代表弁護士三平聡史1 婚約成立の判断基準
2 婚約は理論的には2人の約束だけで成立する
3 明確・真摯な婚約の意思表示の判断要素
4 実務における婚約成立の認定の傾向
5 婚約成立につながる客観的イベントの例
6 性交渉に伴う婚約成立の否定傾向
8 婚約には『婚姻の実質的要件』は原則として不要である
9 婚約の成立を判断した多くの裁判例

1 婚約成立の判断基準

いったん婚約が成立すると,その後,一方的に破棄すると慰謝料などの損害賠償責任が生じます。
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料は30〜300万円が相場だが事情によって大きく異なる
実際の婚約破棄の問題では,婚約が成立したかどうかの判断で対立することが多いです。
いわゆるプロポーズと似ていますが,法律的な意味での婚約(成立)は,賠償責任とつながるものですから,ある程度ハードルが高いのです。
婚約成立とは,国家が介入しない自由恋愛と,国家が介入し,法的に拘束する関係の境界といえます。
本記事では,婚約が成立したと判断する基準について説明します。

2 婚約は理論的には2人の約束だけで成立する

婚約とは,文字どおり,将来結婚するという単純な約束(合意)です。
書面で調印する必要もないですし,親族への挨拶などの儀式なども理論的には不要です。
実際の案件での認定では儀式が重視されますが,これは後述します。

<婚約の成立要件(基本)>

あ 婚約の成立

男女間に,将来結婚しようという合意だけで成立する

い 結婚する意思の内容

2人が誠心誠意をもって将来夫婦として生活するという約束である

う 儀式の要否(不要)

儀式は不要である
儀式の例=結納・婚約指輪の交換・両親の同意・契約書の調印
儀式は婚約の成立を証明する1つの事実という位置づけである
※大判大正8年6月11日

え 周囲への周知の要否(不要)

家族などの周囲の者が十分に知らないケースでも婚約の成立は認められる
※大判昭和6年2月20日
※最高裁昭和38年9月5日
※最高裁昭和38年12月20日
※東京地裁平成6年1月28日

3 明確・真摯な婚約の意思表示の判断要素

婚約は当事者2人の結婚するという合意だけで成立します(前記)。
しかし,単に一言のセリフで婚約の成立が認められるわけではありません。
『結婚する』という気持ちは明確で,また真摯(まじめ)なものである必要があります。
真摯ではないと判断される典型例は性行為に伴うセリフです(後記)。

<明確・真摯な婚約の意思表示の判断要素>

あ 婚約における『結婚の意思』の程度

法律的な婚約の成立といえるためには
婚約の意思表示(結婚する意思)が明確・真摯であることが必要である
例えば,性行為に伴う約束(セリフ)は真摯ではない傾向がある(後記※1)

い 明確・真摯の判断要素

ア 口頭の合意内容
イ 交際状況
ウ 会話の内容,状況

4 実務における婚約成立の認定の傾向

理論的には結婚するという約束(合意)だけで婚約は成立します(前記)。
しかし現実には,結婚することを周囲への説明するとか,結納などのイベントがないと真摯な約束であるかどうかが分からないです。
そこで,実務での婚約の認定では,合意以外が決め手になることが多いです。
純粋に合意だけでは婚約が成立していないと判断される傾向があるのです。

<実務における婚約成立の認定の傾向>

あ 周囲の承認を重視する

周囲がどの程度,結婚することを承認しているかを重視する
周囲の承認の具体例=慣習上の儀式へ向けての準備行為
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p17

い 外形的事実(客観的イベント)を重視する

儀式その他慣行上婚約の成立と認められるような外形的事実がまったくない場合
→婚約成立を認定するのは相当慎重でなければならない
※青山道夫ほか『新版注釈民法(21)』有斐閣p280

5 婚約成立につながる客観的イベントの例

実務で婚約の成立が認められるためには,一般的に客観的なイベントが必要です(前記)。
婚約成立を認めることにつながる客観的イベントの具体例をまとめます。

<婚約成立につながる客観的イベントの例>

あ 婚約指輪

婚約指輪(結婚指輪)を渡した

い 結納金

結納を済ませた(日取りを決めた)

う 結婚式

結婚式に向けた具体的準備や予定を進めていた

え 共同生活

共同生活に向けた具体的準備や予定を進めていた
例=同居する賃貸マンションの物件探しや契約

お 性的関係

継続的な性的関係がある
妊娠や出産に至った

か 親族への説明

両親などの親族に結婚することを説明(挨拶)した

き 知人・友人への説明

知人・友人に結婚することを説明(公表)した
例=結婚披露宴・パーティーの招待状の発送を済ませた

く 結婚前提の出会い

『結婚』に向けたイベントで出会った
例=結婚相談所・紹介業・『婚活』と題するイベント

このような事情を総合して婚約が成立したかどうかが判断されます。
すべてが必要ということもないですし,また,どれか1つだけで成立と認められるわけでもありません。

6 性交渉に伴う婚約成立の否定傾向

結婚する約束が明確で真摯(まじめ)でなければ婚約の成立は認められません(前記)。
真摯ではないから成立していない(無効)となる典型的なシチュエーションは性交渉に伴って結婚すると言うものです。
性的関係を持つために安易に結婚を口にすることはよくあると裁判所は考えています。
ベッドの上の約束は無効とする,男性をひいきする不合理な判断であると批判されているところです。

<性交渉に伴う婚約成立の否定傾向(※1)>

あ 性交渉の状況の特殊性

男女間では,性的関係を持つ前後で『結婚しよう』と話すシーンが生じやすい
このようなセリフは睦言(現代風に言えばピロートーク)である
→誠心誠意の約束ではない傾向が強い

い 性交渉に伴う合意の否定傾向

性的関係を持つ前提として『結婚する』約束をする
例=口頭や手紙で結婚すると約束する
→法的な意味での婚約は成立していない
なお,『男性優位の不公平な判断』ではないかという批判もある
詳しくはこちら|婚約の成立を認めなかった多くの裁判例(ベッドの上での契約は無効判決)

う 関係の長期化による肯定傾向

性的関係が長期化した(特に,妊娠や中絶に至った)場合
→その後の関係解消により不公平・不利益が生じる
→救済すべきである
→婚約の成立を認める傾向がある
詳しくはこちら|婚約の成立を認めた多くの裁判例
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p17

8 婚約には『婚姻の実質的要件』は原則として不要である

婚約は,将来結婚(婚姻)するという内容の約束です。
この点,婚姻が成立するためのいろいろな要件があります。
年齢の制限や重婚の禁止(独身である必要がある)などです。
婚約の時点では,婚姻の実質的要件は不要とされる傾向があります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|婚約成立のためには『婚姻の実質的成立要件』は必要ではないが例外もある

9 婚約の成立を判断した多くの裁判例

実際に個別的な多くの事情から婚約の成立の有無を判断した裁判例がたくさんあります。
別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|婚約の成立を認めなかった多くの裁判例(ベッドの上での契約は無効判決)
詳しくはこちら|婚約の成立を認めた多くの裁判例

本記事では,婚約の成立の判断基準について説明しました。
説明しましたとおり,実際には,多くの細かい事情を元にして,総合的に婚約が成立したかどうかを判断します。
主張や立証(証拠の選択)のやり方次第で結論が変わってきます。
実際の婚約の成立や破棄に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。