【複数の債権者による詐害行為取消権の行使(訴訟の併合・取戻しの執行)】

1 複数の債権者による詐害行為取消権の行使
2 複数の債権者による詐害行為取消訴訟の提起
3 複数の債権者による取戻しの執行
4 詐害行為取消を保全する仮処分(概要)

1 複数の債権者による詐害行為取消権の行使

債務者による不当に財産を流出される行為は詐害行為取消権によって取り消されることがあります。
詳しくはこちら|詐害行為取消権(破産法の否認権)の基本(要件・判断基準・典型例)
取り消されると,詐害行為取消権を行使した債権者は結果的に優先的に弁済されることになります。
詳しくはこちら|詐害行為取消権による取戻しの方法と相殺による実質的優先弁済
そこで,複数の債権者が先を争って詐害行為取消権を行使することになるケースもあります。
本記事では,複数の債権者が詐害行為取消権を行使した際の法的扱いについて説明します。

2 複数の債権者による詐害行為取消訴訟の提起

そもそも,複数の債権者がそれぞれ詐害行為取消権を行使するつまり,訴訟を提起することができるのでしょうか。
法律上1つの訴訟にまとめるというような規定がありません。そこで,複数の訴訟の提起があり,複数の訴訟が係属する状態は認められます。
ただし,実際は審理内容の大部分が重複するので,訴訟の進行が同等であれば,通常は弁論の併合により,手続としては実質的に一体となります。

<複数の債権者による詐害行為取消訴訟の提起>

あ 訴訟物(請求権)の個数

複数の債権者がそれぞれ詐害行為取消権を有する
→それぞれが別の訴訟物(請求権)である

い 複数の詐害行為取消訴訟の併存

複数の債権者が,複数の詐害行為取消訴訟を提起することについて
→これを妨げる根拠がない
=複数の訴訟提起は可能である
※奥田昌道『債権総論 増補版』p316

う 実務的な扱い(併合)

同一の債務者に対する複数の詐害行為取消訴訟について
→弁論の併合がなされる傾向がある
※民事訴訟法38条,136条

3 複数の債権者による取戻しの執行

複数の債権者が詐害行為取消権を認める判決を獲得したとします。それぞれの債権者が債務者から第三者に渡った財産を取り戻す(執行)ことができます。
ここでも,法律上,複数の取り戻し(執行)の調整をする規定はありません。そこで単純に早く執行した者が優先される(制限なく執行できる)ということになります。

<複数の債権者による取戻しの執行>

あ 複数の取戻しの執行(前提)

複数の債権者が詐害行為取消訴訟の勝訴判決に基づいて取り戻す執行をした

い 法的扱い

この状況で債権額按分とするような規定はない
早く執行した者が優先されることになるはずである

4 詐害行為取消を保全する仮処分(概要)

複数の債権者の間では,前記のように先に詐害行為取消訴訟を提起して,判決を得て執行(財産の取戻)をすることで,優先的に弁済を受けるができます。
ところで,実務では,詐害行為取消訴訟を提起する前に,保全するために処分禁止の仮処分を申し立てることがよくあります。この仮処分の手続では,複数の債権者の間の利害によって審理や権利行使が複雑になる傾向があります。
詐害行為取消に関する仮処分については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|詐害行為取消権のための保全(処分禁止の仮処分や仮差押)の基本

本記事では,複数の債権者による詐害行為取消権の行使について説明しました。
実務には,個別的な状況に応じて最適な手法・工夫をすみやかに実行することが優先的な弁済を受けることにつながります。
実際に詐害行為(取消権)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【詐害行為取消による取消の範囲・取戻しの方法と相殺による実質的優先弁済】
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