1 建物の明渡料1億円を定めた裁判例
2 建物賃貸借契約の主な内容
3 建物の状況
4 裁判所が判断した明渡料

1 建物の明渡料1億円を定めた裁判例

賃貸中の建物の明渡の際には,明渡料(立退料)が必要になることが多いです。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)
賃貸人が明渡を希望する理由が,敷地の有効利用・高度利用の目的である場合,明渡料は高額になる傾向があります。
本記事では,賃貸人による有効利用の目的による建物明渡において,裁判所が明渡料を1億円と定めた事例を紹介します。

2 建物賃貸借契約の主な内容

まず,建物の賃貸借契約の主な内容をまとめます。

<建物賃貸借契約の主な内容>

賃貸人 不明
賃借人 通信販売業者
始期 昭和57年10月25日
当初の賃料 120万円
現行賃料 128万円(昭和61年8月~)
更新拒絶・解約申入の時期 平成2年11月28日
明渡請求の理由 貸事務所の建築

※東京地裁平成3年7月25日

3 建物の状況

次に,建物の状況をまとめます。

<建物の状況>

あ 建物の種類・構造

鉄骨造3階建事務所,倉庫
1,2,3階 各406.17平方メートル
賃貸対象部分は1階事務所部分396.99㎡

い 建築時期

昭和46年2月頃

う 建物の現況

建物の設計,使用資材などの質が劣る
老朽化,陳腐化の程度が著しい

え 建物の利用状況

賃貸対象部分は賃借人が事務所として使用している
当該賃借人以外のテナント3社については既に明け渡しが完了しているか,明渡しの目途がついている

お 地域

JR水道橋駅に近い近隣商業地域
※東京地裁平成3年7月25日

4 裁判所が判断した明渡料

以上の事情からは,賃借人がこの建物の使用を継続する必要性は高く,また,賃借人に落度はないといえます。一方,建物の老朽化は進んでいて,建物の明渡の必要性自体は認められます。しかし,賃貸人は建物の明渡後,貸事務所を建築する予定がありました。
そうすると,賃貸人による明渡の請求は,賃貸人の利益を獲得することが主な目的であることになります。
そこで裁判所は,考慮すべき多くの事情を元に,総合的判断として1億円を明渡料と定めました。結果をみると,借家権価格に近い金額となっています。

<裁判所が判断した明渡料>

あ 明渡料の金額

1億円
現行賃料の約6.6年分に相当する

い 明渡料の内容

『ア〜カ』などの事情を総合考慮した
ア 敷地の価格
イ 賃料差額
新規賃料水準(月額200万円程度)と現行賃料の額(月額128万円)
ウ 保証金差額
当該賃貸借と新規賃貸借の保証金の額(1500万円と3600万円以上)
エ 借家権価格
1億0940万円
オ 賃貸借期間
カ その他
一時賃貸借の契約書が存在するなど
※東京地裁平成3年7月25日

本記事では,有効利用・高度利用を目的とした建物の明渡について,裁判所が明渡料を1億円と定めた事例を紹介しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結果は違ってきます。
実際に建物の明渡の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。