1 詐害行為取消権・否認権の趣旨は『債権者の平等』
2 詐害行為取消権・否認権は『詐害性+詐害意思』で認められる
3 詐害行為取消権の対象;典型的な類型
4 詐害行為取消権における『詐害性』の判断
5 資力悪化(破産)直前の『財産分与』の詐害性判断事例
6 詐害行為取消権は理論的には債権者平等|事実上『早い債権者を優遇』
7 信託契約においては詐害行為取消権が強化されている;『詐害信託』
8 信託契約においては差押がされにくくなっている;『倒産隔離』

1 詐害行為取消権・否認権の趣旨は『債権者の平等』

債務者が,意図的に,財産を失うような行為をすると,弁済できなくなり,債権者が困ります。
ごく一般的な経済状況の悪化であれば,『債権者の負うリスクの現実化』です。
特に是正,救済する必要はありません。
ただし,意図的,不当に債権者を妨害する目的での行為については是正する必要があります。
そこで,一定の『詐害行為』については,『取消』が認められることになっています(民法424条)。
なお,破産の手続において,手続前の一定の行為について『否認』する制度もあります(破産法160条)。
これらは基本的に同類の制度です。
以下,原則形態である詐害行為取消権(民法424条)を前提に説明します。

2 詐害行為取消権・否認権は『詐害性+詐害意思』で認められる

詐害行為取消権が行使できるのは,次に示すとおり,一定の不当な詐害行為,が対象です。

<詐害行為取消権の要件>

あ 被保全債権の存在

債権者が詐害行為の時点で債権を有していること

い 詐害行為(詐害性)の存在

ア 客観的要件(無資力要件)
その行為(詐害行為)により,債務者が無資力になるorその無資力状態がより悪化すること
→当該行為によって,債権者が回収不能となった,ということ(後記『4』)
イ 主観的要件
債務者が債権者を害することを知って詐害行為を行ったこと

<参考情報>

論点体系判例民法4 125頁

3 詐害行為取消権の対象;典型的な類型

実際に詐害行為取消権の対象となることがある取引の形態,類型を説明します。

(1)贈与

贈与は,対価なしで一方的に財産を失うという契約類型です。
典型的な詐害行為です。

(2)弁済

弁済も,経済的にはマイナスが消えるという意味ではトータルプラスマイナスゼロです。
しかし,債権者平等を害する,という意味を含めると債権者を害するに該当します。

(3)遺産分割

遺産分割協議は,遺産の具体的な承継方法を決めるものです。
別項目;法定相続→遺産分割が必要
財産の承継方法を決める,ということが財産権を目的とする行為と解釈されるのです(後掲判例1)。
詐害行為取消権の対象に含まれます。

(4)相続放棄

相続放棄は,身分行為という性格と捉えられています。
財産権を目的とするという性格はあっても薄いのです。
結局,詐害行為取消権の対象にはならないとされています。
詳しくはこちら|相続放棄の効果・他の制度との関係|遺産分割・遺留分・特別受益・姻族関係終了

(5)遺贈

遺贈については,取引とは性質が異なるため,詐害行為取消の対象にはならないと考えられます。
詳しくはこちら|相続債権者が想定外の遺贈で困った時の対応法;包括遺贈,対抗関係など

(6)財産分与

離婚に伴う財産分与も,財産権を目的とする行為と考えられます。
そこで,詐害行為取消権の対象に含まれます(判例2;後記『5』)。

4 詐害行為取消権における『詐害性』の判断

形式的なプラス・マイナスが均衡していても,詐害性が否定されるとは限りません。

実質的に回収不能や困難につながっている場合,詐害性が肯定されることがあります。
例えば,弁済,代物弁済,売買といった形式的プラスマイナスゼロというものについて詐害行為取消権が適用された判例があります。
売買を経済的に考えると,ある物権が失われ,代金を取得したことになります。
評価額,金額が同一であれば,形式的にはプラスマイナスゼロ,得も損もしていない,と言えそうです。

しかし,実際には,代金後払い(履行期が一定期間後)であれば,代金回収不能というリスクも生じます。
つまり結果的に物権を失ったが代金が入ってこない=マイナスのみ,となる可能性があるのです。
そこで,次のように,実質的なマイナスで判断します(後掲裁判例3,判例4,判例5)。

<詐害性判断基準>

両方に該当する場合
ア 一般財産の共同担保としての価値を実質的に毀損する
イ 債権者が債権の弁済を受けることがより困難となった

これに該当する取引や法律行為でこれに該当する例はいくつかあります。
結果的に債権者の回収が困難または不能となり,債務者がこのことを意図していたというような主観も含めて判断されています。

<形式的にはプラスマイナスゼロであるが詐害行為に該当すると判断された例>

※いずれも,判例後掲。
ア 弁済(民法493条)
イ 相当価格による代物弁済(民法482条)
ウ 適正価格による売買(民法555条)

5 資力悪化(破産)直前の『財産分与』の詐害性判断事例

破産申立がなされるなど,資力が悪化している状態で,夫婦仲が悪くなり,離婚するケースもあります。
離婚に伴い,一般的に『財産分与』が行なわれるのが通常です。
債権者としては,『財産を(元)妻に逃した』と思うことでしょう。
実際にこのような件で,裁判所が『詐害性』を判断した判例は多いです。

<『財産分与』の詐害性を判断した判例>

あ 詐害性判断基準

次のような『特段の事情』がある場合だけ『詐害行為』とする
ア 財産分与の制度趣旨に反して不相当に過大である
イ 財産分与に仮託(仮装)してなされた財産処分と言える
※最高裁昭和58年12月19日;判例2

い 詐害性を否定した判例

ア 大阪地裁昭和54年10月30日
債務超過が明らかという状況で妻に住宅を財産分与
イ 大阪地裁昭和61年6月26日
妻に住宅を財産分与
住宅は夫の唯一の財産であった
被担保債権(に係る債務)を妻が引き取ることが条件であった
ウ 京都地裁平成10年3月6日
住宅を妻に財産分与
妻は長期間別居しており,『夫の債務超過』の事情を知らなかった

う 詐害性を肯定した判例

ア 福岡高裁平成2年2月27日
住宅+隣接地,のうち『隣接地』について肯定
イ 浦和地裁平成5年11月24日
2回の贈与のうち1回について肯定

<参考情報>

月報司法書士14年10月p16〜

6 詐害行為取消権は理論的には債権者平等|事実上『早い債権者を優遇』

(1)詐害行為取消権を複数の債権者が行使

もともと,『詐害行為取消権』は,一定の取引や弁済を無効にする+財産を『債務者に』戻す,というものです。
詐害行為取消権を主張・行使した債権者が,他の債権者より『有利』ということは生じないはずです。
しかし,判例上,『財産の取戻し』は『直接債権者が行う』ことが認められています(最高裁昭和46年11月19日)。
なお,不動産などの例外(原則どおりに債務者名義に戻す)はあります。
債権者が直接金銭やその他の財産を取り戻した後は,理論的にはその『預かり物』を債務者に『返還』します。
しかし実際には『相殺』によって,『債権者が受け取ったまま』となるのが通常です。
結果的に『他の債権者には回らない』=『詐害行為取消権を行使した債権者が優先扱い』となります。

(2)複数の債権者による『詐害行為取消権』の行使

そうすると,複数の債権者が『優先扱い』を狙って詐害行為取消権を行使する,という発想が生じます。
この点,この場合の処理について法律上の規定はありません。

<複数の債権者による『詐害行為取消訴訟』の性質>

それぞれが別の訴訟物(請求権)
複数債権者による複数の訴訟提起を妨げる根拠がない
※債権総論〔増補版〕奥田昌道p316

この解釈を前提とすると,複数の提訴→弁論の併合がなされる,という可能性があります(民事訴訟法38条,136条)。
そして,最終的な処理内容は裁判所が判断することになります。
『返還を求める対象物』が債権など『可分』であっても理論的に『債権額按分』になる根拠がありません。
法律上の規定からは『早く執行した債権者が優先される』結果となるはずです。
一方,動産など,もともと『不可分』ということもあります。
このように扱いが読めない状態になります。

(3)債権者は,詐害行為取消訴訟提起前に『仮処分』が有用

そこで,債権者サイドとしては,事前に『仮処分』をしておくと良いです。

<詐害行為取消権保全のための仮処分>

受益者が行った供託に関する『還付請求権』への強制執行を保全する
→保全手続における『被保全債権』単位で保全される
※民事保全法65条

結局,この『仮処分』を行ったのが早い債権者が優先となります。
後から『仮処分』を行うと『先行する保全がなされている』ことを理由として『保全の必要性・緊急性』がない,と判断される可能性が出てくるのです。

7 信託契約においては詐害行為取消権が強化されている;『詐害信託』

信託契約等においても,詐害行為が適用されることがあります。
もともと,信託契約は形式的な所有権の移転を生じます。
使い方によっては財産を逃すということが用意にできる類型なのです。
そこで,信託法において,『詐害行為取消権』は強化されています。

(1)受託者の善意,悪意に関係なく詐害行為が成立する

一般的な詐害行為については,債務者が債権者を害することを知っていたという要件があります(前記『1』)。
これは,一般的な取引における当事者の利益を保護したものです。
売買であれば,対価として代金を支払っている,という負担が存在するのです。

この点,信託契約では,権利(所有権)の譲渡を受けた受託者対価を払っているわけではありません。
受託者は財産を預かる立場です。
独自の利益を得る立場ではないのです。
そこで受託者自身を保護するという必要性が乏しいのです。
そこで,受託者の主観=悪意,については不要とされているのです(信託法11条1項)。

一方,利益を得るのは受益者です。
受益者については,債権者を害することを知っていたことが要件とされます(信託法11条4項)。

(2)詐害行為に該当した場合,受益者が得た給付が取消請求の対象となる

信託契約が詐害行為取消により,原則的には取り消されるのは信託契約に基づく権利移転です。
しかし,詐害行為取消請求の時点で受益者が給付(受益)を受けているということもあります。

この場合,この給付も間接的ですが信託契約に起因すると言えます。
そこで,受益者の給付も取消の対象とすることが認められています(信託法11条4項)。

ただし,受益者の保護が必要です。
一般的な詐害行為取消権と同様です。
そこで,受益者が債権者を害することを知っていたことが要件となります。

(3)詐害行為に該当した場合,受益権自体の譲渡を請求することもできる

信託契約は,権利が受託者に移転しますが,あくまでも形式的なものです。
実質的な利益は,受益権となって受益者が保有します。
この性質から,詐害行為取消においては,受益権を債権者に譲渡するよう請求することも可能です(信託法11条5項)。

(4)自己信託が詐害行為の場合,取消を経ずに,直接執行もできる

委託者と受託者が同じ場合,信託財産の権利(所有権)自体は移転していません。
これを自己信託と言います。

この自己信託が詐害行為に該当する場合は,特例があります。
信託財産の権利は移転していないというところから,直接差押など強制執行ができます(信託法23条2項)。
具体例で説明します。
委託者=受託者=A,とします。
律儀に考えると,信託財産は受託者のAに帰属している状態です。
債権者が債権を有しているのは委託者のAです。
信託財産を差し押さえると,Aから『この財産は預かったものです』と受託者の立場を取られてしまいます。
受託者所有の信託財産を差押できないというのは信託法の明文ルールです(信託法23条2項)。

結局,信託法の直接執行により,このような言い訳を排除する,ということです。
というより,自己信託の詐害行為自体が差押禁止ルール目的の悪用という見方もできます。

8 信託契約においては差押がされにくくなっている;『倒産隔離』

(1)倒産隔離の機能

前記『5』で説明したとおり,信託契約については,一定の差押禁止という機能があります。
別の見方をすると,次のように整理できます。

<信託の倒産隔離の機能>

あ 受託者が債務超過になっても,受託者の債権者信託財産の差押ができない

要するに信託財産は預かり物受託者の実質的な所有物ではないという趣旨です(信託法23条1項)。

い 委託者が債務超過になっても,委託者の債権者信託財産の差押ができない

形式的に委託者の所有物ではないということが理由です。

このように,債務超過の際に差押から逃れる状態になるのです。
この機能に着目して倒産隔離と呼んでいます。
詳しくはこちら|倒産隔離|権利の帰属・信託の2段階で判断する|判例の判断フロー・基準まとめ

(2)倒産隔離の適正な活用例

倒産隔離の機能の典型的な利用法の具体例を示しておきます。

<希望内容>

・親から子供に財産を生前贈与したい
・将来的に子供が売却してしまうことや,子供の債権者から差押を受けるリスクは避けたい

<信託を利用した方法>

・親が委託者兼受託者となり,子供を受益者とする信託を設定します(信託行為)。

<効果>

・受益者である子供が収益を獲得することになります。
・子供が売却などの処分をすることはできません。
・子供の債権者が信託財産を差し押さえることはできません。

この方法を取ると,『生前贈与』に比べてメリットがあります。
別項目;子供に知らせずに生前贈与したい場合,信託で実現できる
なお,税務上は,『子供への贈与』として扱われます。
別項目;受益者連続信託の税務上の注意点

条文

[民法]
(詐害行為取消権)
第四百二十四条  債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

(弁済の提供の方法)
第四百九十三条  弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。

(代物弁済)
第四百八十二条  債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

(売買)
第五百五十五条  売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

[破産法]
(破産債権者を害する行為の否認)
第百六十条  次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一  破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二  破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3  破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

[信託法]
(詐害信託の取消し等)
第十一条
第十一条  委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合には、受託者が債権者を害すべき事実を知っていたか否かにかかわらず、債権者は、受託者を被告として、民法 (明治二十九年法律第八十九号)第四百二十四条第一項 の規定による取消しを裁判所に請求することができる。ただし、受益者が現に存する場合において、その受益者の全部又は一部が、受益者としての指定(信託行為の定めにより又は第八十九条第一項に規定する受益者指定権等の行使により受益者又は変更後の受益者として指定されることをいう。以下同じ。)を受けたことを知った時又は受益権を譲り受けた時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  前項の規定による請求を認容する判決が確定した場合において、信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者(委託者であるものを除く。)が当該債権を取得した時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、委託者は、当該債権を有する債権者に対し、当該信託財産責任負担債務について弁済の責任を負う。ただし、同項の規定による取消しにより受託者から委託者に移転する財産の価額を限度とする。
3(略)
4  委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合において、受益者が受託者から信託財産に属する財産の給付を受けたときは、債権者は、受益者を被告として、民法第四百二十四条第一項 の規定による取消しを裁判所に請求することができる。ただし、当該受益者が、受益者としての指定を受けたことを知った時又は受益権を譲り受けた時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
5  委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合には、債権者は、受益者を被告として、その受益権を委託者に譲り渡すことを訴えをもって請求することができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
6~8(略)

(信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等)
第二十三条  信託財産責任負担債務に係る債権(信託財産に属する財産について生じた権利を含む。次項において同じ。)に基づく場合を除き、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。以下同じ。)又は国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)をすることができない。
2  第三条第三号に掲げる方法によって信託がされた場合において、委託者がその債権者を害することを知って当該信託をしたときは、前項の規定にかかわらず、信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者のほか、当該委託者(受託者であるものに限る。)に対する債権で信託前に生じたものを有する者は、信託財産に属する財産に対し、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売又は国税滞納処分をすることができる。ただし、受益者が現に存する場合において、その受益者の全部又は一部が、受益者としての指定を受けたことを知った時又は受益権を譲り受けた時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
3~6(略)

判例・参考情報

(判例1)
[最高裁判所 平成11年6月11日]
共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。

(判例2)
[昭和58年12月19日 最高裁判所第二小法廷 判決]
 離婚における財産分与は,夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分 配するとともに,離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが,分与者の有責行為によつて離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられないものというべきであるところ,財産分与の額及び方法を定めるについては,当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきものであることは民法七六八条三項の規定上明らかであり,このことは,裁判上の財産分与であると協議上のそれであるとによつて,なんら異なる趣旨のものではないと解される。したがつて,分与者が,離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき右事情のひとつにほかならず,分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解すべきであるから,分与者が債務超過であるという一事によつて,相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく,相手方は,右のような場合であつてもなお,相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきである。そうであるとするならば,分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても,それが民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であ り,財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り,詐害行為として,債権者による取消の対象となりえないものと解する のが相当である。

(判例3)
[平成22年 5月27日 東京地裁 平21(ワ)36384号 リース料請求事件]
詐害行為取消権は,総債権者の共同担保となるべき債務者の一般財産(責任財産)を保全するための制度であるから,無資力である債務者が一般財産を減少させ得る法律行為をした場合に,これが債権者を害する債務者の一般財産減少行為,すなわち,詐害行為となるか否かについては,単に当該法律行為の前後において,計算上一般財産が減少したか否かという観点からだけではなく,たとえ計算上は一般財産が減少したとはいえないときでも,一般財産の共同担保としての価値を実質的に毀損して,債権者が自己の有する債権について弁済を受けることがより困難となったと認められる場合には,詐害行為に該当すると解するのが相当である(弁済の詐害行為を認めたものとして,最高裁昭和40年1月26日判決・裁判集民事77号129頁,相当価格による代物弁済について詐害行為取消しの対象となるとしたものとして,最高裁昭和48年11月30日判決・民集27巻10号1491頁,適正価格による売買について詐害行為を認めたものとして,最高裁昭和39年11月17日判決・民集18巻9号1851頁参照)。

(判例4)
[昭和40年 1月26日 最高裁第三小法廷 昭37(オ)1331号 詐害行為取消等請求事件]
 所論は、原判決が、D商店が上告人に対してなした五八万九五八一円の弁済は、債権者たる被上告銀行に対する詐害行為として取消を免れない旨判示したことについて、もともと弁済行為は準法律行為であつて民法四二四条の適用はなく、本件の如き履行期の到来した債務の弁済にあつては尚更であり、また、上告人とD商店とは通謀して被上告銀行の債権を害する目的をもって、右弁済をなしたものではない、と主張するに帰するものである。しかし、債権者が、弁済期の到来した債務の弁済を求めることは、債権者の当然の権利行使であつて、他に債権者があるからといつて、その権利行使を阻害されるいわれはなく、また、債務者も債務の本旨に従い履行を為すべき義務を負うものであるから、他に債権者があるからといつて、弁済を拒絶することもできない。そして債権者平等分配の原則は、破産宣告をまつて始めて生ずるものであるから、債務超過の状況にあつて一債権者に弁済することが他の債権者の共同担保を減少する場合においても、右弁済は、原則として詐害行為にならないものといすべきである。しかし、債務者が一債務者と通謀し、他の債権者を害する意思をもつて弁済したような場合にあつては、詐害行為になるものと解するのを相当とする(最高裁判所昭和三一(オ)第年四二〇号同三三年九月二六日第二小法廷判決、民集一二巻一三号三〇二二頁参照)。原判決は、右と同旨の見解に立つて判断したものであり、そして原判決がD商店が上告人になした前記五八万九五八一円の弁は、右両者において第二順位の根抵当権付債権者たる被上告銀行を害することを十分知つていたのみならず、むしろそれを目的としていた旨の認定も、その認定せる事実関係からこれを肯認し得るところである。原判決に所論の違法は存せず、論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて、原判決を非難するか又は原審の認定にそわない事実を主張して、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。

(判例5)
[昭和48年11月30日 最高裁第二小法廷 昭48(オ)235号 詐害行為取消請求事件]
 しかしながら、原判決の右判断は、これを是認することができない。けだし、債務超過の状態にある債務者が、他の債権者を害することを知りながら特定の債権者と通謀し、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもとに、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡したときは、たとえ譲渡された債権の額が右債権者に対する債務の額を超えない場合であつても、詐害行為として取消の対象になるものと解するのが相当だからである(大審院大正六年(オ)第一五三号同年六月七日判決・民録二三輯九三二頁、同大正八年(オ)第一九三号同年七月一一日判決・民録二五輯一三〇五頁、同昭和一五年(オ)第一一五六号同一六年二月一〇日判決・民集二〇巻七九頁、最高裁昭和二六年(オ)第七四四号同二九年四月二日第二小法廷判決・民集八巻四号七四五頁、同昭和三七年(オ)第一〇七号同三九年一一月一七日第三小法廷判決・民集一八巻九号一八五一頁参照)。
 
[昭和39年11月17日 最高裁第三小法廷 昭37(オ)107号 詐害行為取消請求事件]
 論旨は、要するに、本件売買は適正価格でなされたものであるから、詐害行為にあたらないのにかかわらず、これを詐害行為にあたるとした原判決は、法令の適用を誤つた違法がある、というのである。
 債務超過の債務者が、特に或る債権者と通謀して、右債権者のみをして優先的に債権の満足を得しめる意図のもとに、自己の有する重要な財産を右債権者に売却して、右売買代金債権と同債権者の有する債権とを相殺する旨の約定をした場合には、たとえ右売買価格が適正価格であるとしても、右売却行為は民法四二四条所定の詐害行為にあたるものと解するのを相当とする(大審院大正一三年四月二五日言渡判決、民集三巻一六五頁、同昭和八年五月二日言渡判決、民集一二巻一〇五七頁参照)。