代表弁護士三平聡史1 婚約破棄による慰謝料の算定や相場
2 婚約破棄の慰謝料の相場は30〜300万円
3 婚約破棄の慰謝料は多くの事情から算定される
4 婚約破棄の慰謝料が高額になる事情の例
5 婚約破棄の慰謝料が小さくなる事情の例
6 婚約破棄の慰謝料の裁判例のまとめ
7 裁判例の事案の個別的事情
8 慰謝料以外の婚約破棄の損害賠償や結納金の清算(概要)

1 婚約破棄による慰謝料の算定や相場

婚約が成立した後に婚約を破棄すると,正当な理由がない限り婚約相手(破棄された者)は慰謝料を請求できます。
婚約成立や婚約破棄の正当な理由については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|婚約は2人の意思だけで成立するが実務ではイベントが重要(婚約成立の基準)
詳しくはこちら|婚約を破棄しても慰謝料が発生しない正当な理由の具体例や判断基準
婚約破棄による損害賠償のうち主要なものは慰謝料(精神的苦痛の賠償)です。
本記事では,婚約破棄による慰謝料の算定方法や相場について説明します。

2 婚約破棄の慰謝料の相場は30〜300万円

個別的な事情によって慰謝料の金額は違いますが,比較的単純な一方的な破棄のケースでは30万円から300万円の間におさまるものが多いです。

<標準的な婚約破棄の慰謝料の相場>

あ 前提事情

婚約を破棄された者には過失がない
破棄した者の一方的な都合で婚約を破棄した

い 慰謝料の相場

裁判例の統計上30〜300万円が多い(後記※2)

う 個別的事情による変動

婚約を破棄した者の不法性の程度が大きいと慰謝料は多額になる
婚約破棄に至る2人の婚約者の行為が総合的に考慮される
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p25

3 婚約破棄の慰謝料は多くの事情から算定される

前記の慰謝料相場は,あくまでも平均的なものです。
実際に婚約が破棄されたケースでは,当事者2人やその他の関係者にいろいろな背景となる事情があります。
当然,個別的な事情によって具体的な慰謝料の金額は決められます。
原理的には,精神的なダメージの大きさを金額に換算するのです。
例えば,A・Bの婚約をAが破棄した場合,Bとしては,A以外の人との恋愛や結婚をする機会を奪われたといえます。
この失われた機会も,精神的ダメージの1つとなりますので,慰謝料算定に影響します。
慰謝料の算定に影響の大きい主な事情をまとめます。

<婚約破棄の慰謝料の算定要素>

あ 婚約に至るまでの交際期間・経緯
い 婚約後の期間・経緯
う 婚約破棄の原因・経緯
え 婚約破棄の時期
お 性交渉・妊娠・出産の有無
か 婚約破棄後の事情
き 年齢
く 社会的地位・経歴・資産

4 婚約破棄の慰謝料が高額になる事情の例

より具体的に,婚約破棄の慰謝料が高額になるような事情の例をまとめます。
要するに,精神的ダメージが大きくなるような事情です。

<婚約破棄の慰謝料が高額になる事情の例(※1)>

あ キャリアーを失った

女性が結婚を理由として,キャリアーをあきらめた(退職した)

い 妊娠・出産

女性が妊娠している・出産した

う 他の異性との交際

加害者が別の異性と交際を始めたことが婚約破棄の理由である
このような理由で婚約を破棄したいと考えるのは悪質である

え 婚約が周知の事実となっている

婚約成立後長期間が経過している
今後,被害者が別の異性と交際・結婚・出産することが困難になっている

5 婚約破棄の慰謝料が小さくなる事情の例

婚約破棄の慰謝料が小さくなる事情としてよくあるものをまとめます。
被害者側も原因を作ったというケースも多いです。
また,婚約の成立があまりはっきりしないということも慰謝料を下げる事情です。
ただし,婚約が成立していないという場合はそもそも婚約破棄にはあたらず,慰謝料も発生しません。

<婚約破棄の慰謝料が小さくなる事情の例>

あ 高額となる事情の逆の事情

前記※1とは逆の事情がある

い 被害者側の過失

被害者側にも仲を悪くする原因があった
過失相殺(民法722条2項)と同じ考え方である

う 不確実な婚約の成立

一応婚約は成立しているが,曖昧である
周囲の認識もそれ程深いものではなかった

6 婚約破棄の慰謝料の裁判例のまとめ

実際に裁判所が婚約破棄の慰謝料(を含む損害賠償額)を算定した裁判例は多くのものがあります。
裁判所の認容額(損害賠償額)には,慰謝料(精神的損害)とそれ以外の損害(財産的損害)が含まれます。
ここでは,多くの裁判例から認容額と,その中に含まれる慰謝料をまとめました。
なお,合計額(認容額)だけしか判明していないものもあります。

<婚約破棄の慰謝料の裁判例のまとめ(※2)>

判決日 被害者=原告 認容額 うち慰謝料 事情
平成18年12月25日 女性 80万円 70万円 一方的破棄
平成18年12月22日 女性 300万円 一方的破棄※2
平成16年2月27日 女性 20万円 愛情冷めた※3
平成16年1月16日 女性 約110万円 100万円 愛情冷めた※4
平成15年7月17日 女性 約230万円 200万円 愛情冷めた※5
平成14年10月22日 女性 330万円 300万円 愛情冷めた+男性の暴力
昭和57年6月21日 女性 約780万円 400万円 愛情冷めた※6
平成19年8月21日 女性 約290万円 男性の暴力・両方医師
平成19年4月27日 女性 100万円 浮気系※7
平成19年1月19日 女性 約520万円 250万円 浮気系※8
平成18年2月14日 男性 約680万円 300万円 浮気系※9
平成17年3月17日 男性 約320万円 100万円 浮気系※10
平成17年1月19日 女性 100万円 浮気系※11
平成16年3月4日 男性 100万円 浮気系※12
平成6年1月28日東京地裁 女性 100万円 浮気系※13
平成19年3月28日 女性 80万円 その他※14
平成18年10月30日 女性 約600万円 500万円 その他※15
平成17年9月13日 女性 500万円 その他※16
平成16年10月12日 女性 約330万円 300万円 その他※17
平成15年5月22日 女性 150万円 その他※18
平成15年1月30日 女性 100万円 その他※19
昭和58年3月28日大地 女性 550万円 500万円 その他※20
昭和58年3月8日 女性 約270万円 150万円 その他※21
昭和44年10月6日 女性 200万円 200万円 その他※22

7 裁判例の事案の個別的事情

前記の裁判例のそれぞれの事案は,当然ですが,個別的な事情がたくさんあります。
個別的な特殊事情のうち主なものをまとめます。
これらをみると,どのような事情が慰謝料(賠償額)の判断にどのような方向に影響するのかを考える参考となります。
実際には,内容証明郵便で損害賠償請求をする時や,調停・裁判における主張で,このような裁判例の情報を活用することで,有利な結論の獲得につながるのです。

<裁判例の事案の個別的事情>

※2 男性=僧侶と女性=信徒
※3 婚約から9年後,女性45歳,長期間の経過には女性にも帰責性あり
※4 妊娠11週目での中絶が必要であった
※5 女性は退職したが損害額では加算(考慮)されていない
※6 披露宴・新婚旅行の準備などが進んでいた・男性の母の反対も強かった
詳しくはこちら|母の反対による婚約破棄→慰謝料400万円+財産的損害賠償を認めた裁判例
※7 女性に『妊娠→流産』があった
※8 男性が他の女性と交際していた→妊娠した
※9 女性がマリッジブルー→挙式数日前に他の男性と宿泊していた
※10 女性が隠れて別の男性と並行交際していた・婚約期間=3か月と短い
詳しくはこちら|異性との交際による婚約破棄→慰謝料100万円と財産的損害賠償を認めた裁判例
※11 男性が別の女性と交際していた
※12 女性が他の男性と結婚する気になった
※13 男性が他の女性に好意を抱いた・両方21歳→機会損失が小さい(ただし女性なのでゼロにはならない)
※14 性格・生活スタイルの違いから仲違い
※15 インターネット上の『女性の中傷投稿』を読んで男性の気が変わった・女性は妊娠したが男性はノーリアクションであった
※16 女性が妊娠した→仲違いにつながった
※17 多忙を理由とした男性の翻意・女性が勤務先を退職し,海外移住をしていた
※18 男性が両親から強く反対された
※19 婚姻前に妊娠→男性の家族が『デキ婚』を否定的に感じる→2人が不仲になった
※20 女性が被差別エリア出身者であった・これを男性の両親が強く反対した
※21 女性が韓国籍であった・男性の家族が反対した・女性の年齢は当時25歳
(昭和58年当時にしては既にピークを大きく越していたと判断したと思われる)
※22 内縁の妻をもつ男性による詐欺的な婚約であった
詳しくはこちら|婚約成立のためには『婚姻の実質的成立要件』は必要ではないが例外もある

8 慰謝料以外の婚約破棄の損害賠償や結納金の清算(概要)

婚約破棄による賠償責任は,慰謝料(精神的損害)以外にも,財産的損害の賠償があります。
詳しくはこちら|婚約を破棄した者は出費や退職による収入減少の賠償をする(財産的損害)
婚約破棄のケースでは,賠償責任以外にも,結納金の返還が問題となります。
結納金の支払があった後に婚約が破棄(解消)されたケースでは,原則として,結納金の返還義務があります。
ただし,事情によっては返還義務がないということもあります。
詳しくはこちら|婚約破棄(解消)の時は結納金を返還するが有責性・時期により異なる
ところで,婚約していない一般的な男女交際であれば,通常,関係解消について法的責任は生じません。
しかし,特殊な事情があるケースでは,慰謝料・損害賠償責任が生じます。
これは,婚約が成立した後に解消(破棄)したケースにも,当てはまります。
一般的な男女交際の解消に伴う責任については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|交際破棄と法的責任;妊娠,出産,慰謝料,過去の生活費の分担

本記事では,婚約破棄の慰謝料の算定方法や相場について説明しました。
説明しましたとおり,実際には多くの細かい事情によって慰謝料の金額は決まります。
実際に婚約破棄の慰謝料の問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。