【現行法の差押・破産・再生での仮想通貨の扱い(差押ヘイブン)】

1 差押・破産・再生での仮想通貨の扱い(総論)

現行法は、仮想通貨(暗号資産)の管理や換価の具体的な手続の規定がありません。
そこで、現実的に差押ができないという状況があるのです。
この点、破産手続は包括的な差押といえます。つまり、破産管財人が強制的に破産者のすべての財産を売却して、代金を債権者の配当に充てます。この時にも仮想通貨を売却できない状況が考えられます。
本記事では、現行法を前提にした差押や破産・民事再生における仮想通貨の扱いについて説明します。

2 仮想通貨の差押の発想が生じる具体的事例

仮想通貨の差押という状況は、細かく分けるといろいろなパターンがあります。
詳しくはこちら|仮想通貨自体の差押の分類(日本円/仮想通貨建て債権)
紛らわしいので、本記事のテーマの前提となる状況を、具体例を使ってまとめておきます。

仮想通貨の差押の発想が生じる具体的事例

あ 一般的な差押

AがBに『300万円』で自動車を売った
Bが代金を支払わない
Bはビットコインを大量に持っている
Aとしては『Bが持っているビットコイン』を差し押さえたい

い 破産手続

Dは債務超過に陥り、返済不能の状況になった
Dは大量のビットコインを持っている
それ以外の預貯金・不動産などの資産はほぼゼロである
CはDに対して1000万円の債権を持っている
破産手続となったらCは配当を受けられるのか

3 差押・破産・民事再生の条文と仮想通貨の適合性

厳密な議論があまりなされていないようですが、仮想通貨が、差押・破産・民事再生の規定にあてはまるかどうか、という問題点があります。
差押については、財産権だけがその対象となっています。仮想通貨の権利性を否定する見解が有力ですので、そもそも財産権ではない以上、差押の対象とならない(執行適格を欠く)とも思えます。
この点、破産手続における配当の原資は財産と規定されており、民事再生手続において再生計画を作る基準としては、債務者の財産とされています。財産とは何らかの権利であるという見解もありますが、日本語としては広く財産的価値のあるモノがあてはまるともいえます。

差押・破産・民事再生の条文と仮想通貨の適合性

あ 差押における条文

不動産、船舶、動産及び債権以外の財産権(以下この条において「その他の財産権」という。)に対する強制執行については、特別の定めがあるもののほか、債権執行の例による。
※民事執行法167条1項

い 破産の破産財団の条文

破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
※破産法34条1項

う 民事再生の財産の価額の評定の条文

再生債務者等は、再生手続開始後(管財人については、その就職の後)遅滞なく、再生債務者に属する一切の財産につき再生手続開始の時における価額を評定しなければならない。
※民事再生法124条1項

え 問題点

仮想通貨は権利性がなく、財産権(あ)に該当しないと思われる
仮想通貨が財産にあたることは認められやすいが厳密な議論はみあたらない

4 差押・破産・民事再生における仮想通貨の手続上の問題の全体像

前述の差押・破産・民事再生の規定上の文言はここでは考えず、これらの法的な強制手段の中での仮想通貨の扱おうとすると、手続上の問題が生じます。まずは手続上の問題を全体的にまとめます。

差押・破産・民事再生における仮想通貨の手続上の問題の全体像(※1)

あ 記録の可能性

差押・破産・民事再生に関する命令・処分(後記※2)について
ブロックチェーンに記録する手段がない

い 執行官・管財人による管理可能性

動産の占有を取得することに相当する手段
→秘密鍵を確保することとなる
占有の取得のように簡易かつ効果的な方法ではない
仮想通貨の管理を有効に行える仕組みがない

う まとめ

『あ・い』の効力を分散型仮想通貨の仕組みに反映させること
→現実的には困難である
※岡田仁志ほか『仮想通貨〜技術・法律・制度〜』東洋経済新報社p219

え 当事者の任意の強力による遂行

当然だが、仮想通貨保持者が協力すれば換価などが遂行できる
例;MTGOX事件
詳しくはこちら|MTGOX破産手続におけるビットコイン返還請求権(BTC建て債権)の評価と不合理な配当

5 破産・再生・差押に関する手続の内容

法的手続の中で問題が生じる、つまり効力が生じない具体的手続の内容をまとめます。

破産・再生・差押に関する手続の内容(※2)

あ 破産・民事再生に関連する手続

ア 保全処分イ 包括的執行禁止命令ウ 監督命令エ 調査命令

い 差押に関連する手続

ア 差押イ 換価の手続

6 仮想通貨の差押の可能性

前記のまとめのように、一般的に仮想通貨の差押はできないと考えられています。これについて、もう少し詳しく考えてみます。
現行法の差押の方法のいくつかについて、仮想通貨に適用できないかをまとめます。

仮想通貨の差押の可能性

あ 動産執行→NG

『特定の場所』に物理的に存在する有体物が前提である
=執行官による占有ができること
→ビットコインは物理的な占有ができない
※民事執行法122条〜

い 債権執行→NG

『債務者』に対する『特定の行為(給付)』に相当するものがない
→『債権』に該当しない(前述)
※民事執行法143条〜
詳しくはこちら|預貯金(債権)と仮想通貨の比較

う 「その他の財産権」に対する強制執行

解釈上、3つの要件がある
→ビットコインはこの要件に該当しない(後記※3)
※民事執行法167条

「その他の財産権」の扱いについては該当性の判断が複雑です。次に説明します。

7 執行適格の3要件(概要)

民事執行法には「その他の財産権」の差押という規定があります。文字どおり、イレギュラーな財産・価値についての差押を可能とする手続です。「その他」とはいっても、すべての財産権が差押の対象となるわけではありません。差押の対象となるためには3つの要件をクリアする必要があります。

執行適格の差押の3要件(概要)(※3)

あ 独立性

それ自体単体で処分可能

い 換価可能性

金銭的評価が可能

う 譲渡性

譲渡が可能
※民事執行法167条
※深沢利一『民事執行の実務(中)3訂版』新日本法規p372〜
詳しくはこちら|「その他の財産権」に対する強制執行(趣旨・3要件・具体的財産の該当性)

次に、仮想通貨の差押で、この要件がクリアできるかどうかについて説明します。

8 BTCウォレット入りのPCごとの差押と3要件

仮想通貨の差押について、前記の3要件の該当性を考えます。より具体的な差押の内容を特定します。代表的なビットコインを前提に、ウォレット入りの端末を取り上げるというアイデアを想定します。

BTCウォレット入りのPCごとの差押と3要件

あ 奇抜アイデア内容

記録が含まれたPC(HDDやSDD)を差し押える方法
情報が物に化体したという考え方が元になっている

い 『送金』できるとは限らない

ウォレットが『Web・ペーパー』方式の場合
→PC内のデータだけでは『送金手続』ができない
→そもそも差押対象として不適切
(→『換価可能性』否定方向)

う 『BTC残高』の確信が持ちにくい

PCの買受人候補者が『BTC残高=送金できること』の確信を持ちにくい
+競売の場合『瑕疵担保責任』は原則なし
※民法568条、570条ただし書
→独立性・換価可能性・譲渡性否定方向

え 過剰な物・情報を取り上げてしまう

PC自体・PCに含まれるビットコイン以外のデータも取り上げてしまう
→法律的に別の問題が生じる=支障がある
→独立性・譲渡性否定方向

結局奇抜なアイデアも3要件に該当しない、つまり差押はできないということになると思われます。

9 仮想通貨の差押ヘイブン

以上のように、現行法では、仮想通貨は差押や法的な倒産手続での強制的な換価ができない状況にあります。
逆に言えば、合法的な差押不能財産が誕生したということになります。
これについて、具体例を用いて、債権者と債務者の法的手続による対立の状況をまとめてみました。

仮想通貨の差押ヘイブン

あ 具体例

Aは財産のほぼすべてをビットコインに換えた
=交換所でビットコインを購入した
Aの債権者Bは金銭債権を回収したい

い 債権者の法的手段

BがAの財産の差押をする
→仮想通貨の差押は現実的に不可能といえる

う 財産開示手続の活用

ア 具体的方法BはAの財産開示手続を申し立てる
イ 開示対象の規定開示対象の財産の情報について
→強制執行or担保権の実行の申立をするのに必要となる事項
※民事執行法199条1項
ウ 仮想通貨の扱い仮想通貨は強制執行の対象にならない(前記※1)
→開示対象の情報には含まれないと思われる
→開示しなくても制裁(懲役・罰金)の対象にならない
詳しくはこちら|財産開示手続の制裁(罰金・懲役)と実効性
エ 現実的な状況仮に秘密鍵を債権者に開示したとしても
→法的な差押・換価の手続がない

10 仮想通貨の差押ヘイブンと預貯金の比較

仮想通貨は差押を受けないという特殊な性能を有します(前記)。
この点、預貯金は差押を受ける財産の典型です。しかも最近は、債権者に捕捉されやすくなっています。
結局、保有する資産の形として、仮想通貨の優位性が高くなっているといえます。

仮想通貨の差押ヘイブンと預貯金の比較

あ 預貯金の差押の容易性

預貯金は差押が可能である(『え』)
しかも債権者に預貯金の情報を得られやすくなっている(『お』)

い 仮想通貨の差押回避性能

仮想通貨は法的な差押手続を受けない(前記※1)

う 仮想通貨の優位性

差押を受ける可能性の点において
預貯金と仮想通貨の差が大きくなっている
→仮想通貨の優位性・安全性がより高くなっている

え 預貯金との差押(概要)

預貯金は当然、差押の対象となる
詳しくはこちら|差押の対象財産の典型例・債権者破産・差押禁止・範囲変更申立
預貯金は『検索』『差押』が容易になりつつある(『う』)

お レガシー預貯金の捕捉容易性アップ

ア マイナンバー制に『紐付けられる』方針イ 弁護士会照会詳しくはこちら|弁護士会照会による預貯金に関する情報開示(対応の傾向・実情)
ウ 包括的な差押の運用の普及詳しくはこちら|預貯金の差押|特定の趣旨・範囲|支店特定不要説|特定方式

11 預けた仮想通貨の差押(概要)

以上はあくまでも仮想通貨そのものの差押についてのテーマでした。
一方で『ウォレット・取引所』に『預けた仮想通貨』の差押は別のテーマです。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|ウォレット内ビットコインの差押|SPVクライアント型は可能性あり
本記事では、差押・破産・民事再生の手続における仮想通貨の扱いの問題点を説明しました。
実際には個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【「その他の財産権」に対する強制執行(趣旨・3要件・具体的財産の該当性)】
【仮想通貨に関連するサービスと法規制(全体と賭博罪)】

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