【国税による交付要求(裁判所の競売手続への参加)】
1 国税による交付要求(裁判所の競売手続への参加)
国税(税金)を滞納すると、税務署は、税務署自身が納税者の財産を強制的に売却(滞納処分としての公売・換価の執行)して、売却代金から税金を回収します。この点、他の債権者が裁判所に申し立てて行われた競売手続で、交付要求をする方法もあります。裁判所の競売の売却代金から国税を回収するという方法です。一般の債権者が配当を受けるのと同じようなことですが、国税の場合は交付要求という手続になります。
本記事では裁判所の競売手続における国税の交付要求について説明します。
2 交付要求の対象となる手続を定める条文
国税徴収法の条文上の定義では、強制換価手続という用語の意味として、(滞納処分のほかに)強制執行と担保権実行が含まれています。この点、形式的競売は、強制執行でも担保権実行でもないので含まれていません。
そして、交付要求の対象となる手続は、強制換価手続と定められています。
つまり、条文上は、形式的競売は、交付要求の対象にはなっていないのです。この問題については後述します。
交付要求の対象となる手続を定める条文
あ 「強制換価手続」の定義
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
・・・
十二 強制換価手続 滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう。
※国税徴収法2条12号
い 交付要求の対象となる手続
(交付要求の手続)
第八十二条 滞納者の財産につき強制換価手続が行われた場合には、税務署長は、執行機関(破産法(平成十六年法律第七十五号)第百十四条第一号(租税等の請求権の届出)に掲げる請求権に係る国税の交付要求を行う場合には、その交付要求に係る破産事件を取り扱う裁判所。第八十四条第二項(交付要求の解除)において同じ。)に対し、滞納に係る国税につき、交付要求書により交付要求をしなければならない。
2(以下略)
※国税徴収法82条(1項)
3 抵当権と国税(交付要求)の優劣を定める条文
実際に、裁判所の競売手続で国税の交付要求があった場合に、結果に大きな影響を及ぼすのは、抵当権と国税の優先関係です。
これは、国税の納期限と抵当権の設定時点の先後で判定します。国税の納期限が抵当権設定よりも前であれば、登記上は最先順位(順位1位)の抵当権であっても、国税の方が優先となります。いわば、順位ゼロ番の透明の担保権が設定されているのと同じようなことになります。
このようなルールがあるので、抵当権設定(融資)の際に金融機関は顧客(担保設定者)に納税証明書の交付を要求しています(国税の滞納がないことを融資の条件とする)。
抵当権と国税(交付要求)の優劣を定める条文
第十六条 納税者が国税の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その国税は、その換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収する。
※国税徴収法16条
4 形式的競売における交付要求(肯定)
前述のように、条文上は、形式的競売については、交付要求は適用されないことになっています。特に、租税(税金)を課すルールについては、憲法で、法律で定めることを明確に要求しています(租税法律主義)。
そこで、法律の条文に忠実に解釈して、形式的競売では交付要求はできないとして扱うべきようにも思えます。
しかし、他の手続(強制執行・担保権実行)と違いを認める実質的な理由はないと考えられます。そこで、実務では、形式的競売でも交付要求を認める扱いが一般的となっています。
解釈としては、民事執行法195条が、形式的競売は「担保権実行の例による」と定めているので、これを「形式的競売は担保権実行と同じように扱う」と(ある意味大雑把に)読み取るのです。この読み方を前提として、国税徴収法(2条12号)をみると、形式的競売も強制換価手続に含めてしまってよい、とういうことになります。このような読み取り方をすれば、法律の規定による扱いであるということになります(租税法律主義をクリアできます)。
形式的競売における交付要求(肯定)
あ 前提
形式的競売において、(担保権の)消除主義を採用する
担保権者の配当要求を認める
い 交付要求の可否
ア 実務→肯定
交付要求については、国徴法2条12号の文言上、形式的競売においてこれを認めるのは租税法律主義に反するとする見解もあるが、
剰余主義の適用判断や配当の際に、法定納期限等において担保権に優先する公租公課を無視することには違和感があること、法195条は、形式的競売につき担保権実行の例によるとしており、必ずしも租税法律主義に反するとまではいえないことから、東京地裁民事執行センターにおいては、共有物分割のための競売において交付要求を認める扱いである。
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』金融財政事情研究会2022年p441、442
イ 学説
・・・国税徴収法二条一二号の「担保権の実行としての競売」には形式的競売を含むと解するか、民執法一九五条を直接の根拠とするかはさておき、形式的競売においても交付要求を認めるべきであり(同旨、岡部・前掲論文三五頁、坂本・前掲論文五一五頁、注解民執法(5)[近藤崇晴〕三八六頁)、こうした解釈が直ちに租税法律主義に反するとはいえないであろう。
※本田晃稿/山﨑恒・山田俊雄編『新・裁判実務大系 第12巻 民事執行法』青林書院2001年p426
う 租税法律主義の条文(参考)
第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
※日本国憲法84条
本記事では、裁判所の競売手続における国税の交付要求について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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