代表弁護士三平聡史1 婚約破棄による財産的損害の賠償
2 婚約破棄による財産的損害の賠償責任の傾向
3 婚約破棄による財産的損害として認められる内容
4 退職に伴う収入減少の賠償責任
5 婚約破棄による財産的損害として認められない内容
6 同居のための物品購入費の賠償責任

1 婚約破棄による財産的損害の賠償

婚約を正当な理由なく破棄すると慰謝料の賠償責任が生じます。
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料は30〜300万円が相場だが事情によって大きく異なる
これとは別に,正当な理由があってもなくても,通常,財産的な出費(損害)の分担の義務が認められます。
本記事では,婚約破棄(解消)に伴う財産的な損害の賠償(分担)について説明します。

2 婚約破棄による財産的損害の賠償責任の傾向

婚約の後,結婚に向けた出費がなされているはずです。
婚約破棄となった場合,これらの出費は無意味となることが多いです。
そこで,婚約者2人で負担を分担する(賠償)することになります。
婚約破棄の不当性(正当な理由の程度)によって分担の方法(割合)は異なります。

<婚約破棄による財産的損害の賠償責任の傾向>

あ 基本的な賠償の範囲

婚約から婚姻に至るまでの準備にかかった費用
→婚約を破棄した者による賠償の対象となる
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p25

い 婚約破棄の違法性との関連

婚約破棄の違法性が強いと賠償額が多くなる
精神的損害(慰謝料)と同じ考え方である
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p26

う 違法性と関係ない負担の分担

婚約破棄の違法性がない(正当な理由がある)ケースでも
支出した費用の分担(折半)が認められやすい
詳しくはこちら|婚約を破棄しても慰謝料が発生しない正当な理由の具体例や判断基準

3 婚約破棄による財産的損害として認められる内容

婚約破棄によって分担する出費(財産的損害)にはいろいろなものがあります。
よくあるものをまとめます。

<婚約破棄による財産的損害として認められる内容>

あ 結婚式に関する費用

結婚式場のキャンセル費用
披露宴招待状の発送費用

い 同居のための賃貸物件の費用

結婚後に賃貸マンションに居住する予定だった場合
→支出した初期費用や違約金は損害となる
初期費用の例=敷金・礼金・仲介手数料など

う 新婚旅行のキャンセル費用
え 婚約指輪の購入代金
お のし入れ費用
か 仲人への謝礼

結納金の1割相当額の仲人への謝礼
→損害として認めた
※大阪地裁昭和42年7月31日

き 退職に伴う収入減少

いわゆる逸失利益として損害となる(後記※1)
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p25

4 退職に伴う収入減少の賠償責任

婚約の後に,結婚に向けて,仕事を退職することが多いです。
その後婚約が破棄されると,仕事を続けていたら得たはずの収入が奪われた状態になります。
これを逸失利益(得べかりし利益)と呼びます。
不当に婚約を破棄した者が賠償する損害の1つとなります。
実際に逸失利益を算定する際は,1〜2年分程度の収入を算定することが多いです。
しかし,最近では否定する傾向の考え方が強くなっています。
いずれにしても,個別的な事情によって算定方法が大きく異なることもあります。

<退職に伴う収入減少の賠償責任(※1)>

あ 収入減少の算定

収入減少 = 実際に得た金額 − 本来得られた想定金額
実際に得た金額→受給した雇用保険金を含む
本来得られた想定金額→退職前の1年の収入を用いる
収入→給与・給料・賞与・手当など

い 賠償する損害額

賠償額 = 収入減少(あ) × 1〜2年程度

う 具体例

婚約した女性が退職し,その1年後に正規雇用となった
→1年分の収入減少(あ)を賠償額とした
※徳島地裁昭和57年6月21日

え 最近の否定的傾向

雇用の非正規化・雇用の流動化が進んでる
次の職を得ないのは本人の責任と考える傾向がある
→収入減少分を損害賠償としてカウントしないこともある
慰謝料に相当額を上乗せする程度にとどめるケースも多い

5 婚約破棄による財産的損害として認められない内容

婚約に関する出費でも,破棄した者が分担すべき財産的損害とはいえないものもあります。

<婚約破棄による財産的損害として認められない内容>

あ お見合いに要した費用

婚約しなくても生じたものである
→損害として認めない
※高松高裁昭和30年3月31日

い 茶菓子代

慶賀の祝意を表す純粋な贈与である

う 同居のための物品購入費

例=家具・衣類などの費用
事情によっては損害として認められることもある(後記※2)

6 同居のための物品購入費の賠償責任

婚約後,同居のために家具や衣類を購入することはよくあります。
婚約破棄となった場合には,これらの物品はいらなくなります。
とはいっても,モノ自体はなくならないので,使えます。
そこで,原則として,購入費用は財産的損害にはカウントしません。
一方で,結婚生活用に購入したモノは,他に流用したくないという気持ちもあります。
そこで,購入費用の一部について,破棄した者が賠償する義務が認められることもあります。
いろいろな算定方法をとった裁判例がありますが,判断のぶれが大きいです。

<同居のための物品購入費の賠償責任(※2)>

あ 原則

購入した物品自体は婚約破棄によって失われるわけではない
例=日常生活上必要なもの
→賠償する損害に含まれない
※大阪地裁昭和42年7月31日

い 例外

結婚しない限り使わないor気持ちとして使えない物品
例=婚礼家具・衣類
→『う』のいずれかの方法をとる

う 賠償額算定方法の種類

ア 購入額と売却金額の差額を損害とする
※大阪地裁昭和58年3月8日
イ 購入代金の一定割合を損害とする
婚約解消後,女性が別の男性と婚姻し,購入した家具の一部を持参した
→購入費の7割相当(約160万円)を損害として認めた
※徳島地裁昭和57年6月21日
詳しくはこちら|母の反対による婚約破棄→慰謝料400万円+財産的損害賠償を認めた裁判例
ウ 感情の問題として慰謝料に相当額を上乗せする
※大阪地裁昭和42年7月31日

本記事では,婚約破棄の際の財産的な出費の分担(損害賠償)について説明しました。
前記のように,個別的な事情によって結論が大きく異なります。
主張や立証のやり方次第で違う結論になるといえます。
実際に婚約破棄の賠償の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。