1 扶養を受ける権利は放棄できない→『養育費ゼロ』の合意は無効
2 養育費の合意額が低額という理由だけで増額請求は認められない(養育費変更請求)
3 養育費について低額の合意よりもゼロの合意の方が,後から請求できる可能性が高い
4 再婚したら養育費を打ち切るという合意は無効とされる可能性が高い
5 養育費は慰謝料などとの相殺はできない

1 扶養を受ける権利は放棄できない→『養育費ゼロ』の合意は無効

養育費の性質は,子供が親から扶養を受ける権利です。
正確には,扶養請求権養育費は微妙に違いますが,実務上,同視して考えることが多いです。
詳しくはこちら|親子と夫婦間の扶養義務の種類と内容(まとめ)

扶養を受ける権利処分できないとされています(民法881条)。
理由は,『一身専属権』と言って,身分に基づく重要な権利だからです。
次のとおり,処分の1つである放棄も否定されるのです。
※東京高裁昭和54年6月18日

<処分の具体例>

・債権譲渡
・放棄
・相続
・差押
・相殺

ただし,仮に親権者側だけで十分扶養できるだけの経済状態であれば,扶養の分担の合意として有効と考えられることもあります(民法878条)。

2 養育費の合意額が低額という理由だけで増額請求は認められない(養育費変更請求)

離婚の際,養育費の金額を合意して離婚協議書に記載する,ということは多いです。
その後改めて考えて安すぎると考えるケースもあります。
そして,改めて協議して金額の変更に合意すれば問題ないです。

増額の要求について合意に達しない場合,家庭裁判所で判断する手続があります。
養育費増額請求の調停や審判です。

家庭裁判所で増額を認める基準について説明します。

(1)原則として合意内容の変更は認められない

特別な事情がない限り,増額などの変更は認められません。
合意が尊重される,ということです。

(2)極端に低い場合は増額が認められる

ところで,養育費の金額の算定には一定の基準,つまり相場があります。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用分担金の金額算定の基本(簡易算定表と具体例)
仮に合意した養育費の金額が相場より極端に低い場合は救済的に増額が認められることもあります。
また,極端に低い金額の合意は,子供の扶養請求権を不当に『処分』したとして扱われます。
扶養を受ける権利の放棄は無効となります(民法881条)。

一方,合意をした状況を原因として合意が無効となることもあります。
早く離婚を成立させたかったから夫の言いなりになって低い養育費で合意したという主張が典型例です。
これに関連する裁判例があります。
※仙台高裁昭和56年8月24日
やや古いケースですが,この件では,養育費(養育料)(子供の持つ)扶養料は別だという理論を採用しています。
既払いの養育費の控除も否定している部分については,一般化できないと思われます。

3 養育費について低額の合意よりもゼロの合意の方が,後から請求できる可能性が高い

以上の解釈論からは,低額の合意をすると有効になる可能性があり,ゼロ(放棄)だと無効ということになります。
養育費の合意が無効であれば,事後的に,調停・審判によって適正な額を決めてもらえることになります。
中途半端に低い金額の合意よりも有利のように感じられます。

しかし,実際に,養育費の合意について有効・無効が判断される際には合意に至った経緯・意図も関係します。
敢えて無効となることを意図して,極端に低い金額やゼロという合意をした場合は,有効となる可能性もあります。
法の悪用として権利濫用に該当する可能性があるからです。
とは言っても,実際には,客観的な金額の不合理性が重視される傾向が強いです。

4 再婚したら養育費を打ち切るという合意は無効とされる可能性が高い

離婚時に(元)妻が再婚したら,養育費は打ち切るという合意がなされているケースもあります。
この場合の合意の有効性を説明します。

簡単に言えば,再婚相手の収入が低くて,父(元夫)が養育費支払いを打ち切った場合に子供が苦境に陥る,という場合は,養育費を打ち切るという合意は無効となる可能性が高いです。
その理由は,養育費をもらう,というのは子供の権利だからです。
権利者以外が勝手に合意して,権利者が困るというのは不合理だ,ということです。
逆に,再婚相手が裕福で,養育費を打ち切っても特に困ることはない,という場合は,『打ち切る』という合意は有効と考えられるでしょう。

5 養育費は慰謝料などとの相殺はできない

例えば,離婚の慰謝料養育費が反対方向,ということがあります。
要するに(元)妻が慰謝料を払わないので,妻への養育費送金を止めるというような状況です。

形式的には,慰謝料と養育費を,相互に払いあう関係,になっています。
通常であれば,相殺ができる状態です。

しかし,養育費(扶養請求権)については,相殺が禁止になっています。
重要な『扶養』に関する権利として差押が禁止されています(民法881条)。
差押禁止債権については,(債務者側=養育費を支払う側からの)相殺が禁止されています(民法510条)。