1 建物の明渡料9000万円を定めた裁判例
2 建物賃貸借契約の主な内容
3 建物の状況
4 裁判所が判断した明渡料

1 建物の明渡料9000万円を定めた裁判例

賃貸中の建物の明渡の際には,明渡料(立退料)が必要になることが多いです。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)
賃貸人が明渡を希望する理由が,敷地の有効利用・高度利用の目的である場合,明渡料は高額になる傾向があります。
本記事では,賃貸人による有効利用の目的による建物明渡において,裁判所が明渡料を9000万円と定めた事例を紹介します。

2 建物賃貸借契約の主な内容

まず,建物の賃貸借契約の主な内容をまとめます。

<建物賃貸借契約の主な内容>

賃貸人 土地管理会社
賃借人 薬局経営
始期 昭和26年2月14日
当初の賃料 不明
現行賃料 7万円
更新拒絶・解約申入の時期 昭和57年6月16日
明渡請求の理由 駐車場ビルの建築
賃貸人の地位の承継 昭和53年8月に地主が借地権を買い戻した

※大阪地裁昭和63年10月31日

3 建物の状況

次に,建物の状況をまとめます。

<建物の状況>

あ 建物の種類・構造

木造2階建店舗兼居宅
1階58.82平方メートル,2階56.17平方メートル

い 建築時期

昭和24年頃(その後増築あり)

う 建物の利用状況

賃借人が薬局経営・居住している

え 地域

JR大阪駅至近・高度商業地域
※大阪地裁昭和63年10月31日

4 裁判所が判断した明渡料

以上の事情からは,賃借人が,この建物の使用を継続する必要性は高く,また,賃借人に落度はないといえます。一方,賃貸人がこの建物を使用する必要性は高くありません。また,賃貸人の予定(目的)は,建物の明渡後に駐車場ビルを建築するという敷地の有効利用をすることです。しかも,賃借人は,明渡請求をすることを前提として土地(借地権)を購入しています。
そうすると,賃貸人による明渡の請求は,賃貸人の利益を獲得することが主な目的であることになります。
そこで裁判所は,借家権価格に近い9000万円の明渡料によってようやく正当事由がある(明渡を認める)ことにしたのです。

<裁判所が判断した明渡料>

あ 明渡料の金額

9000万円
現行賃料の約107.1年分に相当する

い 明渡料の内容

鑑定時の借家権価格を元にした
その後の時価の変動(2倍以上上昇),営業中断の補償,新規店舗確保の費用などを考慮した
※大阪地裁昭和63年10月31日

本記事では,有効利用・高度利用を目的とした建物の明渡について,裁判所が明渡料を9000万円と定めた事例を紹介しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結果は違ってきます。
実際に建物の明渡の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。