1 弁護士会照会による預貯金に関する情報開示(対応の傾向・実情)
2 被相続人名義の預貯金の情報開示
3 弁護士会照会による被相続人の預貯金の開示の実情
4 第三者の預貯金に弁護士会照会を用いる典型的状況
5 弁護士会照会による第三者名義の預貯金の開示の実情
6 ゆうちょ銀行の弁護士会照会に対する開示の実情
7 消費者被害・犯罪の加害者特定のための照会の実情
8 弁護士会照会による解約・払戻の書類の筆跡の調査
9 弁護士会照会における口座名義人の同意の要否
10 弁護士会と金融機関の開示に関する協定(概要)
11 金融機関の不当な開示拒否による不利益(概要)

1 弁護士会照会による預貯金に関する情報開示(対応の傾向・実情)

多くの場面で,預貯金の情報の調査を行います。金融機関に残高や過去の取引履歴の開示を請求する,というものです。
自分自身の名義の預貯金であれば簡単ですが,自分以外の人の名義の預貯金の場合には,情報を取得することができるかどうか,ということが問題になります。
本記事では,弁護士会照会という手続を使って,自分以外の名義の預貯金の情報の開示を請求することについて説明します。

2 被相続人名義の預貯金の情報開示

自分以外の名義とはいっても,被相続人(故人)名義の預貯金(の情報を相続人が開示請求すること)は特別です。相続人は,被相続人の預金者の立場(地位)承継しているからです。
この場合は,弁護士会照会の手続を使わなくても,相続人自身が直接金融機関で手続をすれば残高証明や取引履歴を取得することができます。弁護士会照会によって預貯金を調査することもできますが,手間やコストが余分にかかってしまいます。

被相続人名義の預貯金の情報開示

あ 照会事項

ア 口座の有無イ 口座番号ウ 死亡日現在の残高エ 一定期間の入出金状況=取引履歴

い 弁護士会照会の位置づけ

相続人(のうちの1人)被相続人名義の口座の取引履歴の開示請求をする場合
直接の開示請求が判例で認められている
詳しくはこちら|相続人による被相続人の預金取引履歴の開示請求(通常・解約済)
→弁護士会照会を用いなくても済む
→弁護士会照会の利用自体が少ない

3 弁護士会照会による被相続人の預貯金の開示の実情

相続人(の1人)が,被相続人名義の預貯金の取引履歴を開示すれば金融機関は応じるのが原則ですが,特殊な事情がある場合は,金融機関が開示に応じないこともあります。その場合には弁護士会照会を利用するのが有用な手段となります。
弁護士会照会による開示請求であっても,金融機関が開示に応じないこともあります。開示を拒否することがよくある事情を整理しておきます。

弁護士会照会による被相続人の預貯金の開示の実情

あ 開示の実情(原則)

原則的に開示がなされている

い 開示の実情(例外=開示拒否)

次のようなケースで拒否事例がある
ア 5年を超える長期の履歴開示請求イ 典型的な相続人以外からの請求 例=受遺者・遺留分権利者
ウ 払出手続書の開示エ (他の)相続人の預金口座 これは拒否事例が多い
※『自由と正義2015年1月』日本弁護士連合会p17〜
※『自由と正義2011年12月』日本弁護士連合会p26〜

4 第三者の預貯金に弁護士会照会を用いる典型的状況

以上のように,被相続人名義の預貯金について,相続人として開示請求することはある意味自身の預貯金の調査でもあります。
一方,完全に自分自身以外の預貯金を調査する状況もよくあります。
典型例は,債権者(金銭を貸している人)として,債務者(借りている人)の預貯金を調査するケースや,夫(または妻)として妻(または夫)の預貯金を調査するケースです。いずれも,純粋な第三者(自分以外)の預貯金の調査といえます。

第三者の預貯金に弁護士会照会を用いる典型的状況

あ 対象とする口座の名義

依頼者・被相続人以外の名義
依頼者と紹介対象の口座名義人に一定の法的関係がある(次項目)

い 開示請求をする立場の例

ア 金銭債権を有する場合 執行・保全の準備として相手方の口座を対象とする
イ 夫婦間・離婚事案の場合 財産分与請求の準備として配偶者名義の口座を対象とする

う 照会事項

預貯金口座の有無・現在残高

5 弁護士会照会による第三者名義の預貯金の開示の実情

(純粋な)第三者名義の預貯金の情報の場合は,金融機関は原則として,預金者(口座名義人)の同意がない限り開示しないという対応をします。
ただし,(債権者として)確定判決などの債務名義を持っている場合や,配偶者の名義の預貯金の開示を請求する場合には,金融機関が開示に応じることもあります。ただし,個別的な事情(開示の必要性)によって,また,金融機関によって,対応が異なります。

弁護士会照会による第三者名義の預貯金の開示の実情(※1)

あ 原則的な対応

金融機関は,口座名義人の同意を得た上で回答する
「口座名義人の同意がない」ことを理由に拒否する事例がある

い 債務名義の提示による開示

イ 近時の傾向 確定判決・和解調書などの債務名義がある場合
→口座名義人の同意なしに回答する場合もある
ウ 協力的な金融機関 ・三菱東京UFJ銀行+その系列の地方銀行
・ゆうちょ銀行
※『自由と正義2015年1月』日本弁護士連合会p17〜
※『自由と正義2011年12月』日本弁護士連合会p26〜

う 配偶者名義の預貯金の開示

ア 基本的対応 金融機関は,形式的に名義が異なる場合には,弁護士会照会に回答しないのが原則である
イ 実情 もっとも,夫婦共有の財産であることを具体的に明らかにした上で,相手方配偶者名義の預金の取引履歴を照会する必要性があることを照会理由として明らかにすることにより,銀行から回答を得ているケースも少なくはありません
照会理由の書き方を工夫することにより,照会の必要性が認められる場合には回答をもらえるよう,金融機関に理解してもらう必要があります。
※第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会編『弁護士法第23条の2 照会の手引 6訂版』第一東京弁護士会2016年p142
ウ 配偶者名義の預金の性質(参考) 夫婦の協力によって築いた財産は,名義人ではない配偶者にも潜在的・実質的な持分(権利)がある
実質的には夫婦の共有財産である
詳しくはこちら|夫婦財産制の性質(別産制)と財産分与の関係(「特有財産」の2つの意味)

6 ゆうちょ銀行の弁護士会照会に対する開示の実情

ゆうちょ銀行は弁護士会照会に対して,(弁護士会照会を申し立てた)弁護士が依頼者の委任状・印鑑証明書を提出することを求めることもあります。本来不必要なことであり,不合理な対応です。

ゆうちょ銀行の弁護士会照会に対する開示の実情

あ 開示の実情

依頼者からの委任状・印鑑証明書の提示を求めるケースもある

い 不合理性

弁護士会照会は,弁護士会が主体となった開示請求である
照会を申し立てた弁護士へのアプローチ自体が,本質的に誤った対応といえる
※『自由と正義2011年12月』日本弁護士連合会p28〜

7 消費者被害・犯罪の加害者特定のための照会の実情

消費者被害や詐欺などの犯罪で預金口座が使われることは多いです。加害者を特定する手段として,預貯金の名義人の調査が必要となります。弁護士会照会で回答が得られることもありますが,金融機関が開示を拒否することもあります。

消費者被害・犯罪の加害者特定のための照会の実情

あ 前提事情

消費者被害や犯罪の中で預貯金口座が使われた
加害者が特定できない
口座名義人が分かれば加害者が特定できる(特定につながる)
加害者を特定のために,弁護士会照会によって預貯金口座の名義人の開示を求める

い 開示の実情

回答拒否事例がある
※『自由と正義11年12月』日本弁護士連合会p26〜

う 誤送金の場合の法的扱い(参考)

誤送金があった場合の金融機関・送金先名義人との関係は,別の記事で説明している
詳しくはこちら|誤振込の後の回収(組み戻し・仮差押・振り込め詐欺救済法)

8 弁護士会照会による解約・払戻の書類の筆跡の調査

以上の説明は,預貯金口座の内容を調査するというものでした。
それ以外にも,払戻請求書など,金融機関に提出された書面上の筆跡を見たいということもあります。預金者本人以外が,金融機関の窓口で払い戻しを受けた,ということが疑われるようなケースです。払戻請求書の筆跡から払い戻した者を推測できることもあります。また,預金者の代理人として氏名が記載されていることもあります。

弁護士会照会による解約・払戻の書類の筆跡の調査

あ 照会対象・照会事項

ア 対象口座 被相続人名義や依頼者名義の預貯金
イ 照会事項 ・解約届・払戻請求書の筆跡
・解約・払戻時の本人確認資料の有無・筆跡
・委任状などの有無・筆跡

い 開示の実情

ア 被相続人名義の預貯金 回答がなされている
イ 被相続人以外の第三者名義の預貯金 拒否される傾向がある(後記)
※『自由と正義15年1月』日本弁護士連合会p17〜

9 弁護士会照会における口座名義人の同意の要否

弁護士会照会に対し金融機関が名義人の同意がない限り開示に応じない,ということはよくあります(前述)。このような対応は不合理であると指摘されてきました。この問題について,公的なガイドラインや裁判例で,同意は必要ではないという方向の指摘がなされています。
ただ,実情としては以上で説明したように,弁護士会照会ならば無条件に開示がなされるわけではありません。

弁護士会照会における口座名義人の同意の要否

あ 公的ガイドライン

金融分野における個人情報保護に関するガイドライン
平成21年11月20日金融庁告示63号
平成21年の改訂日である

い ガイドライン

弁護士会照会は法令に基づく場合である
名義人の同意なく情報の提供が可能である
※金融・個人情報ガイドライン5条3項

う 名義人の同意を要するという約款の有効性

同意を必要とするという約款は無効である
※大阪高裁平成19年1月30日

10 弁護士会と金融機関の開示に関する協定(概要)

弁護士会照会を受けた銀行の立場としては,開示に応じることで,預金者への責任が生じるリスクを負うことがあります。そのため,開示を拒否する傾向があるのです。金融機関としては,弁護士会照会を受けた場合,個々の照会について,必要性や許容性を判断する,という手間・コストがかかっているのです。
そこで,判断基準を決めて(ルール化),判断をしやすくするために,弁護士会と金融機関の間で協定が結ばれています。
詳しくはこちら|弁護士会照会×三井住友銀行|全本支店一括調査→回答|弁護士会との協定

11 金融機関の不当な開示拒否による不利益(概要)

また,照会先が回答を拒否した場合,別の手続で不利益を受けることがあります。
差押における特定の程度が緩和される,という扱いです。
これはちょっと複雑なので,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|預貯金の差押|特定の趣旨・範囲|支店特定不要説|特定方式

本記事では,弁護士会照会による預貯金に関する情報の開示について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に,預貯金の情報開示に関する問題に直面している,または開示請求を検討している方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。