【詐害的会社分割→詐害行為取消権・否認権の適用→平成26年会社法改正】

1 会社分割での「債権者を害する」ことのケア|詐害的会社分割・抜け殻分割

詐害的な会社分割における債権者保護
会社分割では『資金・事業用財産・事業そのもの』の移転が伴うことが多いです。
そこで『債権者を害する』ということが類型的に生じる可能性があります。
形式的な『債権者保護』の手続は法律上規定されています。
詳しくはこちら|会社分割|基本的な流れ・債権者保護手続|略式手続・簡易手続
しかし、法律上の『債権者保護手続』では救済されないけれど害される、というケースも生じます。
『詐害的会社分割』『抜け殻分割』などと呼ばれています。
ここでは『詐害的な会社分割』があった場合の法律的な扱いについて説明します。

2 ネーミングの統一(前提)

会社分割では、法律上もいくつかの『ネーミング』があります。
ちょっと分かりにくいので、本記事では次のように統一します。

<用語の統一>

あ 旧会社

吸収分割会社・新設分割会社
事業譲渡の『譲渡』会社

い 新会社

吸収分割承継会社・新設分割設立会社
事業譲渡の『譲受』会社

3 詐害的会社分割への詐害行為取消権の適用(判例)

従来から詐害的な会社分割については、詐害行為取消権や破産法の否認権が主張されるケースがありました(民法424条、破産法160条)。
そこで、会社分割は詐害行為取消権・否認権の対象となるか、ならないか、ということが争点となりました。
以前は裁判所の判断は肯定・否定と別れており、統一的見解に至っていませんでした。
しかし、その後、最高裁がこれを認め、見解が統一されるに至りました。
結局、一定の詐害的な前提があれば、会社分割が詐害行為取消権の対象になります。

<詐害的会社分割への詐害行為取消権の適用(判例)>

あ 詐害行為取消権の適用(肯定)

会社分割にも詐害行為取消権は適用される
債権保全に必要な限度での新会社への権利承継が取り消される(効力を否定する)
※最高裁平成24年10月12日;判例1

い 会社分割を詐害行為として認めた裁判例

最高裁平成24年10月12日;判例1・判例2
東京地裁平成22年5月27日;判例4
東京高裁平成22年10月27日;判例5
大阪地裁平成21年8月26日;判例6
大阪高裁平成21年12月22日;判例7

う 会社分割に対する否認権(破産法)行使を認めた裁判例

福岡地裁平成21年11月27日
福岡地裁平成22年9月30日;判例3

4 詐害的会社分割に関する裁判例

会社分割による事業の立て直しは社会に役立つ正当なものという側面もあります。
『詐害行為』の判断を説明します。
一般的な詐害性の判断については、多くの判例が蓄積されています。
簡単に言えば一般財産(責任財産)の減少ということになります。
より正確には次のようになります。

<詐害性判断基準(概要)>

『ア・イ』のいずれにも該当する場合詐害性が認められる
ア 一般財産の共同担保としての価値を実質的に毀損するイ 債権者が債権の弁済を受けることがより困難となった 詳しくはこちら|詐害行為取消権(破産法の否認権)の基本(要件・判断基準・典型例)

5 詐害的な会社分割の典型例

会社分割に関する詐害行為についても、多くの裁判例があります(前述)。
いずれも分割時に業績回復見込み、債務弁済の見込みがない状態を意図的に作出したという極端な事例です。

詐害的な会社分割の典型例

債務超過に陥った株式会社(A社とする)が、
優良事業に関する権利義務だけを新設分割により設立会社(B社とする)に移転したうえで、
②A社の株主・取締役またはその親族等がB社から株式の発行を受けることにより、B社において実質的に同一の事業を継続する一方で、B社に移転されなかった債務の債権者(残存債権者)は、めぼしい資産がなく不採算事業だけが残ったA社に取り残される、といった事例・・・
※田中亘著『会社法 第3版』東京大学出版会2021年p688

6 詐害性の判断基準

ところで、会社分割をした上で、一定の事業を新会社において存続をする方法をとることは実際によくあります。この場合には、債権者の引当は旧会社の財産だけ、ということになります。状況によっては詐害性がある(詐害的である)といえることもありますが、すべてのケースで詐害性があるというわけではありません。
抽象的な基準としては、残存債務者が受けられる(見込みの)弁済額が減少した場合に詐害性が認められる、ということになります。
ただ、実際にはその判定は簡単ではなく、実務上、このような実質的判断の結果、詐害行為に該当しない、とされることも多いです。

詐害性の判断基準

平成26年改正後は、どのような会社分割が残存債権者を「害する」(759条4項、764条4項)といえるかが主たる解釈問題となる。
基本的には、会社分割の前後で、残存債権者が受けられると期待できる弁済額が減少したかどうかによって判断すべきであろう(田中(2013)24-28頁)。
学説の議論につき、論究Unit11[得津晶]参照。
※田中亘著『会社法 第3版』東京大学出版会2021年p689

7 現行法での『詐害的会社分割』の特徴

前述のように、現在では『詐害的会社分割』への対応は『詐害行為取消権』を利用することになります。
この方法の特徴・デメリットなどをまとめます。

<従来の『詐害的会社分割』の扱いの特徴>

あ 従来(現在)の扱い

ア 法的制度 詐害行為取消権の適用
イ 『取消』の対象 個別的な財産承継行為

い 不便な点

ア 立証のハードル・不確定要素イ 新会社への直接請求ができない

8 詐害的会社分割における債権者保護制度の要点

詐害的分割における債権者保護制度は、従来、判例で認められていた債権者の対抗措置の不便なところを解消したものといえます。

<詐害的会社分割における債権者保護制度の要点>

あ 特徴

新会社への直接請求(履行請求)をすることができる債権者・金額を類型化した
これにより、立証のハードル・不確定要素が解消された

い 制度の要点

ア 残存債権者 旧会社から新会社に承継されない債務の債権者
イ 保護が発動する要件 新会社が残存債権者を害することを知っていたこと
ウ 保護の内容 残存債権者は新会社に対して債務の履行を請求できる
上限額=承継した財産の価額
エ 期間制限 残存債権者が「イ」(要件が満たされたこと)を知ってから2年間
※会社法(改正法)23条の2、759条4項〜7項、761条4項〜7項、764条4項〜7項、766条4項〜7項

改正前は新会社への請求の規定がなかったのですが、新たに規定が作られました。
さらに対象となる債権者保護の内容(請求権の金額)が明確になっています。
当然、立証は類型的なので不確定要素が一気に削減されています。

9 詐害的事業譲渡に関するルール(参考)

以上のとおり、会社分割は事業譲渡を伴うのが通常です。
この点、会社分割とは関係ない事業譲渡単体でも、以上のルールは適用されます(改正法23条の2)。

10 『詐害的会社分割×債権者保護』制度新設の経過措置|平成26年会社法改正

詐害的分割における債権者保護の制度は、従来なかったルールです。
そのため『予告期間』が長めに設定されています。
改正法の公布から1年以上の『周知期間』を取って、平成27年5月から適用されることになりました。
『切り替え時の扱い』についても附則でルールが作られています。

<経過措置・改正法施行日>

あ 経過措置

次のものは改正法が適用されない

対象となる新制度 会社法 適用されない範囲 改正附則
詐害的事業譲渡 23条の2 事業譲渡契約の締結日が施行日前 5条1項
詐害的会社分割 759条4項、761条4項、764条4項、766条4項 吸収分割契約・新設分割計画書作成の締結日が施行日前 20条
い 施行日

平成27年5月1日
※改正附則1条、政令

簡単に言えば、施行日(=平成27年5月)より前の会社分割については、新ルールを適用しない、ということです。

本記事では詐害的会社分割について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に会社分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

条文

[民法]
(詐害行為取消権)
第四百二十四条  債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

[破産法]
(破産債権者を害する行為の否認)
第百六十条  次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一  破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二  破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3  破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

判例・参考情報

(判例1)
[平成24年10月12日 最高裁第二小法廷 平22(受)622号 詐害行為取消請求事件]
5 新設分割は,一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであるから(会社法2条30号),財産権を目的とする法律行為としての性質を有するものであるということができるが,他方で,新たな会社の設立をその内容に含む会社の組織に関する行為でもある。財産権を目的とする法律行為としての性質を有する以上,会社の組織に関する行為であることを理由として直ちに新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできないが(大審院大正7年(オ)第464号同年10月28日判決・民録24輯2195頁参照),このような新設分割の性質からすれば,当然に新設分割が詐害行為取消権行使の対象になると解することもできず,新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことができるか否かについては,新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するというべきである。
 そこで検討すると,まず,会社法その他の法令において,新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しない。また,会社法上,新設分割をする株式会社(以下「新設分割株式会社」という。)の債権者を保護するための規定が設けられているが(同法810条),一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず,新設分割により新たに設立する株式会社(以下「新設分割設立株式会社」という。)にその債権に係る債務が承継されず上記規定による保護の対象ともされていない債権者については,詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある場合が存するところである。
 ところで,会社法上,新設分割の無効を主張する方法として,法律関係の画一的確定等の観点から原告適格や提訴期間を限定した新設分割無効の訴えが規定されているが(同法828条1項10号),詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,上記のように債権者保護の必要性がある場合において,会社法上新設分割無効の訴えが規定されていることをもって,新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない。
 そうすると,株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合においては,その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである。

(判例2;判例1の別の箇所)
[平成24年10月12日 最高裁第二小法廷 平22(受)622号 詐害行為取消請求事件]
(4) a社が本件新設分割をした当時,本件不動産には約3300万円の担保余力があった。しかし,a社は,その当時,本件不動産以外には債務の引当てとなるような特段の資産を有しておらず,本件新設分割及びその直後に行われたf社を新たに設立する新設分割により,上告人及びf社の株式以外には全く資産を保有しない状態となった。
(略)
原審は,(略)新設分割は詐害行為取消権行使の対象になり得ると判断した上で,上記2の事実関係の下において,本件新設分割は詐害行為に当たるなどとし,被上告人の請求を認容すべきものとした。

(判例3)
[平成22年 9月30日 福岡地裁 平20(ワ)625号 否認権行使による所有権移転登記抹消登記手続請求事件]
破産会社は、債務超過状態にあるにもかかわらず、本件会社分割により、担保権が設定されていない本件土地を被告に承継させている。他方で、破産会社は、本件会社分割により債務の一部を被告に承継させているものの、同債務について重畳的債務引受をしていることから、破産会社の負債額は本件会社分割以前のままであり、破産会社は、負債額に変動がないにもかかわらず担保権が設定されていない本件土地を移転していることが認められる。そして、被告の資本金が100万円とされていること、本件会社分割後に被告の全株式20株が100万で譲渡されていることからすれば、分割の対価として破産会社に交付された被告の全株式20株は、100万円程度の価値しかなかったことが認められ、これが本件土地の価格(不動産調査報告書(《証拠省略》)によれば合計で5600万円とされている。)よりも低いことは明らかである。
 そうすると、本件会社分割によって本件土地の所有権が被告に移転されたことにより、破産会社の債権者の共同担保が減少し、債権者が自己の有する債権について弁済を受けることが困難になったといえるから、本件会社分割による本件土地の所有権の移転は「破産債権者を害する」行為に当たる。
 そして、税理士法人による実態貸借対照表の報告(前記1(2))や本件分割計画における債務履行見込理由書の記載内容(同(4)オ)、本件会社分割の6日後に手形の不渡りを出したこと(同(8))からすれば、破産会社は、本件会社分割の当時、債務超過状態にあることの認識を当然に有していたことが認められ、また、本件会社分割が、債務超過状態の破産会社が担保権の設定されていない資産を他に承継させつつ、同時に承継させた債務を破産会社が重畳的に債務引受するものであることからすれば、破産会社は負債額に変動がないにもかかわらず担保権が設定されていない資産が流出することを認識しており、さらに、被告の資本金が100万円とされ、本件会社分割の5日後に被告の全株式20株を100万円で譲渡していることからすれば、破産会社は被告の全株式が本件土地の価格よりも低いことについても認識していたことが認められる。
 そうすると、破産会社において本件会社分割による本件土地の所有権の移転が破産債権者を害することを知っていたことは明らかである。
 したがって、原告らは、破産法160条1項により、本件会社分割による本件土地の所有権の移転を詐害行為として否認することができる。

(判例4)
[平成22年 5月27日 東京地裁 平21(ワ)36384号 リース料請求事件]
認定事実(4)及び(5)のとおり,本件会社分割の結果,被告Y1社の保有するほとんどの無担保の残存資産(合計1億5592万3259円相当の受取手形,前払費用,短期貸付金,差入保証金,長期貸付金及び固定資産)と負債の一部(合計6983万9630円相当の長期預り金及び預り保証金)が,被告Y2社に承継されたのに対し(ただし,上記承継された負債について,被告Y1社は重畳的債務引受をした。),被告Y1社がその対価として取得したのは被告Y2社の株式全部(400株)である。このように,本件会社分割により,一方で,被告Y1社の保有する債権を中心とするほとんどの無担保の残存資産が逸出して同被告は会社としての実体がなくなり,他方で,同被告が対価として取得した被告Y2社の株式は,非上場株式会社の株式であり,株主が廉価で処分することは容易であっても一般的には流動性が乏しく,被告Y1社の債権者にとっては,株主名簿を閲覧する権利もなく(会社法125条2項),株券が発行されればより一層,これを保全することには著しい困難が伴い,さらに,強制執行の手続においても,その財産評価や換価をすることには著しい困難を伴うものと認めることができる。そうすると,本件会社分割により,同被告の一般財産の共同担保としての価値を実質的に毀損して,その債権者である原告が自己の有する本件被保全債権について弁済を受けることがより困難となったといえるから,本件会社分割には詐害性が認められるといわざるを得ない。

(判例5)
[平成22年10月27日 東京高裁 平22(ネ)4126号 リース料請求控訴事件]
本件被保全債権を弁済し得る資力を有していない無資力の状態にあった控訴人Y1社が債権者を害することを知って行う総債権者の共同担保となる一般財産を減少させる法律行為は詐害行為となるのであって、これを取り消し得ることは当然である。なお、相当の対価を得てした財産の処分行為の否認についての破産法(平成16年法律第75号)161条の規定を考慮しても、本件会社分割が詐害行為に該当しないということはできない。

(判例6)
[平成21年 8月26日 大阪地裁 平20(ワ)7444号 詐害行為取消請求事件]
抵当不動産の処分行為については、当該処分行為時における目的不動産の価額から、当該不動産が負担すべき抵当権又は根抵当権の被担保債権額を控除した残額の部分が責任財産から逸失することになり、その残額部分について詐害性が認められる。
(略)
本件○○不動産について、不動産の価額である1億4900万円から、第1順位の抵当権である本件根抵当権①の被担保債権額9860万4000円を控除すると、残額が5039万6000円となる。そして、本件○○不動産についての第2順位の抵当権である本件根抵当権②は、本件△△土地をも共同抵当の目的としているから、上記○○不動産についての残額と本件△△土地の価額である5100万円の合計である1億0139万6000円から本件根抵当権②の被担保債権額である6837万5000円を控除した3302万1000円の範囲で、本件不動産の処分につき詐害性が認めるというべきである。
(略)
本件会社分割において、被告は、確かにa社から短期借入金債務及び未払費用債務を承継しているものの、これらの債務についてはa社が重畳的債務引受けを行っているため、これらの債務に対応するa社の消極財産の減少は生じておらず、責任財産が増加しているとはいえない。
(略)
確かに、本件会社分割によりa社が取得した被告会社の株式は、a社が、被告に対し、本件不動産を含む資産を承継させた対価だとみることはできる。しかし、被告は、その株式のすべてをa社が有する同社の完全子会社であって、前記1(3)イのとおり、被告株式の換価は困難であることが推認され、本件会社分割の対価として相当なものであると認めるに足りる証拠はない。
(略)
 (4) 以上のとおり、本件会社分割は、詐害行為に当たるといえる。

(判例7)
[平成21年12月22日 大阪高裁 平21(ネ)2451号 詐害行為取消請求控訴事件]
本件における会社分割のように、純資産を設立会社に移転した代償として設立会社の株式を取得するにとどまる場合には、形式的には移転した純資産の額に等しい対価を取得した形になっていても、株式は、上場企業の株式でない限り、換価は必ずしも容易ではなく、ことに中小企業においては換価が著しく困難であるのが通常であって、設立会社の株式を有するというだけでは債権の引き当てにならない場合が少なくない。したがって、分割の内容によっては、債権者は分割会社に対して債権を有していても、主要資産を失った分割会社には債務の履行の見込みがない場合もあり得るものである。このような場合には、従前の分割会社の債権者は、会社法の債権者保護手続の対象とならないにもかかわらず、本来自己の債権の引き当てとなっている純資産の流出により損害を受けることになるのであるから、このような債権者については、詐害行為取消権の行使を否定する理由はないというべきである。

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