【交際破棄では法的責任は生じないが妊娠・出産の責任や生活費の清算はある】

1 交際自体は『自由恋愛』なので、法的拘束力とは関係ない

単純に『交際期間が長い』とか『子供ができた』ということだけから「結婚する義務」が生じるわけではありません。
逆に、結婚する約束をしている(=婚約)、とか、夫婦という意識で共同生活をしている(=内縁)という場合は、一定の法的な責任があります。
婚約成立や内縁の状態から、一方的に関係を解消すると、違法性があるので慰謝料が生じます。
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料は30〜300万円が相場だが事情によって大きく異なる
詳しくはこちら|内縁関係に適用される制度と適用されない制度(法律婚の優遇)
コラム;「価値観の強要」を避ける裁判所の本心は「恋愛の自由」

結局は、婚約(成立)でもなく、内縁関係でもない、という場合は、一方的な事情で別れることになっても、法的には「慰謝料」などの責任は発生しないことになります(最高裁平成16年11月18日)。
詳しくはこちら|内縁|基本|婚姻に準じた扱い・内縁認定基準|パートナーシップ関係
これはあくまでも法的な解釈論です。
気持ちとして、一定の責任を取ることは自由です。
現実に、気持ちとして責任を感じて、一定の金銭の支払がなされることはあります。
一般的には「手切金」と呼んでいます。
これは法的な言葉ではありません。

なお、「手切金」の支払は「自由」ではありますが、税務上は「自由」にはならないことがあります(後記『3』)。

2 妊娠や金銭貸し借りがあると責任(清算)が生じる

交際終了自体ではなく、これに伴う一定の行為に関して法的責任が認められることがあります。

(1)出産して子供がいる場合は、認知→扶養料請求

仮に交際相手との間に子供が生まれていれば、扶養の請求(扶養料や養育費請求)が可能です。
詳しくはこちら|認知による扶養義務・請求権の発生(遡及効・時間制限・相続・家裁の手続)
この場合、認知されていることが前提になります。
自発的に任意認知をしない場合は、強制認知という手段もあります。
詳しくはこちら|強制認知|家裁の調停・訴訟|協力しない『父』への認知請求

(2)妊娠→中絶、となった場合は、身心のダメージを分担、という趣旨の慰謝料が生じる

妊娠が発覚し、2人で考えた結果、中絶する、というケースもあります。
この場合、女性だけが身心のダメージを受けます。
この部分については、お互いに負担を分担する、という考え方になります。
「慰謝料」が認められます。
ただ、責任としては男女双方にあるので、「折半」とされることが多いです。
別項目;中絶;の意向が異なる場合

(3)生活費の分担を清算する義務

共同生活の費用を一方的に立替えている場合も、一定割合で返還請求が認められる可能性もあります。
これは2人で負担を分けるという約束をしたことが前提になります。

とは言っても、明確に文書にしてないとダメ、ということではありません。
2人の経済状況を総合的に考えて、一時的に立替えた後で清算する趣旨だったと認められる状況であれば、返還請求が認められるでしょう。

(4)不倫関係などの違法性があると清算不要となる

男女交際に、不倫などの違法・不当な背景があると、清算しなくて良いこともあります。
不法原因給付という特殊なルールがあるのです。
これは別に説明しています。
別項目;男女交際における『民事的違法』;公序良俗違反、不法原因給付、慰謝料

3 交際解消の手切金への課税

交際解消に伴って手切金が支払われた場合に、課税の対象となる場合があります。

手切金は、法律的な意味のある言葉ではありません。
その内容・法的な意味によって課税上の扱いが変わってきます。

(1)慰謝料については課税されない

婚約破棄や内縁破棄(解消)であれば、その事情によっては、違法性あり→慰謝料が成立、ということになります。
慰謝料については、基本的に非課税です。
詳しくはこちら|離婚などの慰謝料への課税(基本的に非課税・例外あり)

(2)生活費の分担の清算については課税されない

例えば、交際中に同居していた賃貸マンションの家賃やその他の共通の費用を一方が立て替えていたような場合、返還として、非課税となります。
正確には、貸金の返還または不当利得金の返還ということになります。

(3)子供の扶養料については課税されない

一方、子供ができていたような場合には、養育費(扶養料)の前払い金という扱いとも考えられます。
相当の金額の範囲内であれば、非課税となりましょう。
別項目;扶養料、養育費への贈与税課税;基本、一括払い、認知未了

(4)「法的根拠」がない、純粋な手切金については贈与税の対象となる

(純粋な)交際の解消では、違法性なし→慰謝料が成立しない、ということになります。
そうすると、基本的に、手切金→法的な意味の付けられないお金の動き→贈与(とみなす)、ということになります。
このような解釈となれば、手切金には贈与税が課せられる、ということになります。

4 男女交際の解消の清算は合意書として調印しておくとよい

男女交際の解消の際に、金銭的な清算を行うケースもあります(前記)。
清算の内容を話し合って決めた場合は、その時点で書面として調印しておくとベターです。
書面のサンプルについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|男女交際の解消の清算に関する合意書のサンプル(和解金・認知・養育費など)

本記事では、一般的な男女交際を解消する際の法的な責任について説明しました。
実際には、個別的な事情によって清算の義務の有無や内容は大きく違ってきます。
実際に男女交際の解消の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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