1 借家の明渡料に関する基準はいくつかある
2 借家の明渡料の相場は賃料半年〜1年分,が多い
3 裁判所が算定する明渡料|借家権価格と正当事由充足割合を使う
4 『事業用』の賃貸借の場合,明渡料には『営業補償』も加算する
5 『債務不履行解除』では『明渡料』ゼロ
6 借家の明渡料への『課税』はいくつか種類がある

1 借家の明渡料に関する基準はいくつかある

借家の明渡料については,いくつかの公的な基準があります。

(1)収用の場合の明渡料基準

借家に対する補償内容は次のようなものです(公共用地の取得に伴う損失補償基準34条)。
・転居作業実費
・転居先の住居確保のための仲介料などの実費
・権利金その他の賃貸に係る初期費用
・家賃差額2年(最大)

(2)借家権価格|相続税評価基準

借家権の価格の算定方法を参考にします。

<相続税評価における借家権価格

(借家権価格)=(更地価格)×(借地権割合)×(借家権割合)

借地権割合は60~70%ということが多いです。
東京やその付近においては,借家権割合は30%です。
これら2つを掛け合わせると,18%~21%となります。
つまり,借家権価格は,更地価格の18%~21%という算定になることが多いのです。

(3)借家権価格|相続税評価と不動産鑑定理論をミックス

不動産鑑定理論で採用されることが多い借家権割合は次のとおりです。
借家権割合≒30%(住宅地),40~50%(商業地)
借地権割合が60%~70%の場合で考えます。
これら2つの割合を掛け合わせたものは,18%~35%となります。
つまり,借家権価格は,更地の18~35%ということになります。

2 借家の明渡料の相場は賃料半年〜1年分,が多い

以上,いろいろな基準を並べましたが,結論としては決定打,はありません。
後は,具体的な交渉を経て明渡料が決まります。
ポイントは次の事項です。

<借家の明渡料のポイント>

仮に居住者が立ち退かない場合に,オーナーとして法的に明渡を実現するために要するコスト

明渡を実現するためには,訴訟・強制執行などの手段が必要となり,時間的・金銭的・精神的コストが結構かかるものです。
このような駆け引き思惑バランスの結果として,概ね賃料半年~1年分,というあたりが多いのです。
逆に,借家人に賃料滞納などのフォルトがあるとこのバランスは大きく崩れます。
賃料の2~3年分ということも1~2割くらいあります。
あくまでも一般論です。
個別事情によって大幅に違うこともあります。

3 裁判所が算定する明渡料|借家権価格と正当事由充足割合を使う

裁判所が判決を出す上で明渡料を算定するという場面は,更新拒絶・解約申入を元にした建物明渡請求訴訟の時だけです。
この算定方法について説明します。
当然,交渉によって明渡料を決める場合にも参考とされます。
明確・画一的な計算式・計算方法が確立しているわけではありません。

(1)借家権価格を算定

<借家権価格の算定>

(借家権価格)=(更地価格)×(借地権割合)×(借家権割合)

借地権割合は60~70%ということが多いです。
東京やその付近においては,借家権割合は30%です。
これら2つを掛け合わせると,18%~21%となります。
つまり,借家権価格は,更地価格の18%~21%という算定になることが多いのです。

(2)正当事由の充足割合を算定(検討)

正当事由が弱い場合は,明渡料以前に,そもそも明渡が認められません。
(建物明渡請求訴訟が棄却となる)
その意味で,正当事由の審理が先行するのが実際の訴訟の運用ではあります。
正当事由については,オーナー側・賃借人側の事情を相対的に比較して充足割合を算定します。
例えば,次のような場合は,正当事由の充足割合は高いです。

<正当事由の充足割合が高い例>

・オーナーは,特に対象建物を戻してもらわないと困窮する状況にある(必要性高い)
 居住していた所有建物が震災で倒壊した
・賃借人は,対象建物がなくてもそれほど困らない
 賃借人は別に所有しているマンションに居住していて,対象建物は物置として使っている
・賃借人には,これまでの経緯で不誠実な面が多かった
 賃料滞納が多数あった,ペット禁止なのに飼っていた
・オーナーには特に落ち度はなかった

この例であれば,充足割合は80%程度となると予想されます。
なお,充足割合100%というのはそれだけで契約終了が認められることです。
つまり,明渡料ゼロで退去しなくてはならない,ということです。
債務不履行解除,と同じことになります。
実際にも,正当事由の充足割合100%ということは滅多にありません。

(3)明渡料を算出

<正当事由を重視した明渡料算定方法>

(明渡料)=(借家権価格)×(100%-(正当事由の充足割合))

具体例を次に示します。

<明渡料算定の例>

あ 設定

借家権価格=500万円
正当事由の充足割合=80%

い 明渡料の算定

(明渡料)=借家権価格500万円 × (100%-正当事由の充足割合80%)
     =100万円

この場合,正当事由の充足割合が80%なので,不足部分の20%を明渡料で埋めた,ということになります。
そこで,明渡料の性質を正当事由の補完機能と呼ぶこともあります。

4 『事業用』の賃貸借の場合,明渡料には『営業補償』も加算する

特殊な事情がある場合は,原則的な算定結果をさらに調整することがあります。
主な例は事業用物件の場合です。
事業用の物件の場合,次の費用が加算されることがあります。

<事業用物件の場合の明渡料加算要素>

・移転に要する物品搬送費用
・移転に際して休業するために生じる損失

つまり,営業店舗などで,退去させられると収入が途絶えるという場合です。
本来であれば営業利益を得られたはずなのに,退去により得られなくなったことになります。
勿論,移転して,移転先で営業を続ければ良いのですが,回復するまでの一定期間は収入が減少しているということになるのが一般です。
他には,保証金が異常に高い,とか,家賃が異常に低い,とか,前提事情のなかで異常なものがあれば,これらも調整要素となります。

5 『債務不履行解除』では『明渡料』ゼロ

賃借人が家賃を滞納している場合,オーナーが『債務不履行解除』をできます。
解除により,借家契約が終了します。
一般的に,『明渡料』の授受が行われる状況ではありません。
裁判所の定める明渡料も『正当事由による更新拒絶・解約告知』の場合だけです。

ただし,現実的に,賃借人が転居をするために必要がある,などの事情で一定の『実費の援助』が行われる場合はあります。
これは,類型的な『明渡料』とは違うものです。

6 借家の明渡料への『課税』はいくつか種類がある

明渡料とか立退料と呼ばれる金銭は,その内容・性格はいくつかあります。
単に呼称だけでは課税上の扱いは決まらないのです。
性格による課税上の扱いは次のとおりです(所基通33-6,34-1(7)) 。

(1)資産の消滅の対価

→不動産譲渡所得
明渡によって消滅する権利,の『対価』という考え方になります。
借家権譲渡したと考えます。
その結果,不動産の譲渡所得,ということになります。

(2)移転費用の補償

→一時所得
明渡によって,転居を余儀なくされます。
この転居に要する実費が明渡料に含められていることがあります。
これは,課税上,ストレートに適合する項目がないので,一時所得として扱われます。
言わば『その他』ということです。

(3)収益補償(営業補償)

→事業所得
明渡前に,その場所(建物)で,店舗等の営業活動が行われていた場合,移転にともなう休業期間は収入が途絶えます。
この『収入の減少分』を補う金銭が,明渡料に含まれることがあります。
この金額は,『事業(営業)活動による売上』に代わるものです。
そこで,『事業所得』として扱われます。