【父母間の養育費とは別に子自身による扶養料の請求ができる】

1 父母間の養育費と子自身による扶養請求の関係
2 養育費と子自身による扶養請求が並立する状況
3 父母間の養育費と子自身による扶養請求の関係
4 不請求の合意の回避や増額請求の代替的活用方法

1 父母間の養育費と子自身による扶養請求の関係

離婚の際に,例えば母が子供を引き取ったら,通常,母が父に対して養育費を請求します。
この点,子が父に対して扶養料を請求する権利があります。
扶養料の請求(扶養請求)といいます。
この子自身による扶養料請求(父母間の)養育費とは理論的には別のものです。
理論だけではなく,実際に,両方の請求が認められるという関係にあります。
本記事では,(父母間の)養育費,と,子自身による扶養料請求の関係について説明します。

2 養育費と子自身による扶養請求が並立する状況

養育費とは別に子自身による扶養料の両方が請求される具体的な状況を整理します。
この例であれば,現実的には母が2つの請求をするような状況になるのです。

<養育費と子自身による扶養請求が並立する状況>

あ 父母間の養育費の合意(※1)

父・母の間には養育費の合意がある

い 子自身による扶養請求

子自身が父に扶養料の請求をした
詳しくはこちら|扶養に関する民法の規定の種類と内容(程度)のまとめ
母は法定代理人として訴訟を提起した

3 父母間の養育費と子自身による扶養請求の関係

養育費と子による扶養請求は,実質的に重複しているといえます。
しかし,扶養請求は一般的に尊重されます。
実質的には重複した請求なのですが,認められます。
しかも実質的な重複分を差し引くことは必須ではないのです。
個別的な事情によって差し引くかどうかを裁判所が判断するのです。

<父母間の養育費と子自身による扶養請求の関係>

あ 養育費の合意の拘束力

父母間の養育費の合意(前記※1)について
→子には拘束力を有しない

い 扶養料請求の可否(可能)

子は父(母)に対して扶養料の請求ができる

う 1事情としての考慮

父母間の養育費の合意(あ)は
扶養料算定の際に斟酌されるべき1つの事情となる

え 養育費相当額の控除の有無

扶養料の算定において
父母間の養育費の額は,当然に控除しなければならないものではない
=個別的事情によって控除の有無を判断する
※仙台高裁昭和56年8月24日
詳しくはこちら|養育費の合意とは別の子自身からの扶養料請求(肯定裁判例)

4 不請求の合意の回避や増額請求の代替的活用方法

養育費とは別に,子自身の扶養請求をするというのは一見重複したようにみえます。
この方法を活用する状況の1つは,養育費を請求しない合意があるケースです。
例えば,母から請求しようとすると,父が,これ以上払わないという合意があると反論するような状況です。
この合意(約束)は,父母の間に限定され,子を拘束するものではないのです。
子自身による扶養請求でこのハードルを回避することになります。
また,母から養育費増額の請求をしようとした時に,増額が認められるほどの事情の変化がないというケースでも活用できます。
当然,子自身による扶養請求では,過去から状況が変化したことは必要ではないのです。

本記事では,養育費とは別に子自身から扶養請求をする方法について説明しました。
この点,子自身による扶養請求は,養育費の増額請求と近いものです。
実際には,どちらの請求が有利な結果に結びつくかをしっかり判断して,最適な手段を選択する必要があります。
実際に,子自身による扶養請求が適していると思われる状況にある方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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