1 養育費を請求しない合意の効力
2 養育費不請求の合意は原則有効だが無効ともなる
3 養育費不請求の合意があっても子供からの扶養請求はできる
4 無効の養育費不請求の合意も金額算定に影響する
5 養育費不請求の合意の有効性を判断した裁判例(概要)
1 養育費を請求しない合意の効力
離婚が成立した時に,通常,子供の養育費の金額を決めます。
状況によっては,将来養育費を請求しないという約束(合意)をすることがあります。
具体的には,離婚協議書にこのような条項を記載するようなケースです。
これを(養育費の)不請求の合意と呼んでいます。
養育費の不請求の合意は無効となることもあります。
無効であれば子供を引き取った親(監護親)は相手(扶養義務者)に養育費の支払を請求できます。
本記事では,養育費の不請求の合意の基本的な効力について説明します。
2 養育費不請求の合意は原則有効だが無効ともなる
養育費を請求しないという合意は,原則として有効です。
しかし,特殊な個別的事情があると無効となります。
実際には,離婚の時の交渉の駆け引きで,他の条件と引き換えに無理やり合意させられたというケースもあるのです。
<養育費の不請求の合意の有効性>
あ 基本=有効
離婚に際して夫婦間で養育費を請求しない旨の合意をした
→原則として父母間では有効である
い 例外=無効
子の利益に反するなどの特段の事情があれば無効となることもある
※冨永忠祐編『改訂版 子の監護をめぐる法律実務』新日本法規出版2014年p175
なお,請求しない合意が公正証書になっていてもあまり変わりません。
ただし請求しない合意が調停調書である場合は,裁判所が合理性をチェックしているはずなので,後から無効になることはほぼありません。
3 養育費不請求の合意があっても子供からの扶養請求はできる
養育費の不請求の合意は父と母の間の合意です。
ですから,形式的に考えて,子供自身が父(母)に扶養料を請求することが封じられるわけではないのです。
ただし,実質的に2重の支払(請求)が認められるということではありません。
子供からの扶養料請求を認める状況は,実質的に,養育費に関する合意を解消することに似ています。
そこで,養育費の変更(増額)と同じような考え方がとられます。
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求の基礎的理論(法的根拠)
つまり,個別的な状況によって,子供からの扶養料請求が認められるのです。
<養育費の不請求の合意と子からの扶養請求>
あ 扶養請求権の放棄を否定する規定
扶養を受ける権利を処分することはできない
※民法881条
い 養育費の不請求の合意の意味
養育費の不請求の合意について
→親が子の法定代理人として扶養請求権を放棄したとは解されない
う 子からの扶養請求
事情に変更がある場合
→親が子を代理して他方の親に扶養料を請求することができる
※民法880条の趣旨
※宇都宮家裁昭和50年8月29日
なお,このように,父母の間の養育費と子供自身からの扶養料請求を別に扱うことは,不請求の合意がない一般的なケースでも問題となります。
詳しくはこちら|父母間の養育費とは別に子自身による扶養料の請求ができる
4 無効の養育費不請求の合意も金額算定に影響する
養育費の不請求の合意は,状況によっては無効となります(前記)。
つまり養育費を請求できる状態まで回復したといえます。
では,まったく無視できるかというと,そうではありません。
養育費(や扶養料)を請求する際に,金額を下げる方向で考慮される傾向があるのです。
ただし,このような特殊な合意は,背景に個別的な事情があるはずです。
状況次第で,まったく考慮されない,ということも十分にありえます。
<無効となった養育費の不請求の合意の影響>
あ 養育費の不請求の合意の無効(前提)
父母間で養育費を請求しない合意をした
しかし,子の利益に反するものとして無効となった
い 有効性とは別の影響
不請求の合意の存在は,養育費の金額(扶養料)を算定するにあたっての有力な考慮事情の1つとなる
※大阪高裁昭和54年6月18日
5 養育費不請求の合意の有効性を判断した裁判例(概要)
以上の説明のように,養育費の不請求の合意は,個別的な事情によって有効となることも無効となることもあります。
どのような事情が有効性に影響するのか,については,実際の裁判所の判断(裁判例)がとても参考になります。
多くの裁判例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|養育費を請求しない合意をした後の養育費請求の裁判例(事情変更の判断)
本記事では,養育費の不請求の合意の効力に関する基本的な内容を説明しました。
実際には,前記のように,個別的事情によって結論は大きく違ってきます。
主張や立証次第で結果に違いが出るテーマなのです。
実際に不請求の合意についての問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。