1 不正指令電磁的記録作成等罪の実例(典型例と裁判例)
2 典型事例における不正指令電磁的記録作成等罪の成否
3 ダウンロード用の個人情報送信アプリの設置→有罪
4 サーバへのブラウザクラッシャーのアップロード→有罪
5 キーロガー+送信プログラムの無断インストール→有罪

1 不正指令電磁的記録作成等罪の実例(典型例と裁判例)

不正な(コンピュータの)プログラムを提供すると不正指令電磁的記録作成等罪が成立することがあります。
詳しくはこちら|不正指令電磁的記録作成等罪の基本(条文と解釈)
本記事では,不正指令電磁的記録作成等罪が成立する典型例や裁判例などの実例を紹介します。

2 典型事例における不正指令電磁的記録作成等罪の成否

分かりやすい教科書事例として,HDD内のすべてのファイルを消去するプログラムを想定してみます。
ユーザーを困らせるために行うのであればとても悪質な行為です。まったく別のプログラム(アプリ)であるような偽装をしたようなケースは,使用者の意図に反したプログラムの典型例です。当然,不正指令電磁的記録作成等罪が成立します。
一方,パソコンのユーザーが中古パソコンの買取店に売却するためにすべてのファイルを消去することもあります。そのような機能のプログラムとして提供することは当然,不正指令電磁的記録作成等罪にあたることはありません。
また,バグはプログラムの作成者も意図(認識)していないものなので,仮にバグにより想定外の不具合が生じても,不正指令電磁的記録作成等罪は成立しません。

<典型事例における不正指令電磁的記録作成等罪の成否>

あ 説明による回避

HDD内のファイルをすべて消去するプログラム
機能を適切に説明した上で公開されている
→ファイル消去の動作は使用者の意図に反するものではない
→不正指令電磁的記録作成等罪は成立しない
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法第8巻第3版』青林書院2014年p347

い 偽装による成立

『あ』のプログラムを,行政機関からの通知文書であるかのように装って,その旨の虚偽の説明を付して,アイコンも偽装した
事情を知らない第三者に電子メールで送りつけた
第三者が誤信して実行した(HDD内のファイルをすべて消去した)
意図に反する・不正なものである
→不正指令電磁的記録作成等罪が成立する
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法第8巻第3版』青林書院2014年p347

う バグの扱い

プログラミングの過程で作成者も知らないうちにプログラムの誤りや不具合が発生した
コンピュータの使用者には,バグは不可避的なものとして許容されていると考えられる
→『意図に反する』『不正な』のいずれにも該当しない
→不正指令電磁的記録作成等罪は成立しない
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法第8巻第3版』青林書院2014年p347

3 ダウンロード用の個人情報送信アプリの設置→有罪

次に,実際のケースで裁判所が有罪(不正指令電磁的記録供用罪が成立する)の判断をした裁判例を紹介します。
アダルトサイトで動画を見るためのアプリというウソの表示をして,実は,個人情報を端末から特定のサイトに送信するアプリがダウンロードされるという悪質な設計がされていたケースです。その後,個人情報を悪用して,不正な利用料金の請求の表示をさせるという流れがありました。
当然,ユーザーの意図に反するものであり,不正なプログラムと判断されました。不正指令電磁的記録供用罪の成立が認められました。

<ダウンロード用の個人情報送信アプリの設置→有罪>

あ サイトの開設とセッティング

Aは,インターネット上にアダルト動画サイトを開設した
Aは,サイト内に,『v_timer.apk』と『rgst5.php』を保存した
『再生専用アプリダウンロード』と表示されたボタンをクリックした者のスマートフォンに対して『v_timer.apk』のダウンロードがなされるように設計した

い 『v_timer.apk』の内容

インストールした者の使用するスマートフォンが動画サイトに個人情報を送信するプログラム

う 『rgst5.php』の内容

ウィンドウを表示させるなどのプログラム(サーバ側で作動する)

え ユーザー側に生じる現象

ユーザーが使用するスマートフォンが,自局電話番号,メールアドレス,位置情報などの個人情報を動画サイトに送信した
スマートフォン上に,『動画サイトの有料会員登録が完了し,その利用料金を支払い義務がある』旨と個人情報の内容が表示される
スマートフォンを再起動しても5分おきにこのウィンドウが表示される

お 裁判所の判断

Aには不正指令電磁的記録供用罪が成立する
※東京地裁平成24年9月21日

4 サーバへのブラウザクラッシャーのアップロード→有罪

ブラウザクラッシャーを他人の管理するサーバーに不正にアップロードしたことについて,不正指令電磁的記録作成等罪の成立を認めた裁判例です。裁判例とはいっても略式です。被告人自身が積極的に罪の成立を認めているので,簡易裁判所が最低限のチェックしかしないという特殊性があります。
事案の内容としては,サーバーの管理者の意図に反するものであり,不正なプログラムであるといえるものです。

<サーバへのブラウザクラッシャーのアップロード→有罪>

あ 無断アップロード

Aは,他人が管理運用するサーバにインターネットを通じてアクセスして,ブラウザクラッシャーを送信して設置した

い ブラウザクラッシャーの内容

ウェブサイトの閲覧者の意思に基づかず,ウェブブラウザを多量に起動させて電子計算機の実行を不能ならしめる

う 裁判所の判断(略式)

Aには不正指令電磁的記録供用罪が成立する
※栃木簡裁平成23年11月21日(略式)

5 キーロガー+送信プログラムの無断インストール→有罪

このケースは,パソコンを直接(手で)操作して,不正なプログラムをインストールしたというものです。
元交際相手のパソコンに,所持者が知らないうちに無断でプログラムをインストールし,その結果,キー入力の履歴が記録され,それが特定のサイトに送信されるようにしたのです。プライバシーを著しく侵害するものであり悪質です。
当然,使用者の意図に反する不正なプログラムとして,不正指令電磁的記録供用罪の成立が認められました。

<キーロガー+送信プログラムの無断インストール→有罪>

あ 無断インストール

Aは,元交際相手の女性が使用するパソコンにキーロガーシュガーリンクを無断でインストールした
プログラムが実行可能となるように設定を行った

い キーロガーの内容

パソコンのキーボード入力履歴を当該パソコン内に保存する指令を与えるプログラム

う 『シュガーシンク』の内容

パソコン内の情報をインターネットを介して自動的にインターネット上の特定のサーバに保存する

え 裁判所の判断

Aには不正指令電磁的記録供用罪が成立する
※横浜地裁平成24年9月13日

本記事では,不正指令電磁的記録作成等罪の実例について説明しました。
実際には,個別的事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に不正指令電磁的記録作成等罪に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護による法律相談をご利用くださることをお勧めします。