることもあります。
それは,内縁解消に向けた話し合いや調停などの手続をしている時に一方が亡くなったというケースです。状況によっては,(亡くなった人の)相続人が財産分与義務を承継する,つまり,生前の内縁解消と同じように財産の清算を行う,ということもあります。

財産分与義務の相続(概要)

死別であっても,すでに内縁解消の協議中である場合,解釈によっては財産分与請求権が発生しており,相続人が財産分与義務を承継することがある
詳しくはこちら|離婚・内縁解消→所有者死亡|財産分与の有無|財産分与の解釈で決まる

6 残された内縁の配偶者の居住の保護(概要)

前述のように,内縁関係の死別では,残された方は相続権がないので,夫名義の住居に住んでいた内縁の妻は退去しなくてはならないのが原則となります。このような結論は不合理なので,いろいろな法解釈があり,状況によっては退去しなくて済むことも多いです。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|内縁の夫婦の死別における不動産所有権のない内縁者の居住の保護
なお,死別で残された方が,最初から不動産の共有持分をもっていた(共有者であった)場合は,退去する必要はありません。
詳しくはこちら|内縁の夫婦の一方が亡くなると共有の住居は使用貸借関係となることがある
また,内縁の夫婦が賃貸物件に住んでいて,賃借人が亡くなった場合にも,やはり残された者を保護する解釈が使われます。
詳しくはこちら|建物賃借人が亡くなった後の内縁配偶者の居住の保護

本記事では,内縁の夫婦の一方が亡くなった場合の財産の扱い(相続や財産分与)について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に内縁の夫婦の一方が亡くなったことによる問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。