1 詐害行為取消権の保全(処分禁止の仮処分と解放金への権利行使)
2 詐害行為取消に関する仮処分の被保全債権
3 保全の必要性の疎明と判断
4 詐害行為取消に関する仮処分の解放金
5 仮処分解放金の金額算定
6 仮処分解放金についての権利行使の方法
7 仮処分解放金の法的位置づけと権利行使方法(基本)
8 仮処分解放金の差押における複数債権者間の調整

1 詐害行為取消権の保全(処分禁止の仮処分と解放金への権利行使)

債権者が詐害行為取消権として,債務者の行為を取り消す手段があります。
詳しくはこちら|詐害行為取消権(破産法の否認権)の基本(要件・判断基準・典型例)
実務では,詐害行為取消権の行使の前に,保全の手続をしておくことが多いです。
本記事では,詐害行為取消に関する処分禁止の仮処分や,仮処分解放金について説明します。

2 詐害行為取消に関する仮処分の被保全債権

詐害行為取消に関する仮処分は,理論的な構造が複雑です。具体的には,被保全債権が何かということです。詐害行為取消権そのものではなく,この中に含まれる特定財産の返還請求権が被保全債権なのです。
このことは,他の法的な解釈・扱いを考える前提となります。

<詐害行為取消に関する仮処分の被保全債権>

あ 処分禁止の仮処分の趣旨

詐害行為取消権の行使において
事前に目的物の処分を禁止しておく

い 2つの権利の包含関係(前提)

詐害行為取消権には,特定財産の返還請求権を含む

う 被保全債権

仮処分の被保全債権は
特定財産の返還請求権とする
詐害行為取消権(そのもの)が被保全債権となるわけではない
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p314

3 保全の必要性の疎明と判断

ところで,詐害行為取消権自体が通常の債権とは違う特殊な性質を持っています。取引の当事者以外の者が取引を解消するという特徴です。
つまり,取引の安全を害するとか,債務者の経済活動を妨害するという側面もあり得るのです。
そこで,暫定措置としての保全(仮処分)の審理では,この特殊性への配慮が必要になります。仮処分を認めるハードルが(一般的な保全よりも)高いという傾向があるのです。

<保全の必要性の疎明と判断>

あ 詐害行為取消権による弊害

詐害行為取消権の行使は,『ア・イ』の弊害を生じる可能性がある
ア 取引の安全を害する
イ 債務者の経済的更生を妨げる

い 保全の必要性の判断の傾向

保全の必要性の疎明については慎重に判断する必要がある
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p316

う 疎明の内容の例

債権者が『ア〜オ』の事項を調査し,報告書として作成・提出する
ア 債務者が財産処分をするに至った経緯や事情
イ 債務者の財産状態
ウ 債務者と受益者(転得者)との関係
エ 受益者(転得者)の動き
オ 他の債権者の動き
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p316

4 詐害行為取消に関する仮処分の解放金

裁判所が,詐害行為取消に関する処分禁止の仮処分を認める際に,解放金を定めることができます。債権者としては,金銭の回収が最終的な目標なので,目的物の代わりに金銭(解放金)が確保されることは通常許されるのです。

<詐害行為取消に関する仮処分の解放金>

あ 解放金の有無の判断

裁判所の裁量により仮処分解放金を定めることができる

い 債権者の意見の考慮

解放金の有無の判断において
債権者の意見を聞くことが必要である
※民事保全法25条1項
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p318,319

5 仮処分解放金の金額算定

前記のように裁判所が仮処分解放金を定める場合には,当然,解放金の金額を算定する必要があります。
これは目的物の返還に代わるものなので,上限は目的物の価格となります。
仮処分債権者の債権額が目的物の価格よりも低い場合は,債権額と同じ金額を仮処分とします。しかし,他の債権者が後から供託金の差押(配当加入)をした場合は,仮処分債権者の債権の額だけを確保しても,事後的な差押の際,配当が不足してしまいます。そこで他の債権者の債権の金額分を加算した額を仮処分解放金として定めることもあります。

<仮処分解放金の金額算定>

あ 目的物の価格<債権額

目的物の価格が仮処分債権者の債権額より小さい場合
目的物の価格を基準とする

い 目的物の価格>債権額

ア 原則
目的物の価格が仮処分債権者の債権額より大きい場合
原則として,仮処分債権者の債権額を基準とする
イ 例外
他の一般債権者の権利行使の可能性が明らかである場合
権利行使が想定される債権の額も考慮する(加算する)
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p320,321
ウ 取消の範囲(参考)
詐害行為取消権による取消の範囲について
『イ』と同様に他の債権者の配当加入の可能性を反映させる
詳しくはこちら|詐害行為取消による取消の範囲・取戻しの方法と相殺による実質的優先弁済

6 仮処分解放金についての権利行使の方法

裁判所が仮処分解放金を定めて,その後,受益者が解放金を供託したケースを考えます。
この場合でも,詐害行為取消権の行使の結果として目的物の返還請求権が生じることは否定されません。そこで,目的物仮処分解放金のいずれに対しても権利行使をすることが可能となります。

<仮処分解放金についての権利行使の方法>

あ 本案訴訟の請求(訴訟物)

本案訴訟の請求内容は,目的物の給付請求である
供託金請求ではない

い 本案訴訟の勝訴後の権利行使

詐害行為取消権による取消を裁判所が認めた時に
仮処分の目的物が未だ受益者の元にあるときは
債権者は,『ア・イ』のいずれかを選択して行使できる
ア 目的物に権利行使する
イ 仮処分解放金に権利行使する
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p319

7 仮処分解放金の法的位置づけと権利行使方法(基本)

詐害行為取消権を行使した債権者が仮処分解放金について権利行使をする方法を考えます。
まず,供託された解放金の還付請求権を持つ者は債務者です。
そこで,債権者としては,債務者が持つ還付請求権差し押えるということになります。還付請求権の差押ができるのは,詐害行為取消権を行使した債権者に限らず,他の債権者も含まれます。
もちろん,差押をするには,詐害行為取消権を行使した債権者も他の債権者も,債務名義が必要です。
そこで,実務では,詐害行為取消権の訴訟とともに給付請求訴訟も提起するのが一般的です。

<仮処分解放金の法的位置づけと権利行使方法(基本)>

あ 還付請求権者

還付請求権者は債務者である
仮処分債権者ではない
※民法425条参照

い (全)債権者の回収方法

各債権者は,債務者が持つ還付請求権に対して債権執行(差押)をする
仮処分債権者も,債務名義を得て債権執行をすることになる

う 仮処分債権者の具体的アクション

仮処分を得た債権者は『ア・イ』の2つの訴訟を提起する
ア 本案訴訟(詐害行為取消訴訟)
イ 給付請求訴訟(詐害行為取消権の被保全債権に係る請求)
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p325

8 仮処分解放金の差押における複数債権者間の調整

前記のように,仮処分解放金の還付請求権を,複数の債権者が差し押えるということがあり得ます。原理的には,(仮処分を申し立てた債権者も含めて)全債権者は平等の立場です。仮処分債権者は一定の手間をかけていますが,優先にはならないのです。ただし,この手間をかけたことを報いるため劣後になることはないという限度では保護されています。

<仮処分解放金の差押における複数債権者間の調整>

あ 原理=平等扱い

還付請求権に対する債権執行について
仮処分債権者と他の債権者は,平等に権利行使ができる

い 手続上の調整

仮処分債権者が還付請求権の差押をする時に限り,他の債権者も差押ができる
→仮処分債権者以外の債権者が先に還付請求権の差押をすることはできないという意味である
※民事保全法65条
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p324,325

本記事では,詐害行為取消権を行使する際の処分禁止の仮処分と,これに伴う仮処分解放金について説明しました。
実際には,個別的な事情によって最適な方法は違ってきますし,また,主張・立証のやり方次第で結果が変わることもあります。
詐害行為取消権に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。