代表弁護士三平聡史1 結納金の法的性質と婚約破棄の際の返還義務
2 結納の法的性質は婚姻を目的とする贈与である
3 婚約が解消された場合の結納の返還の有無
4 有責性による結納の返還義務の有無
5 有責性による結納の返還義務の否定と慰謝料の関係
6 共同生活開始後の破綻による結納の返還
7 共同生活開始後の夫による破綻と結納返還
8 共同生活開始後の妻による破綻と結納返還

1 結納金の法的性質と婚約破棄の際の返還義務

婚約の際には両親への挨拶とともに結納金を贈るという昔からの慣習があり,現在でも行われることがあります。
結納金を贈った後に,婚約が解消(破棄)となるとか,結婚後に離婚するというケースでは,結納を返還する義務があるかどうかが問題となります。
本記事では,結納の返還義務について,法律的な性質の理論まで立ち返り,女性を相手方(被告)とした結納金返還請求の裁判例を用いて説明します。

2 結納の法的性質は婚姻を目的とする贈与である

もともと結納は古くからの日本の慣習(風習)です。法律上のルールがあるわけではありません。
結納の法的性質については,いくつかの見解があります。
判例では要するに将来の婚姻を目的とする贈与であると捉えています。
この理論から,目的を達成しない場合は返還するという解釈につながります(後記)。

<結納の法的性質>

あ 判例の判断

婚約の成立を確証し,あわせて,婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼(じょうぎ)を厚くする目的で授受される一種の贈与である
※最高裁昭和39年9月4日
※大判大正6年2月28日;同趣旨

い 『情誼』の意味

人とつきあう上での人情や誠意
※デジタル大辞林

う 法的性質の分析

『ア・イ』の性質をあわせたものである
ア 証約手付
イ 目的的贈与
将来,婚姻が成立することを予想or最終目的として授受される目的的な贈与の性質
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p30

3 婚約が解消された場合の結納の返還の有無

結納は婚姻が目的となっています(前記)。
婚約が解消(破棄)されると,婚姻することはない状態になります。
そこで,目的が達成されないので,返還すべきということになります。
もちろん,このような理論的な判断にならずに,返還するかしないかが慣習で決まっていたり,婚約を解消する際,2人で決めることもよくあります。

<婚約が解消された場合の結納の返還の有無>

あ 『婚姻』成立による目的達成(前提)

婚約の後,婚姻(共同生活形成)に至った(後記※2)場合
→結納の目的を達成する(当然,返還義務はない)

い 慣習や合意による返還の判断

結納金を支払った後に婚約を解消したケースにおいて
通常は慣習や合意で結納金を返還するかどうかを決める
慣習や合意で決まらない場合は法的な理論で判断する(う)
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p30

う 理論的な返還義務の原則論

婚約解消により結納の目的が達成されなくなった
不当利得となる
=返還義務がある
ただし,有責性によって異なることがある(後記※1)
※民法703条
※大判大正6年2月28日
※東京地方裁判所平成16年8月31日

4 有責性による結納の返還義務の有無

以上の結納の返還義務の理論は,原則的なものです。
つまり婚約者の両方に,婚約を解消した責任(有責性)がない,という前提でした。
結納を贈った者に有責性がある場合は,自業自得となるので返還請求が認められないことがあります。
ただし,責任は慰謝料で賠償すべきであり,結納の返還とは別である(返還請求を認める)という見解もあります。
婚約者の両方ともに有責性がある場合は,有責の程度のバランスで判断します。

<有責性による結納の返還義務の有無(※1)>

あ 両方とも有責性なし

婚約者の両方に有責性(婚約破棄の責任)がない場合
例=2人の合意によって婚約を解消した
→原則どおり結納の返還義務がある
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p30

い 結納を贈った者に有責性あり

結納を支払った者に有責性がある場合は『ア・イ』の見解がある
ア 返還義務なし
有責者が結納の返還請求をすることは信義則に反する
→返還請求はできない
※東京交際昭和57年4月27日
※大阪地裁昭和41年1月18日
※大阪地裁昭和43年1月29日ほか多数の裁判例
イ 返還義務あり
責任の有無とは無関係に返還義務がある
責任については慰謝料の賠償で対応すべきである
※大阪地裁昭和42年7月31日

う 両方に有責性あり

結納を支払った者の有責性の方が小さい時に限って返還義務がある
※福岡地裁小倉支部昭和48年2月26日

5 有責性による結納の返還義務の否定と慰謝料の関係

結納を贈った者に婚約破棄の有責性がある場合には結納の返還請求を認めない見解もあります(前記)。
この場合,結納をもらった者は,受領したままということになります。
そうすると,これとは別に,慰謝料も請求できることになってしまいます。
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料は30〜300万円が相場だが事情によって大きく異なる
ペナルティ(自業自得)とはいえ,不合理といえます。
そこで,慰謝料については結納金の分を控除する傾向となっています。

<有責性による結納の返還義務の否定と慰謝料の関係>

あ 返還義務の否定(前提事情)

結納を支払った者(男性)に婚約破棄の有責性がある
→受領した者(女性)には結納の返還義務がないことになった
=女性は結納を受領したままでよい

い 慰謝料の算定における考慮

男性が支払う婚約破棄の慰謝料の金額算定において
結納金を支払ったままとなったことを考慮する(控除する方向性)
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p31

6 共同生活開始後の破綻による結納の返還

婚約した後に関係を解消したタイミングによっては,結納金返還の別の問題が出てきます。
共同生活が始まった後に関係を解消したケースでは,結納の目的を達成したから結納は返還しなくてよい,という考え方になるからです。
実際には結納の目的を達成したといえるかどうかという問題となります。
裁判例の傾向としては,共同生活(同居)の期間が2か月から半年くらいを超えると目的が達成した(返還義務なし)とされています。

<共同生活開始後の破綻による結納の返還(※2)>

あ 結納の目的達成と結納の返還義務(前提)

夫婦共同生活がある程度の期間継続した(う)場合
→結納は目的を達する
→その後,関係を解消しても結納の返還義務はない

い 内縁の扱い

婚姻届の提出は,結納の目的達成のために必須ではない
=内縁・事実婚でも結納の目的は達成する(返還義務はなくなる)
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p33

う 共同生活の期間と結納の返還義務
夫婦共同生活の期間 結納の返還義務 裁判例
1年間(内縁) 返還義務なし 大判昭和3年11月24日
8か月(法律婚) 返還義務なし 最高裁昭和39年9月4日
2か月(内縁) 返還義務あり 大判昭和10年10月15日

7 共同生活開始後の夫による破綻と結納返還

実質的な夫婦の共同生活が短い時点で内縁(婚約)を解消した場合は,まだ,結納の返還義務があるはずです(前記※2)。
しかしこれは原則的なケースでの判断基準です。
内縁関係を破綻させた責任が夫(結納を贈った者)にある場合は,自業自得といえますので,返還請求が否定されることが多いです。

<共同生活開始後の夫による破綻と結納返還>

あ 結納を支払った者の有責性

婚約者が共同生活(婚姻or内縁関係)を始めた
婚姻or内縁の関係が破綻するに至った
結納を支払った者(夫)に破綻の有責性があった

い 返還請求(否定)

結納の返還請求は信義則に反するので認められない
※高松高裁昭和30年3月31日;結納の目的達成も理由として挙げる
※大阪地裁堺支部昭和32年11月15日

8 共同生活開始後の妻による破綻と結納返還

実質的な夫婦の共同生活が数か月を超えてきた時点で内縁(婚約)を解消した場合は,もう結納の返還義務はないはずです(前記※2)。
しかし,妻(結納を受領した者)に破綻の責任がある場合は,結納をもらいっぱなしは不合理です。
そこで,結納の返還義務を認める傾向があります。
ただし,破綻の責任は慰謝料で賠償すべきであり,結納の返還とは別で考える(原則どおり結納の返還義務はない)という見解もあります。この見解をとった裁判例では,結局,慰謝料の算定の中で結納金などの金額分を上乗せにしています。
2つの見解は,結論(総額)としては変わらないといえます。

<共同生活開始後の妻による破綻と結納返還>

あ 返還義務を認める見解

3か月間共同生活(内縁関係)の後,内縁関係が破綻(解消)した
結納を受領した者(妻)に破綻の有責性があった
→実質的な婚姻の成立に至っていない
=結納の目的を達成していない
→結納の返還義務がある
単純な共同生活の期間では結納の目的達成が認められた可能性がある(い)
※鳥取家裁昭和30年7月28日

い 返還義務を否定する見解(慰謝料に含める)

2か月間共同生活(内縁関係)の後,内縁関係が破綻(解消)した
結納を受領した者(妻)に破綻の有責性があった
→結納の目的を達した
=結納の返還義務はない
ただし,慰謝料の算定において結納相当額も含めた
慰謝料に含めたもの=結納,挙式費用,新婚旅行費用(相当額)
※千葉地裁佐倉支部昭和49年9月20日

本記事では結納の法的性質や婚約破棄の際の結納の返還義務について説明しました。
説明しましたとおり,個別的な事情や採用する見解によって結果が大きく違ってきます。
みずほ中央法律事務所では,個別的な事情を元にして,多くの裁判例や学説(見解)を活用して,最適な主張や立証を組み立てています。
実際の結納の返還や婚約(内縁)破棄の慰謝料に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。