1 過去の養育費や婚姻費用分担金の請求に関する問題
2 養育費の金額が定まっている場合,消滅時効は5年
3 金額が定まっていない場合は5年の消滅時効は適用されない
4 当事者の話し合いでどこまでさかのぼるかを決める
5 家庭裁判所の審判でさかのぼる期間が決められる
6 家裁は養育費支払を申立時からと決める傾向がある

1 過去の養育費や婚姻費用分担金の請求に関する問題

過去の養育費や婚姻費用分担を請求する際には過去のいつの分までさかのぼって請求できるのかという問題があります。
消滅時効支払の始期と呼ばれる理論的な問題です。
本記事では,過去の養育費や婚姻費用分担金の請求に関する法律的な問題を全体的に説明します。
なお,便宜的に養育費として説明しますが,婚姻費用分担金でも同じです。

2 養育費の金額が定まっている場合,消滅時効は5年

離婚の際,養育費を合意したり,調停,審判で金額が定まっている,ということがあります。
その後,養育費が支払われなくなった場合,消滅時効が適用されます。

養育費などの扶養に関する請求権は,定期給付債権とされ,消滅時効の期間は5年となります(民法169条)。
判例などではないですが,実務上の一般的な解釈です。

この解釈によれば,5年以内のものはまだ生きていますが,5年以上過去のものは,消滅時効が完成しているということになります。
なお,正確には,消滅時効が完成していても,請求自体は可能です。
これに対し,相手方が消滅時効を援用して初めて正式に請求できなくなることになります(民法145条)。

3 金額が定まっていない場合は5年の消滅時効は適用されない

離婚の際に養育費の金額を決めていない,というケースも多いです。
例えば,子供を引き取って育てているは,に対して過去の養育費の請求ができます。
このように養育費の金額が決まっていない場合定期給付債権としては扱われません。
つまり,5年の消滅時効は適用されません。

4 当事者の話し合いでどこまでさかのぼるかを決める

養育費の金額を決めていない場合,当事者(父と母)で話し合って,月額とともに,いつの分から支払うかも決めることができます。
この話し合い(交渉)が決裂して,決められない(合意に至らない)こともあります。
その場合は裁判所に判断してもらう方法を使うことになります。

5 家庭裁判所の審判でさかのぼる期間が決められる

過去の養育費を請求する状況を理論的に整理してみます。
本来なら夫(扶養義務者)が払うべき金額を含めて,妻(もう1人の扶養義務者)が立て替えて払った,ということになります。
そうすると,立替金という性格になります。
これは,貸金と同じ扱いなので,地方裁判所(または簡易裁判所)に提訴するということになりそうです。
しかし,裁判所は,一般の立替金(貸金)と同視しない考え方をとっています。
つまり,家庭の問題として,家庭裁判所で扱うということです。
詳しくいえば,金額・支払の始期を含む扶養権利義務の具体的内容を決めるということは審判事項とされているのです。
扶養義務の内容は,家庭裁判所が裁量によって決める,という趣旨です。
詳しくはこちら|家事事件|手続|種類・基本|別表第1/2事件・一般/特殊調停対象事件

6 家裁は養育費支払を申立時からと決める傾向がある

さかのぼる期間(養育費支払の始期)については,裁判所に大きな裁量があります。
裁判所が判断する要素しては,現実の支払能力が大きいです。
特に,不払い期間が長期間に及ぶ場合,累積額が多額となるので,資力は現実的な問題となり得ます。
逆に言えば,資力において,義務者(請求を受けた方)に問題がなく,かつ,不払いを正当化できるような特殊事情がないならば,遡ることについて制限は少ないです。
現在では支払の始期として調停か審判の申立の時点を選択する傾向が強いです。
しかし,裁判所は,個別的事情の内容によってこれとは違う時点を選択することもよくあります。
要するに,当事者(弁護士)の主張や証拠の選択によって結論が変わってくるということがいえるのです。
実際に例えば,定期給付債権として消滅時効の期間(5年)を流用して,申立時より5年前を支払の始期として選択した裁判例もあります(東京高裁昭和61年9月10日)。
また,裁判外で請求した時点までさかのぼるという判断もありえます(大判明治34年10月3日)。
これは古い判例ですが,現在でも,個別的な事情によっては請求時が選択されるケースは実際にあります。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用分担金請求の支払の始期(いつまでさかのぼるか)

本記事では,過去の養育費・婚姻費用分担金の請求をする時の問題となる消滅時効や支払の始期の全体的な説明をしました。
この中で,支払の始期の選択については裁判所の裁量が大きいです。
つまり,個別的事情の主張や立証のしかたによって結論が大きく変わることがあるのです。
現実に過去の養育費や婚姻費用分担金の問題に直面している方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。