1 建物の明渡料1億6000万円を定めた裁判例
2 建物賃貸借契約の主な内容
3 建物の状況
4 裁判所が判断した明渡料

1 建物の明渡料1億6000万円を定めた裁判例

賃貸中の建物の明渡の際には,明渡料(立退料)が必要になることが多いです。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)
賃貸人が明渡を希望する理由が,敷地の有効利用・高度利用の目的である場合,明渡料は高額になる傾向があります。
本記事では,賃貸人による有効利用の目的による建物明渡において,裁判所が明渡料を1億6000万円と定めた事例を紹介します。

2 建物賃貸借契約の主な内容

まず,建物の賃貸借契約の主な内容をまとめます。

<建物賃貸借契約の主な内容>

賃貸人 不動産業者
賃借人 酒類販売業
始期 昭和22年6月16日と昭和31年3月28日
当初の賃料 不明
現行賃料 3万1200円(昭和54年6月~)
更新拒絶・解約申入の時期 昭和56年8月4日
明渡請求の理由 自社ビルと賃貸ビルの建築
賃貸人の地位の承継 昭和58年3月に売買により承継した

※東京高裁平成元年3月30日

3 建物の状況

次に,建物の状況をまとめます。

<建物の状況>

あ 建物の種類・構造

木造2階建
5軒長屋式のうち2戸

い 建築時期

昭和22年頃

う 建物の現況

かなり老朽化している
物理的耐用年数は10年程度である
経済的使用は限界に近い

え 建物の利用状況

賃借人とその家族が店舗兼住居として使用している

お 地域

JR池袋駅西口の準高度商業地域からややはずれた地域
※東京高裁平成元年3月30日

4 裁判所が判断した明渡料

以上の事情からは,賃借人がこの建物の使用を継続する必要性は高く,また,賃借人に落度はないといえます。一方,建物の老朽化が進み,建物の明渡を実現する必要性自体はあります。しかし,賃貸人の予定(目的)は,建物の明渡後に,自社ビルと賃貸用のビルを建築するというものでした。しかも,賃貸人は,明渡請求をすうことを前提にして土地を購入しています。
そうすると,賃貸人による明渡の請求は,賃貸人の利益を獲得することも大きな目的であることになります。
そこで裁判所は,賃貸人が申し出た金額に近い1億6000万円の明渡料によってようやく正当事由がある(明渡を認める)ことにしたのです。

<裁判所が判断した明渡料>

あ 明渡料の金額

明渡料 1億6000万円
現行賃料の約427.4年分に相当する
※東京高裁平成元年3月30日

い 原審の判断

原審では正当事由を否定した(明渡請求を棄却した)

う 明渡料の提示

控訴審では賃貸人が明渡料として約1億5564万円を提示した

え 控訴審の判断

借家権価格の鑑定評価額約1億2568万円は参考にとどめた
裁判所は賃貸人の提示額(う)をベースにして明渡料を決定した
※東京高裁平成元年3月30日

本記事では,有効利用・高度利用を目的とした建物の明渡について,裁判所が明渡料を1億6000万円と定めた事例を紹介しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結果は違ってきます。
実際に建物の明渡の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。