1 特殊な事情による賃借権の移転と賃借権譲渡(総論)
2 共有者以外への準共有持分譲渡と賃借権譲渡(肯定)
3 共有者内での準共有持分移転と賃借権譲渡(否定)
4 共有者内での準共有持分移転と農地法の許可(参考)
5 離婚に伴う財産分与と借地権譲渡(否定方向)
6 法人の経営者・構成員の変動と賃借権譲渡(否定)
7 法人の支配権の変動による解除の特約(COC条項;概要)

1 特殊な事情による賃借権の移転と賃借権譲渡(総論)

賃借権の移転賃借権譲渡に該当するかどうか,という問題があります。
典型的なケースについての判断は,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡の意味と典型的なケースについての判断
賃借権の移転に,特殊な事情があると,賃借権譲渡の判断も典型的なものとは違うことになることがあります。
本記事では,共有者間で賃借権の準共有持分が移転するケースや離婚による財産分与として賃借権が移転するケースを説明します。
また,賃借人である法人の関係者に変動があったケースの扱いも説明します。

2 共有者以外への準共有持分譲渡と賃借権譲渡(肯定)

賃借人が複数人存在するケースもあります。
法的には賃借権を準共有している状態となります。
このときに,共有者以外の第三者に賃借権の準共有持分を譲渡することは賃借権譲渡に該当します。

<共有者以外への準共有持分譲渡と賃借権譲渡(肯定)>

あ 単純な持分譲渡

賃借権の準共有者がA・Bであった
Aが準共有持分を第三者Cに譲渡した
→賃借権の譲渡に該当する
※民法612条1項

い 単独の賃借人からの持分譲渡

賃借人はA(だけ)であった
Aが賃借権の一部(準共有持分)を第三者Cに譲渡した
→賃借権の譲渡に該当する
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p245;土地賃借権について

3 共有者内での準共有持分移転と賃借権譲渡(否定)

賃借権の準共有持分の譲渡でも,譲り受ける者がもともと共有者であった,場合は,賃借権譲渡に該当しないことになります。
賃借人として新たなメンバーが登場しないために,賃貸人に悪影響はないということが理由といえます。

<共有者内での準共有持分移転と賃借権譲渡(否定)>

あ 単純な持分譲渡

賃借権の準共有者がA・B・Cであった
Aが準共有持分をCに譲渡した
→賃借権の譲渡には該当しない
※最高裁昭和29年10月7日

い 準共有持分の放棄(概要)

賃借権の準共有者がA・B・Cであった
Aが準共有持分を放棄した
→B・Cの準共有持分が増えることになった
→賃借権の譲渡には該当しない
※民法255条,264条
詳しくはこちら|共有持分放棄|基本|典型例・通知方法・法律構成

4 共有者内での準共有持分移転と農地法の許可(参考)

新たなメンバーが登場しないと賃借権譲渡に該当しないという考え方があります(前記)。
これと同じような考え方が,別のケースでも適用されています。
農地(土地)の共有持分の譲渡で,共有者内の譲渡であれば,一般的な農地の譲渡として扱われないという判例の理論です。
参考として紹介します。

<共有者内での準共有持分移転と農地法の許可(参考)>

あ 共有者間での共有持分の譲渡

共同相続人がA・B・Cであった
相続財産に農地あった
Aが農地の共有持分(相続分)をCに譲渡した

い 農地法の許可における扱い

農地法の許可を要しない
=一般的な譲渡として扱わない
※最高裁平成13年7月10日;相続分の譲渡について
詳しくはこちら|相続分譲渡|遺産分割に参加する立場ごとバトンタッチできる

5 離婚に伴う財産分与と借地権譲渡(否定方向)

離婚の際,財産の清算として,配偶者に財産分与をする制度があります。
形式的に借地権が移転することも生じます。
しかし,実質的な移転とは違う性質なので,賃借権(借地権)譲渡ではないという解釈される傾向があります。
借地権譲渡として扱った上で,地主による解除を認めないという裁判例もあります。
いずれの解釈も,結論として無断譲渡による解除を認めないという意味では同じです。

<離婚に伴う財産分与と借地権譲渡(否定方向)>

あ 財産分与(前提)

借地人が離婚した
財産分与として配偶者に『建物+借地権』を移転させた
※民法768条,771条

い 一般的な見解

潜在的な共有財産の清算である
詳しくはこちら|財産分与の基本(3つの分類・典型的な対立の要因)
→賃借権の譲渡に該当しない
※福岡地裁小倉支部昭和36年7月13日
※東京地裁昭和46年5月24日参照

う 譲渡として扱う見解

賃借権譲渡として扱う
ただし,通常は背信性が否定される
→解除権は生じない
※大阪地裁昭和41年12月20日

6 法人の経営者・構成員の変動と賃借権譲渡(否定)

借地人が法人であるケースもあります。
法人の場合は,実質的に判断や行動をしているのは,役員や株主などの具体的な人物です。
規模が小さい会社では特に,特定の個人が大きな影響力を持つ傾向があります。
実質的な経営者(経営判断をする者)が変わっても,法人(法人格)自体は一切変わっていません。
そこで,賃借権譲渡には該当しないことになります。

<法人の経営者・構成員の変動と賃借権譲渡(否定)>

あ 経営者・構成員の変動(前提)

賃借人である会社(法人)の経営者が交替した
構成員の変更が生じた
例;株式or持分の移転

い 賃借権の譲渡(否定)

→法人格の同一性は維持されている
→賃借権の譲渡ではない
小規模で閉鎖的な会社であっても同様である
※最高裁平成8年10月14日

う 他の理論

法人格否認の法理は別である

7 法人の支配権の変動による解除の特約(COC条項;概要)

法人である賃借人の実質的な経営者が変わっても,賃貸人は何もいえないのが原則です(前記)。
現実には,賃貸人にとって想定外の状況となり,不利益を受けるケースも生じます。
そこで,このような不都合を避けるために,契約締結時に一定の関係者の変更について賃貸人の承諾を要するという特約を設定しておくことが好ましいです。
M&Aなどによって,支配権に変動が生じた場合に解除を認めるという条項が代表的な例の1つです。
詳しくはこちら|チェンジオブコントロール条項=COC|支配権の変動による解除