1 建物収去を回避するための土地の全面的価格賠償の選択
2 法定地上権不成立と全面的価格賠償の相当性
3 全面的価格賠償と換価分割の優先順序(参考)
4 要件緩和見解の前提となる事案
5 特殊事情により全面的価格賠償の要件を緩和する見解
6 想定される変則状態解消のプロセス

1 建物収去を回避するための土地の全面的価格賠償の選択

共有物分割で、全面的価格賠償が採用されるには、一定の要件(相当性・実質的公平性)をクリアする必要があります。
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)
この点、建物を収去(解体)せざるを得ない状態を回避するために、全面的価格賠償が選択される、ということがあります。本記事では、このことを説明します。

2 法定地上権不成立と全面的価格賠償の相当性

換価分割による形式的競売では、法定地上権が成立するかどうか、という問題があります。
詳しくはこちら|形式的競売における法定地上権の適用の有無
対抗力のある土地利用権原がなく、かつ、法定地上権が成立しない場合、建物を収去せざるを得ない状態になります。このようなことは好ましいことではないので、建物収去を避ける(換価分割を避ける)ために、全面的価格賠償を選択する方向に働きます。理論的には、法定地上権が成立しないことが、全面的価格賠償の相当性の1つとなります。

法定地上権不成立と全面的価格賠償の相当性

あ 所有関係

建物→X・Y→共有物分割
土地→X

い 当事者の希望

原告X→自身が取得する全面的価格賠償
被告Y→換価分割

う 判決

そうすると、本件建物は、1棟の建物であるから、現物分割は相当ではなく、また、共有物は本件建物であるが、その敷地である本件土地が原告の単独所有であって、本件建物の競売をした場合に、法定地上権が発生するものとは解されないから(民事執行法81条の適用はない。)、土地利用権があるかどうか問題となり、価格が低下することが予測されること、被告の持分は本件建物の3分の1であり、その余は原告が共有していること、被告は本件建物を占有しておらず、代金分割を求めることから明らかなように金銭的給付を得ることを希望していることを考慮すると、本件建物を共有者のうちの特定の者である原告に取得させるのが相当であると認められる。
※東京地判平成17年10月19日

3 全面的価格賠償と換価分割の優先順序(参考)

前述の、換価分割を避けるために全面的価格賠償を選択するという、消去法のような考え方は、換価分割と全面的価格賠償の優先順序と整合しないようにも思えます。
というのは、少なくとも令和3年改正で、換価分割よりも全面的価格賠償の方が優先、ということがはっきりしたのです。
詳しくはこちら|全面的価格賠償と換価分割の優先順序(令和3年改正・従前の学説)
では、現在は前述の消去法のような考え方は使われないかというと、そうではないと思います。共有者の1人が主張する分割方法(換価分割)の合理性は、全面的価格賠償の相当性の1つとして考慮することまで、令和3年の改正法が否定しているとは思えません。

4 要件緩和見解の前提となる事案

以上の考え方をもっと推し進めて、法定地上権が成立せず、建物の収去が必要となることを避けるために、従来の判断枠組みを超えて全面的価格賠償を選択する、という見解に達します。この見解を説明する前に、検討の前提となる裁判例の事案の要点を押さえておきます。
土地と建物の両方が共有となっていますが、土地(だけ)の共有者が、土地の共有物分割を請求した、という事例です。実際には、裁判所は換価分割を選択しました。その結果、土地の形式的競売となりました。形式的競売の結果、法定地上権が成立するかどうかが問題となりましたが、結論として否定されています。
詳しくはこちら|形式的競売における法定地上権の適用の有無

要件緩和見解の前提となる事案

あ 所有関係

建物→YA共有
土地→XA共有

い 共有物分割

土地についてXが共有物分割を請求した
裁判所は、換価分割を選択した
(形式的競売の結果、法定地上権は成立しない)
※東京高判平成3年9月19日

5 特殊事情により全面的価格賠償の要件を緩和する見解

法定地上権が成立しないと、建物は収去せざるを得ないことになります。この点、共有物分割訴訟の段階で、換価分割を避けておけば建物収去を避けられたはずです。
具体的には、建物の共有者の1人でもあるAが土地(全体)を取得する全面的価格賠償が採用されていれば、建物の収去は避けられました。
本事案では、土地のAの共有持分は10分の1と小さかったので、一般論としては、全面的価格賠償の要件(相当性)が否定される傾向にあります。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情
しかし、建物収去の結論を避けるという目的を実現するために、要件を緩和してもよい(相当性があると判断してもよい)のではないか、という見解(提唱)があります。
確かに、現在では、分割方法の自由化(柔軟化)が進んでおり、現物取得者の持分割合が小さくても全面的価格賠償が認められる傾向にあると感じます。

特殊事情により全面的価格賠償の要件を緩和する見解

あ 原則論(否定方向)

一般的にいえば、本件土地について一〇分の一の共有持分しか有していないAに対して価格賠償による分割を命じることは問題である
※並木茂稿『土地およびその上の建物双方の共有者の一人の土地の持分のみが強制競売の売却により第三者の取得に帰した場合における法定地上権の成否(消極)』/『金融法務事情1337号』1992年11月p17

い 特殊事情の影響(肯定可能性)

しかし、その後のAとXの関係を見通すならば(後記※1)、Aに対する価格賠償による分割も、権原のない者の本件土地の建物所有による占有の継続という変則状態を可及的速やかに解決するための方策として許容されるのではないだろうか
※並木茂稿『土地およびその上の建物双方の共有者の一人の土地の持分のみが強制競売の売却により第三者の取得に帰した場合における法定地上権の成否(消極)』/『金融法務事情1337号』1992年11月p17

6 想定される変則状態解消のプロセス

この見解はさらに、Aが賠償金を支払えない場合のことも想定しています。この場合は、XとしてはAに対する金銭債権を持っています(通常、判決が債務名義となっています)。
詳しくはこちら|全面的価格賠償における対価取得者保護の履行確保措置(金銭給付・担保設定)
そこで、XはAの財産である土地と建物の共有持分について、強制執行としての競売を申し立てることができます(土地の価値の9割相当の請求権に対して、差押対象財産は土地建物の1割の持分なので、土地・建物の一方が超過売却として禁止されることはないでしょう)。X自身が買受人となれば、建物の(残った)共有者Yから共有持分を買い取ることで、土地・建物が同一人の所有となる状態が実現します。X以外の第三者が買受人となった場合でも、建物の収去をせざるを得ない状態にはなりません。
このように、変則状態(建物収去の運命)を避けるシナリオが成立します。ただし、このシナリオは、Aの支払能力が不十分であるのに、Aに取得させる全面的価格賠償を選択する、というプロセスを含んでいます。支払能力は全面的価格賠償の重要な要件(実質的公平性)なので、ここまで緩和するハードルは高いと思います。とはいっても、仮に、Xが「Aの無資力リスクを受け入れる」と宣言すれば、裁判所があえて全面的価格賠償を避ける必要もないとも思います(実際にこのような状況になれば和解として成立させることで足りるでしょうけれど)。

想定される変則状態解消のプロセス(※1)

あ 見解

(注15)AがXに対して価格賠償ができないときは、Xは、Aの本件土地の共有持分および本件建物の共有持分の一括強制競売を申し立て、その買受人(Xが買受人になることが予想される)がYと本件建物について共有物の分割の協議または裁判をすれば、本件土地をなんらの権原もなく占有を継続するという事態は解消することができる。
※並木茂稿『土地およびその上の建物双方の共有者の一人の土地の持分のみが強制競売の売却により第三者の取得に帰した場合における法定地上権の成否(消極)』/『金融法務事情1337号』1992年11月p18

い 補足説明

全面的価格賠償の判決で発生したAの(Xに対する)金銭債務が不履行になった場合には、この請求権による(全面的価格賠償の判決を債務名義とする)強制執行として、土地・建物のA持分の競売をする、という意味である
「Aに賠償金の支払能力が欠けている」場合であっても、特殊性により、全面的価格賠償を許容する、という考えであると読める

本記事では、建物収去の状況を回避するために、全面的価格賠償を認めるという考え方を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物分割)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。