1 建物の明渡料ゼロで明渡を認めた裁判例
2 建物賃貸借契約の主な内容
3 建物の状況
4 裁判所が判断した明渡料

1 建物の明渡料ゼロで明渡を認めた裁判例

賃貸中の建物の明渡の際には,明渡料(立退料)が必要になることが多いです。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)
賃貸人が明渡を希望する理由が,敷地の有効利用・高度利用の目的である場合,明渡料は高額になる傾向があります。
本記事では,賃貸人による有効利用の目的はあったけれど,一方で賃借人が退去(転居)することの支障も少なかったために,明渡料ゼロで明渡請求が認められたというレアケースの裁判例を紹介します。

2 建物賃貸借契約の主な内容

まず,建物の賃貸借契約の主な内容をまとめます。

<建物賃貸借契約の主な内容>

賃貸人 大手運輸倉庫業者
賃借人 倉庫業者
始期 昭和54年9月1日
当初の賃料 45万円
現行賃料 45万円
更新拒絶・解約申入の時期 昭和60年2月20日
明渡請求の理由 オフィスビルの建築

※東京地裁平成2年3月8日

3 建物の状況

次に,建物の状況をまとめます。

<建物の状況>

あ 建物の種類・構造

木造平家建事務所荷役場
床面積308.66㎡

い 建築時期

昭和29年

う 建物の現況 

老朽化している

え 建物利用の状況

賃借人が他者に倉庫として転貸している

お 地域

賃貸借契約の開始後,急速に土地の高度利用が進み高層建築物が増加した
地価も著しく高騰している
※東京地裁平成2年3月8日

4 裁判所が判断した明渡料

以上の事情からは,賃借人は,この建物を事業の一環として使用しているけれど,転貸により賃料収入を得ている状態に過ぎません。賃借人自身が,この建物(エリア)を対象としたサービスや商品を販売しているというわけではありません。
また,賃借人が入居した(賃貸借契約を締結した)際には,長期間の使用を想定していませんでした。
一方,賃貸人としては,広大な土地の全体が,その一部を敷地とする,この賃貸中の建物によって使えない状態に陥っていました。つまり,大きな経済的制約を負担していたのです。
このような事情は,賃貸借契約終了(明渡)の正当事由を認める方向のものです。
結論として,裁判所は,明渡料ゼロでも正当事由を満たしていると判断しました。つまり,明渡料なしで明渡請求を認めたのです。

<裁判所が判断した明渡料>

あ 明渡料の金額

ゼロ

い 明渡料の判断の理由

敷地は4893.12平方メートルである
建物は老朽化した平家建の建物である
土地が効率的に利用されていない(広大な土地の活用が妨げられている)
土地所有者はオフィスビルを建築して有効活用する必要がある
賃借人は,本件倉庫を長期間使用することを前提として賃借したものではない
本件倉庫を使用することにより得る利益はそれほど大きくない

う 要点

極端に効率が悪い状態にある
賃借人移転が容易である
賃借人は長期間の入居を想定していなかった
※東京地裁平成2年3月8日

本記事では,有効利用・高度利用を目的とした建物の明渡について,裁判所が明渡料ゼロで明渡請求を認めた事例を紹介しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結果は違ってきます。
実際に建物の明渡の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。