【詐害行為取消権のための保全(処分禁止の仮処分や仮差押)の基本】

1 詐害行為取消権の保全(処分禁止の仮処分と解放金への権利行使)
2 詐害行為取消権の性質と保全の関係
3 詐害行為取消に関する仮処分の被保全債権
4 保全の必要性の疎明と判断
5 詐害行為取消権のための保全における仮処分解放金(概要)
6 詐害行為取消権による返還の目的物ごとの保全の内容

1 詐害行為取消権の保全(処分禁止の仮処分と解放金への権利行使)

債権者が詐害行為取消権として,債務者の行為を取り消す手段があります。
詳しくはこちら|詐害行為取消権(破産法の否認権)の基本(要件・判断基準・典型例)
実務では,詐害行為取消権の行使の前に,保全の手続をしておくことが多いです。
本記事では,詐害行為取消に関する保全(処分禁止の仮処分や仮差押)の手続の基本的事項を説明します。
基本的に不動産の返還を求めるケースを前提として説明し,最後にそれ以外の財産を目的とする場合の保全処分を説明します。

2 詐害行為取消権の性質と保全の関係

詐害行為取消権の行使を前提とした民事保全ができるかどうかは,詐害行為取消権の法的性質と関わります。判例・通説は財産の返還請求権を含む見解(折衷説)をとっています。

<詐害行為取消権の性質と保全の関係>

あ 詐害行為取消権の性質(相手方)

訴訟の相手方は,逸出した財産の返還を求める受益者or転得者である(折衷説)
※大連判明治44年3月24日

い 保全の可否と相手方

受益者or転得者は,返還請求の対象物を所有する
受益者or転得者を相手方(債務者)として民事保全の処分をすることができる

3 詐害行為取消に関する仮処分の被保全債権

詐害行為取消に関する仮処分は,理論的な構造が複雑です。具体的には,被保全債権が何かということです。詐害行為取消権そのものではなく,この中に含まれる特定財産の返還請求権が被保全債権なのです。
この考え方により,保全の相手方(債務者)を受益者や転得者とすることになるので,形式面で保全処分に整合するのです。

<詐害行為取消に関する仮処分の被保全債権>

あ 処分禁止の仮処分の趣旨

詐害行為取消権の行使において
事前に目的物の処分を禁止しておく

い 2つの権利の包含関係(前提)

詐害行為取消権には,特定財産の返還請求権を含む(折衷説)
※大連判明治44年3月24日

う 被保全債権

仮処分の被保全債権は
受益者or転得者に対する特定財産の返還請求権とする
詐害行為取消権(そのもの)が被保全債権となるわけではない
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p314
※浅田秀俊稿『詐害行為取消権に基づく民事保全』/『判例タイムズ1078臨時増刊』2002年2月p133

4 保全の必要性の疎明と判断

ところで,詐害行為取消権自体が通常の債権とは違う特殊な性質を持っています。取引の当事者以外の者が取引を解消するという特徴です。
つまり,取引の安全を害するとか,債務者の経済活動を妨害するという側面もあり得るのです。
そこで,暫定措置としての保全(仮処分)の審理では,この特殊性への配慮が必要になります。仮処分を認めるハードルが(一般的な保全よりも)高いという傾向があるのです。

<保全の必要性の疎明と判断>

あ 詐害行為取消権による弊害

詐害行為取消権の行使は,『ア・イ』の弊害を生じる可能性がある
ア 取引の安全を害するイ 債務者の経済的更生を妨げる

い 保全の必要性の判断の傾向

保全の必要性の疎明については慎重に判断する必要がある
※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p316

う 疎明の内容の例

債権者が『ア〜オ』の事項を調査し,報告書として作成・提出する
ア 債務者が財産処分をするに至った経緯や事情イ 債務者の財産状態 原則としては債務者の財産を引き当てにすべき状況である
ウ 債務者と受益者(転得者)との関係エ 受益者(転得者)の動きオ 他の債権者の動き ※梶村太市ほか編『プラクティス民事保全法』青林書院2014年p316
※浅田秀俊稿『詐害行為取消権に基づく民事保全』/『判例タイムズ1078臨時増刊』2002年2月p133

5 詐害行為取消権のための保全における仮処分解放金(概要)

詐害行為取消権のために行う処分禁止の仮処分では,裁判所は通常,仮処分解放金を定めます。
解放金は,処分を禁止された保全の目的物に代わって,債権者の権利行使の引き当てとして機能します。
解放金については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|詐害行為取消権のための民事保全の解放金(金額算定・権利行使の方法)

6 詐害行為取消権による返還の目的物ごとの保全の内容

以上の説明は,詐害行為取消権の行使により不動産の返還を請求するというものを前提としていました。
この点,実際には,数は少ないですが,不動産以外を目的物とする詐害行為取消権の行使もあります。返還請求の目的物の種類によって,保全処分の内容も違ってきます。これをまとめます。

<詐害行為取消権による返還の目的物ごとの保全の内容>

あ 不動産

ア 原則 不動産の譲渡(逸出)が詐害行為である場合
原則として受益者or転得者を債務者として処分禁止の仮処分を行う
イ 例外 価額賠償しか認められない状況である場合
転得者or受益者の一般財産に対して仮差押を行う

い 動産

動産の譲渡(逸出)が動産である場合
処分禁止の仮処分+占有移転禁止の仮処分を行う

う 債務弁済

債務の弁済が詐害行為である場合
債権者は,自己に弁済額と同額の金銭の支払を求めることができる
→受益者の一般財産に対して仮差押を行う

え 担保設定

担保の設定(供与)が詐害行為である場合
受益者(担保権者)を債務者として,担保権について処分禁止の仮処分を行う
※浅田秀俊稿『詐害行為取消権に基づく民事保全』/『判例タイムズ1078臨時増刊』2002年2月p134〜136

本記事では,詐害行為取消権を行使するための保全処分の基本的事項を説明しました。
実際には,個別的な事情によって最適な方法は違ってきますし,また,主張・立証のやり方次第で結果が変わることもあります。
詐害行為取消権に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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