【詐害行為取消による取消の範囲・取戻しの方法と相殺による実質的優先弁済】
1 詐害行為取消による取消の範囲・取戻しの方法と優先弁済
債務を負った者が不当な行為で債権回収を困難(不可能)にした場合には、債権者はこの行為を取り消すことができる場合があります。
詳しくはこちら|詐害行為取消権(破産法の否認権)の基本(要件・判断基準・典型例)
詐害行為として取り消された場合、実際に債務者から第三者に渡った財産を取り戻すことになります。
この取り戻す方法は、原理と現実は異なります。その結果、詐害行為取消権を行使した債権者は優先弁済を受ける結果となります。
本記事では、このような、詐害行為取消権の行使の結果として、取消となる範囲と財産を取り戻す方法について説明します。
2 取消の範囲(原則=取消債権者の債権額)
債権者取消権によって取り消される範囲は、最小限度に抑えられます。通常は、取消債権者の債権額が限度となります。
取消の範囲(原則=取消債権者の債権額)
あ 基本
原則として、詐害行為時の取消債権者の債権額を標準とする
※大判大正6年1月22日
い 按分比例による縮減(否定)
他の債権者と按分比例によって所得すると想定される額に制限されない
=取消債権者の債権全額を標準とする
※大判昭和8年2月3日
※大判昭和16年2月10日
う 遅延損害金の加算
詐害行為時以降発生する遅延利息は加算する
※最高裁昭和35年4月26日
※最高裁平成8年2月8日
3 取消の範囲(他の債権者の債権額の加算)
例外的に、取消債権者の債権額を超えて取消が認められることもあります。具体的には、取り戻した財産について、後から他の債権者が配当加入してくることが想定されるという状況です。この場合は想定される配当加入の金額を加算した範囲で取り消すことになります。
取消の範囲(他の債権者の債権額の加算)
あ 基本
ほかにも債権者が多数あるということだけでは取消債権者の債権額を超える取消権の行使は認められない
※大判大正9年12月24日
い 例外的な加算
他の債権者が配当加入を申し出ることが明らかである場合
→取消債権者は自己の債権額を超えて取消権を行使できる
※大判大正5年12月6日
※大判大正7年12月6日
う 他の債権者に関する主張・立証
取消債権者は、他の債権者の存在とその債権額を主張・立証すれば足りる
配当加入しないという事情は被告が挙証すべきである
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅱ 債権(1)債権の目的・効力(2)』有斐閣2011年p906
4 取戻しの方法(現物返還と価額賠償)
次に、詐害行為取消権の行使による取消が認められた後の財産の取戻しの方法について説明します。
まず、原則として、流出した財産をそのまま元に戻す(現物返還)ことになります。例外的に、これが不可能であれば、代わりに賠償金を請求することになります。
取戻しの方法(現物返還と価額賠償)
あ 原則
取消債権者の取得する権利は、原則として現物の返還請求権である
い 例外
現物の返還請求が不可能or著しく困難な場合
→損害賠償(価額賠償)請求権が認められる
例=善意の譲受人(=転得者)が生じた
※大判昭和7年9月15日
5 現物返還(取戻し)の方法
詐害行為が取り消されると、前記のように、原則として現物が返還されることになります。
しかし、債務者は財産を意図的に流出させようとしたのです。戻された財産を素直に債権者への弁済に用いることは期待できません。
そこで、最高裁は、詐害行為取消権を行使した債権者が直接取り戻す(受け取る)ことを認めました。金銭を債権者が受け取るという方法が典型例です。
ただし、不動産であれば、債権者が単独で登記を債務者名義に戻すことが可能です。そこで、原理どおりに債務者に戻す方法がとられます。
現物返還(取戻し)の方法
あ 金銭・動産
金銭や動産の返還請求について
仮に債務者が受領しないと処置に困る
→取消債権者は自己に直接支払or引渡の請求をすることができる
※大判大正10年6月18日
※最高裁昭和39年1月23日
い 不動産
目的物が不動産である場合
確定判決があれば債務者の協力がなくても登記申請が可能である
※不動産登記法63条
金銭や物のように債務者の受領行為を必要とすることはない
→強制執行の準備手続としての責任財産回復のためには、登記名義の回復で足りる(後記※1)
6 不動産登記の回復の方法
詐害行為取消権によって不動産を取り戻すには、前記のように登記を回復します。
具体的には、移転登記について抹消登記を行うという方法です。一方、逆方向に移転する登記によって登記名義を回復する方法を認める判例もあります。
不動産登記の回復の方法(※1)
あ 原則
抹消登記をする方法による
※大判明治39年9月28日
※大判明治41年11月14日
※大判大正6年3月31日(登録)
※大判昭和7年8月9日
い 例外
移転登記を認める判例もある
※最高裁昭和40年9月17日
7 財産を取戻した債権者による相殺
前記のように、金銭であれば、詐害行為取消権を行使した債権者が直接受け取ることができます。
この取り戻した財産は債務者のものです。そこで、法的には債務者に返還する義務があります。
一方、最初から債権者は債務者に対して債権(被保全債権)を持っています。
この債権と債務を相殺することができます。
結果的に、詐害行為取消権を行使した債権者は、他の債権者よりも優先的に弁済を受けた状態になります。
財産を取戻した債権者による相殺
あ 回収物の返還義務
詐害行為取消権の行使により債権者Aが金銭を取戻した場合
→債権者Aは債務者に回収した金銭を返還する義務を負う
い 債権者が有する債権
債権者Aは債務者に対して債権を有する(被保全債権)
う 相殺による事実上の優先
債権者Aは、『あ』の債務と『い』の債権を相殺する
→結果的に詐害行為取消権を行使した債権者が優先される
8 複数の債権者による詐害行為取消権の行使(概要)
前記のように、詐害行為取消権の行使によって債権者は事実上の優先弁済を受けられます。
そこで、複数の債権者が先を争って詐害行為取消権を行使する状況が生まれます。このようなケースでの法的扱いは複雑になります。
詳しくはこちら|複数の債権者による詐害行為取消権の行使(訴訟の併合・取戻しの執行)
実務では仮処分を活用することが多いですが、これによって他の債権者よりも優先扱いがなされるわけではありません。
詳しくはこちら|詐害行為取消権のための保全(処分禁止の仮処分や仮差押)の基本
本記事では、詐害行為取消権による取消の範囲と財産の取り戻しの方法について説明しました。
実際には、詐害行為取消権を行使して事実上の優先弁済を受けるためには工夫が必要となることがあります。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。


