1 合意解除+明渡猶予|具体例
2 明渡猶予×賃貸借契約認定リスク
3 合意解除・明渡猶予の合意→『賃貸借契約』解釈
4 合意解除・明渡猶予×対価
5 契約終了時の設定×対価
6 合意解除+明渡猶予|有効性|判例
7 無効リスク・トラブル回避策=書面化
8 『建物を買い取るor退去』合意→無効|判例|事案
9 『建物を買い取るor退去』合意→無効|判例|結論

1 合意解除+明渡猶予|具体例

賃貸借の当事者で『退去の時期』を取り決めるケースは多いです。
明渡の期限に余裕を持たせる,ということもよくあります。
解釈の問題が生じることもあります。
まずはごく単純な具体例を示します。

<合意解除+明渡猶予|具体例>

あ 事案

現在,マンションを賃貸している
数年居住している賃借人と話し合って結論に達した
合意内容=『1年後に退去する・更新などの延長はしない』
オーナーは確実に退去してもらえるか心配である

い 合意

オーナー・賃借人は次のような合意をした
ア 賃貸借契約を合意解除する
イ 1年後までオーナーは明け渡し請求をしない=猶予する

2 明渡猶予×賃貸借契約認定リスク

明渡の猶予を設けると『賃貸借契約』と認定される可能性があります。
仮に『賃貸借契約』と認められてしまうと想定外の扱いとなります。

<明渡猶予×賃貸借契約認定リスク>

あ 『賃貸借契約』認定リスク

『猶予期間』が長い場合
→『一定期間の賃貸借契約』と認定されるリスクがある

い 賃貸借契約→借家のルール

『賃貸借契約』であるとすれば
→『借家』としてのルールが適用される

う 主要な『借家』ルール

『法定更新』の規定
→これに反する『賃借人に不利な特約』は無効となる(後記)
※借地借家法30条,旧借家法6条

え 『不利』の判断

(猶予)期間が重要である
例;1年程度→『不利』とは言えない傾向
ただし『期間』以外の事情も判断に影響を与える

3 合意解除・明渡猶予の合意→『賃貸借契約』解釈

合意解除・明渡猶予の合意が『賃貸借契約』と認定されるリスクがあります(前述)。
この場合の法的な扱いの内容をまとめます。

<合意解除・明渡猶予の合意→『賃貸借契約』解釈>

あ 全体

合意解約・明渡猶予の合意が『賃貸借契約』と認定された場合
→この『合意』の扱いは2とおりの可能性がある

い 解釈論|『合意解約』自体が無効

従前の契約がそのまま有効となる

う 解釈論|『更新しない』部分だけが無効

1年間の賃貸借契約が締結されたこととなる
そして『法定更新』が適用される

つまり,想定どおりに『明渡が実現しなくなる』ということです。

4 合意解除・明渡猶予×対価

明渡を猶予した場合『猶予期間中』の対価が問題となります。

<合意解除・明渡猶予×対価>

あ 一般的な方法

合意解除+明渡期限・明渡猶予期間を定める場合
→退去までの期間の『対価支払』の内容を定めておく

い 合意解除|対価×法的性質

『賃貸借契約』は終了している
→『賃料』ではない
→『損害金』である
実務では『賃料相当損害金』を呼んでいる

う 合意解除|対価の合意がない場合

明確な対価の設定・合意がない場合
→一般的に『従前の賃料の金額と同額』として扱われる

5 契約終了時の設定×対価

合意解除・明渡猶予と似ているけど異なる合意の方式もあります。
比較のために『契約の終了時点を決める』方式について整理します。

<契約終了時の設定×対価>

あ 契約終了時の設定

『一定期間後に契約が終了する+退去する』という形式で合意する方法

い 対価×法的性質

退去までの間も『賃貸借契約』は継続している
→支払う金銭は『賃料』である

名目については,実際には何かの利害として影響が生じることはないでしょう。
もちろん,合意し,書面に調印する場合,より正確な名目を記載すると良いです。
仮に記載する名目が異なっても読み替えるだけで,合意内容が無効となることはありません。

6 合意解除+明渡猶予|有効性|判例

一般的には,1~2年程度であれば,期限付合意解除明渡猶予期間付合意解除として,有効となる可能性が高いです。
この判断について,多くの裁判例の蓄積があります。
次にリストとしてまとめます。
これらの裁判例は,個別的な特殊事情で有効性が判断されているものもあります。
一般化できない,再現性が不十分,という判断もあります。
ご注意ください。

<合意解除+明渡猶予|有効性|判例>

あ 結論否定

東京高裁昭和49年6月27日
大阪地裁昭和42年6月24日
東京高裁昭和40年7月8日
東京高裁昭和63年6月23日
東京高裁昭和49年6月27日
京都地裁昭和40年4月22日

い 結論肯定

東京地裁昭和58年8月29日
東京地裁昭和55年8月28日
東京高裁昭和42年9月29日
東京地裁昭和41年11月11日
福岡高裁昭和39年12月22日
東京地裁平成5年7月28日

う 結論肯定;ただし,一時使用目的賃貸借として

東京高裁昭和55年10月29日
長野地裁昭和38年5月8日

7 無効リスク・トラブル回避策=書面化

解釈が不安定だと,無効となるリスクやトラブルに至るリスクがあります。
リスク発生を回避する方法についてまとめます。

<無効リスク・トラブル回避策=書面化>

あ トラブル回避策|基本

オーナー・賃借人で誤解がないようにしっかりと確認する
→書面(合意書)に調印しておく

い 猶予期間設定

退去までの期間を長くしない
目安=半年か,長くても1年程度

う 書面化|合意解除

即時に賃貸借契約が終了する

え 明渡猶予期間

明渡猶予期間を設定する

8 『建物を買い取るor退去』合意→無効|判例|事案

明渡猶予と似ている合意が問題となったケースを紹介します。
将来,賃借人が建物を買い取る,という方向性のものです。
その一方で『買い取れなければ退去する』という合意がなされた事案です。

<『建物を買い取るor退去』合意→無効|判例|事案>

あ 合意内容

3年後に建物の所有者が賃借人に建物を譲渡する
代金額は譲渡する際に相談する
3年後に賃借人が建物の買い取りをできない場合
→立退料と引き換えに退去する

い その後の事情

賃借人は建物を買い取ることができなかった
所有者は退去を請求した
※京都地裁昭和46年1月28日

9 『建物を買い取るor退去』合意→無効|判例|結論

上記事案について,裁判所の判断内容をまとめます。

<『建物を買い取るor退去』合意→無効|判例|結論>

い 裁判所の判断|契約の性格

賃貸借契約の条件付き合意解除である
停止条件=賃借人が対象建物を買い取らないこと

う 裁判所の判断|契約の有効性

特別の事情がない限り『賃借人に不利』である
→合意は無効となる
※旧借家法6条

え 裁判所の判断|結論

買い取り金額が定められていない
予定された立退料は低額であった
→『特別の事情』はない
→合意は無効である
※京都地裁昭和46年1月28日