1 共同の賃貸人(共有者)間の賃料支払方法の変更と口頭の提供の効力
2 共同の賃貸人間の賃料支払方法に関する対立(事案)
3 裁判所の判断(支払方法の変更の効果を否定)
4 裁判所の判断(口頭の提供の効果を否定)
5 受領拒絶による口頭の提供(概要)
6 共有物の『管理』との関係(概要)

1 共同の賃貸人(共有者)間の賃料支払方法の変更と口頭の提供の効力

共有不動産において,複数の共有者の全員が賃貸人となっていることはよくあります。そのようなケースでは,賃料の支払について問題が生じることが多いです。
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借の賃料(賃料請求権の帰属・賃貸人の相続の際の賃料供託)
本記事では,賃料を誰に払うべきかということについて対立が生じたケースの裁判例を紹介します。
法的には,賃料支払方法の変更に必要な要件が問題になったのです。これに伴って,口頭の提供が成り立つかどうかも問題となりました。
少し複雑ですので,以下,この事案を整理しつつ説明します。

2 共同の賃貸人間の賃料支払方法に関する対立(事案)

賃貸人が2人であったのですが,この2人の間で,賃料をどちらが受け取るかということで対立が生じました。
もともとX1が賃料全額を受け取っていたので,X1は,このとおりに全額を受け取りたいと考えます。
もう1人の賃貸人であるX2は,半分は自分がもらうべきだと考え,賃借人にそのように要求します。

<共同の賃貸人間の賃料支払方法に関する対立(事案)>

あ 当事者

賃貸人=X1,X2(共有者)
賃借人=Y

い 賃料の支払方法に関する合意

当初,賃料は全額X1に支払うことが3者で合意されていた

う 賃料の支払方法に関する対立

X2がYに対して『以後の賃料の半額をX2名義の口座に振り込んで支払う』という要求を書面で通知した
X1はYに対して『賃料全額を従前どおりX1に支払う』という要求を書面で通知した(※1)
YはX1,X2に対して,支払関係を明確にするように求めた
X1はYに対して従前どおりの賃料全額の支払を求めた
その後,YはX2に対して,『従来どおりX1へ支払いたい』と通知した
X2はYに対して『X1の賃料の代理受領権を解除した』と主張し,X2に賃料の半額を支払うことを改めて督促した

え 賃借人の対応

賃借人Yは困って,X1,X2のいずれにも賃料を払わなかった
Yとしては,賃料を支払う意図を伝えた(前記※1)が(受領拒絶による)口頭の提供にあたると考えていた

お 問題点

Yが賃料を支払わなかったことで債務不履行に陥っているのではないか
口頭の提供(前記※1)が成り立っているかどうか
※東京地判昭和57年10月18日

3 裁判所の判断(支払方法の変更の効果を否定)

裁判所は,丁寧に事案を分解して1つ1つ法的判断を示します。
まず,賃料の支払方法は,3人で合意されています。契約の大原則で,当事者全員を拘束します。ということで,変更するにも合意した全員の同意が必要ということになります。
X2だけの判断で賃料支払方法の変更をしたいと考えても法的効果は生じません。

<裁判所の判断(支払方法の変更の効果を否定)>

あ 賃料支払方法の変更の要件

X1,X2,Yの合意により賃料債権の支払方法が定められていた
賃料支払方法の変更のためには3者(X1・X2・Y)の合意が必要である
詳しくはこちら|契約(合意)の拘束力と合意解除の自由と効力が及ぶ範囲

い 賃料支払方法の変更の効果(否定)

X2による賃料受領の委任(準委任)契約を解除する旨の通知は,賃料支払方法の合意に反する
X2の通知により賃料支払方法の合意の効力が失われるわけではない
X1,X2の間で賃料の受領権限をめぐり対立が生じたというにとどまる
※東京地判昭和57年10月18日

4 裁判所の判断(口頭の提供の効果を否定)

次に,裁判所は口頭の提供が成り立つかどうかを判断します。
前記の支払方法の変更は効果を生じないという結論を前提とすると,以下の法的判断は容易です。
Yは合意どおりにX1(の口座)に賃料全額を支払う義務があります。X1は賃料全額の受領を拒否していません。ということは,受領拒否はありません。
そこで,受領拒絶により口頭の提供が可能となったということはありません。
結論として,賃料を払わなかったことは,純粋に債務不履行にあたるということです。

<裁判所の判断(口頭の提供の効果を否定)>

あ 弁済提供の効果(否定)

YはX1名義の口座に賃料を送金すべきであった
=賃貸人(債権者)のあらかじめの受領拒絶はない(履行可能であった)
口頭の提供(民法493条)では足りない
=賃料債務について債務不履行となる

い 補足(なすべきであった対応)

債権者不確知による供託(民法494条)は可能であった
※東京地判昭和57年10月18日

う 現実的な結果

賃借人Yの債務不履行がある
=賃貸人から解除できる状態である
→解除する(意思決定の)ためには共有持分の過半数を有する共有者の同意が必要である
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類

5 受領拒絶による口頭の提供(概要)

以上の理論の中で,受領拒絶があれば口頭の提供で足りる(口頭の提供で済ますことができる)というものが使われています。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|口頭の提供の要件の『債権者の(あらかじめ)受領拒絶』

6 共有物の『管理』との関係(概要)

ところで,共有の不動産における賃貸借契約の解除は,『管理』に分類されます。そうすると,共有持分の過半数を有する共有者解除するという意思決定をすることができます。
これは紛らわしい(間違えやすい)ところです。
『管理』として過半数での意思決定ができることの対象は,もともと『所有者』が意思決定するものです。
この点,賃料の支払方法の変更は賃貸人(所有者)と賃借人の両方の合意が必要です。もともと賃貸人(所有者)だけで決定できるものではありません。
前記のケースで,仮にX2の共有持分割合が90%であったとしても,賃料の支払方法の変更はできないのです。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類

本記事では,共同の賃貸人の間で賃料支払方法について対立が生じたケースの法的な扱いを説明しました。
実際には細かい具体的事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に共有の不動産の賃貸借に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。