1 建物の明渡料1億5000万円を定めた裁判例
2 建物賃貸借契約の主な内容
3 建物の状況
4 裁判所が判断した明渡料

1 建物の明渡料1億5000万円を定めた裁判例

賃貸中の建物の明渡の際には,明渡料(立退料)が必要になることが多いです。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)
賃貸人が明渡を希望する理由が,敷地の有効利用・高度利用の目的である場合,明渡料は高額になる傾向があります。
本記事では,賃貸人による有効利用の目的による建物明渡において,裁判所が明渡料を1億5000万円と定めた事例を紹介します。

2 建物賃貸借契約の主な内容

まず,建物の賃貸借契約の主な内容をまとめます。

<建物賃貸借契約の主な内容>

賃貸人 喫茶店経営会社
賃借人 日本料理店
始期 昭和47年頃
当初の賃料 不明
現行賃料 17万円(昭和56年5月~)
更新拒絶・解約申入の時期 昭和62年4月13日
明渡請求の理由 再開発による自社ビルの建築
賃貸人の地位の承継 昭和62年3月に売買により地位を承継した

※東京地裁平成2年9月10日

3 建物の状況

次に,建物の状況をまとめます。

<建物の状況>

あ 建物の種類・構造

木造軽量鉄骨造3階建居宅,店舗,倉庫
1階 101.21平方メートル
2階 116.32平方メートル
3階 51.22平方メートル
賃貸借の対象部分は1階の一部48.84平方メートル

い 建築時期

昭和32年頃

う 建物の現況

建物は当初平家建として建築された
その後増築された
築後30年以上経過している

え 建物の利用状況

建物全体のうち一部を賃借人が日本料理店として使用している
その他の部分は空家となっている

お 地域

六本木地区の中心部
※東京地裁平成2年9月10日

4 裁判所が判断した明渡料

以上の事情からは,賃借人がこの建物の使用を継続する必要性は高く,また,賃借人に落度はないといえます。一方,建物の老朽化は進み,建物の明渡を実現する必要性自体はあるといえます。しかし,賃貸人の予定(目的)は,建物の明渡後に自社ビルを建築するという再開発をすることです。しかも,明渡請求をすることを前提として土地を購入しています。
そうすると,賃貸人による明渡の請求は,賃貸人の利益を獲得することが主な目的であることになります。
そこで裁判所は,借家権価格に近い1億5000万円の明渡料によってようやく正当事由がある(明渡を認める)ことにしたのです。

<裁判所が判断した明渡料>

あ 明渡料の金額

1億5000万円
現行賃料の約73.5年分に相当する

い 明渡料の内容(結論)

借家権価格を参考とした

う 明渡料の算定プロセス

『ア〜ウ』を算定し,最も高い『ア』を採用した
この金額は営業利益10年分くらいに相当するので妥当であると判断した
ア 借家権割合方式 借家権割合方式と地域の特性などを総合的に勘案する方法
→1億5000万円
イ 新規賃料との差額と営業補償 正常実質賃料と現行実質賃料との差額を年金還元した価格に営業補償を加算する
→1億0500万円
ウ 転居に要する費用 賃借人が実損なく現在の対象建物と同程度のところへ移転していくための費用
→1億2800万円
※東京地裁平成2年9月10日

本記事では,有効利用・高度利用を目的とした建物の明渡について,裁判所が明渡料を1億5000万円と定めた事例を紹介しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結果は違ってきます。
実際に建物の明渡の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。