代表弁護士三平聡史1 結婚するかどうかは『自由』だけど『婚約』成立後は法的責任が生じる
2 婚約の認定基準の概要
3 『結婚する』という意思表示は明確,真摯であることが必要;ベッドの上の約束は無効判決
4 婚約破棄に『正当な理由』がないと損害賠償責任が生じる
5 婚約破棄の慰謝料相場は30〜300万円が目安・算定要素
6 婚約破棄による慰謝料以外の損害賠償
7 婚約破棄の後の『結納の返還』
8 関連項目;交際終了と法律問題

1 結婚するかどうかは『自由』だけど『婚約』成立後は法的責任が生じる

『婚姻』については,当事者の合意,が条件です。
これは明確に規定されています(日本国憲法24条)。

この点,『将来結婚する約束』を『婚約』と呼んでいます。
正確には婚姻の予約契約とされています。
しかし,婚約がなされた場合でも結婚を強制することはできません。
もちろん,婚約による法的責任はあります。
婚約破棄は,債務不履行として損害賠償責任が生じます。
婚約を一方的・合理的理由なく破棄した場合は,債務不履行となります。
債務不履行によって生じた損害を賠償する責任が発生します(民法415条)。
婚約の認定,婚約破棄による法的責任の内容については,以下説明します。

一方,『婚約』未満は,いわゆる『自由恋愛』の領域です。
法的責任は介入しません。
ただし,特殊事情がある場合の例外はあります。
詳しくはこちら|既婚を隠した交際・恋愛は慰謝料が認められやすい|恋愛市場の公正取引

2 婚約の認定基準の概要

理論的には,結婚しよう結婚しますという口約束で婚約は成立します。
契約書などは必要ありません。

<婚約の認定|大原則=『意思』が重要>

『2人が誠心誠意をもって将来夫婦として生活する』という約束・意思が必要
結納,両親の同意などは必須ではない
※大審院昭和6年2月20日等多数

しかし,実務においては,通常,言葉のやりとりだけでは婚約は認定されません。
客観的なイベントが重要な婚約認定のポイントとなります。
証拠上の問題や,真意と言えるかどうか,というハードルがある程度高いのです。

<婚約の認定|実務的基準>

あ 意思+客観的イベントが必要

婚約の認定には,次の両方が必要である
ア 『結婚する』という明確な意思表示
イ 『結婚する』ことを前提とする客観的なイベント(後記)

い 参考・見解

儀式その他慣行上婚約の成立と認められるような外形的事実がまったくない場合
→婚約成立を認定するのは相当慎重でなければならない
※青山道夫ほか『新版注釈民法(21)』有斐閣p280

意思に加えて必要となる『婚約の客観的イベント』をまとめます。

<婚約成立の認定|重視される『客観的イベント』>

次のような事情を総合的に考慮する
ア 婚約指輪を渡した
イ 結納を済ませた
ウ 結婚式,共同生活に向けた具体的準備や予定を進めていた
エ 継続的な性的関係(妊娠・出産に至った)
オ 両親などの親族に結婚する旨挨拶した
カ 知人・友人に結婚することを説明(公表)した
キ 『結婚』に向けたイベントで出会った
例;結婚相談所・紹介業・『婚活』と題するイベント

前記のとおり,あくまでも『結婚するという明確な意思表示』が伴うことが前提です。

3 『結婚する』という意思表示は明確,真摯であることが必要;ベッドの上の約束は無効判決

婚約の認定においては,『結婚する』という意思表示,が大前提となります。
この意思表示は『明確』,『真摯』であることが必要とされます。

<『結婚する』という意思表示の『明確・真摯』の判断要素>

ア 口頭の合意内容
イ 交際状況
ウ 会話の内容,状況

単なるセリフだけではなく『状況』が重視されます。

<性的関係+婚約的セリフ|判例の傾向>

あ 判例の傾向

性的関係(情交関係)+口頭や手紙で『結婚する』という約束がされた
→婚約が否定される判例が多い

い 理由・背景|状況の特殊性

男女間では,性的関係を持つ前後で『結婚しよう』と話すシーンが生じやすい
このようなセリフは『睦言』(現代風に言えばピロートーク)である
→誠心誠意の約束ではない

う 理由|責任の大きさからの逆算

次のような思考回路が読み取れる
『婚約が成立した場合に発生する責任の重さ』から逆算する
→婚約認定のハードルを上げた

え 批判

以上のような判断をした判例には時代がやや古いものが多い
→『男性優位の不公平な判断』ではないかという批判もある

裁判例については,数が多いので別に説明します。
詳しくはこちら|婚約認定(有効性)についての多くの裁判例

4 婚約破棄に『正当な理由』がないと損害賠償責任が生じる

(1)婚約破棄では正当な理由がないと違法となる

基本的には,一方的に婚約を破棄された場合,債務不履行として損害賠償請求が可能です。
しかし,正当な理由がある場合は,債務不履行責任は生じません。
正当な理由の例を示します。

<婚約破棄の正当な理由の例>

あ 被害者に他に交際相手が居た
い 被害者側が重要な事情についてウソを言っていた

例えば実際とはかけ離れた収入(給与)額を言っていたり,職業を偽っていたなどです。

う 性的不能を隠していた

子孫を残す(出産)は夫婦の重要なイベントとして考えられています。

え 被害者側が回復不能な病気にかかった
お 被害者側の経済状態が日常生活に支障が出る程度に悪化した

(2)婚約破棄の賠償の対象(損害の内容)

婚約破棄に正当な理由がない場合は損害賠償請求が認められます。
賠償責任の対象は『婚約破棄と相当因果関係を持つ範囲の損害』となります(民法416条1項)。
この場合の損害をおおきくまとめると2つになります。

<婚約破棄による損害の分類>

あ 慰謝料;民法710条

精神的苦痛(ダメージ)に対する賠償責任

い 慰謝料以外の損害賠償

実際に必要となった出費など

具体的な内容は次に説明します。

5 婚約破棄の慰謝料相場は30〜300万円が目安・算定要素

(1)慰謝料の算定要素(事情)

婚約破棄による慰謝料の相場を説明します。
被害者側の過失がゼロという前提では,統計上,30万~300万円程度と広く分布しています。
このように,幅が広いのは,個別的事情による精神的苦痛の程度が大きく異なるからです。
慰謝料の算定で使われる(影響のある)事情をまとめます。

<婚約破棄の慰謝料の算定要素>

あ 婚約に至るまでの交際期間・経緯
い 婚約後の期間・経緯
う 婚約破棄の原因・経緯
え 婚約破棄の時期
お 性交渉の有無
か 婚約破棄後の事情
き 年齢
く 社会的地位・経歴・資産

基本的には被害者が『受けたダメージの大きさ』を,以上の事情から判定します。
同時に,交際の間に『他の恋愛相手・結婚相手を獲得する機会』があったはずです。
この『失われた機会』の大きさも損害額算定に反映します。
『機会損失』『逸失利益』と言われるものです。
以上の算定要素(事情)の中で,慰謝料の大小に影響を及ぼす具体例をまとめます。

(2)慰謝料が大きく/小さくなる事情の具体例

<慰謝料額が大きくなる要素>

・女性が結婚を理由として,キャリアーをあきらめた(退職した)
・女性が妊娠(出産)している
・婚約破棄の理由が,加害者が別の異性と交際を始めたという悪質なものである
・婚約成立後長期間が経過しており,今後,被害者が別の異性と交際・結婚・出産することが困難になっている

<慰謝料が小さくなる要素>

・上記の逆のケース
・被害者側にも仲を悪くする原因があった
 過失相殺(民法722条2項)と同じ考え方です。
・一応婚約は成立しているが,曖昧であり,周囲の認識もそれ程深いものではなかった
 なお,結婚の約束の具体的内容・程度によってはそもそも婚約として認められないこともあります。

婚約破棄の損害額・慰謝料額の算定については,多くの判例をまとめてあります。
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料・その他の損害の算定例|判例の集約

6 婚約破棄による慰謝料以外の損害賠償

簡単に言えば『婚約破棄がなければ生じなかった』と言える出費は『損害』となります。
具体例をまとめます。

<婚約破棄の損害賠償の内容>

あ 認められるもの

・結婚式場のキャンセル費用
・結婚に際して同居するために要した賃貸マンションの初期費用(敷金・礼金・仲介手数料など)
・同居のために購入した家具・衣類などの費用(※1)
・新婚旅行のキャンセル費用
・婚約指輪の購入代金
・のし入れ費用
・仲人への謝礼
・退職に伴う収入減少;逸失利益(※2)

い 認められないもの

・お見合いに要した費用
『婚約』しなくても生じたものであるため
・茶菓子代
慶賀の祝意を表す純粋な贈与であるため

<同居のために購入した家具・衣類など(上記※1)>

あ 原則

『損害』に含まれない
『物自体』が失われるわけではないため

い 例外

結婚しない限り使わないor気持ちとして使えない
→次のいずれかの方法を取る
ア 売却して,購入額と売却金額の差額を損害とする
イ 購入代金の一定割合を損害とする
ウ 感情の問題として『慰謝料』に相当額を上乗せする
※大阪地裁昭和42年7月31日

<退職に伴う収入減少(上記※2)>

あ 基本的算定方法;『逸失利益』

損害の算定基礎 『本来得られた想定金額』と『実際に得た金額』の差額
算定期間 1〜2年程度

い 最近の否定的傾向

非正規化→雇用の流動化という方向性
→『次の職を得ないのは本人の責任』と考える傾向がある
例;慰謝料に相当額を上乗せする程度にとどめる

結婚の見据えて退職した場合の『収入減少』は,『本来得られたはずの収入』と言えます。
そこで『損害』とする考え方があります。
得べかりし利益,とか,逸失利益,とか呼んでいます。
婚約破棄による逸失利益は,当然,勤務先や当事者の職務内容によっても算定が違ってきます。
最近では,上記のとおり,否定的な見解も強く,判断の『ブレ』が大きくなってきています。

7 婚約破棄の後の『結納の返還』

婚約が解消されると『損害賠償』とは別に『既に渡した結納』を戻すべきかどうかも問題になります。
まず『結納』は法律上に規定はありませんが,判例で理論的な性格が示されています。

<『結納』の性格>

婚約の成立を確証し,併せて婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情宜を厚くする目的で授受される一種の贈与
※最高裁昭和39年9月4日

要するに『婚約→婚姻の成立』が目的・前提となっているのです。
これを元にして,状況に応じて『返還の要否』が決まります。
多くの判例をまとめました。

<婚約が解消された場合の結納の行方>

あ 原則

返還請求が認められる
『目的が達成されなかった』→『不当利得』となる
※民法703条
※東京地方裁判所平成16年8月31日
※大審院大正6年2月28日

い 例外1|一方有責

婚約解消についての責任が『結納を送った方』にのみある場合
→返還請求は認められない
理由=真義誠実の原則・権利濫用;民法1条
※大阪地裁昭和41年1月18日
※大阪地裁昭和43年1月29日

う 例外2|双方有責

婚約解消についての責任が両方にある場合
どちらの責任の方が重いか,によって判断する
※福岡地裁小倉支部昭和48年2月26日

8 関連項目;交際終了と法律問題

交際解消に関する一般的な法律問題は別に説明しています。
別項目;交際破棄と法的責任;妊娠,出産,慰謝料,過去の生活費の分担

条文

[民法]
(損害賠償の範囲)
第四百十六条  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。