1 口頭の提供の要件の『債権者の(あらかじめ)受領拒絶』
2 売買における代金の受領拒絶と口頭の提供(原則肯定)
3 売買における目的物の受領拒絶と口頭の提供(肯定)
4 買戻権行使における受領拒絶と口頭の提供(肯定)
5 利息制限法による返済の受領拒否と口頭の提供(肯定)
6 賃貸借の賃料の受領拒絶と口頭の提供(肯定)
7 共同の賃貸人間の対立と口頭の提供(否定・概要)

1 口頭の提供の要件の『債権者の(あらかじめ)受領拒絶』

債務の弁済について,口頭の提供で足りる状況は2つあります。
その1つは債権者があらかじめ受領を拒絶しているというものです。
詳しくはこちら|口頭の提供の基本(条文・口頭の提供が認められる要件と方法)
本記事では,この『債権者の(あらかじめの)受領拒絶』の内容について説明します。

2 売買における代金の受領拒絶と口頭の提供(原則肯定)

債権者が受領を拒絶するケースにはいろいろなものがあります。
典型的なものの1つは,売買契約の売主が代金の受領を拒否するというものです。通常は口頭の提供で足りることになります。

<売買における代金の受領拒絶と口頭の提供(原則肯定)>

あ 通常の受領拒絶

売買契約が締結された
売主があらかじめ代金の受領を拒絶していた
買主は口頭の提供で足りる
→買主は契約を解除できる
※大判大正8年6月28日

い 受領拒絶が認定できないケース

買主が受領を拒絶した事実の認定がなかった
→口頭の提供に基づく解除の有効性は判断できない
※大判大正12年7月20日

3 売買における目的物の受領拒絶と口頭の提供(肯定)

売買契約の買主が目的物の受領を拒絶するというケースもあります。口頭の提供で足りることになります。

<売買における目的物の受領拒絶と口頭の提供(肯定)>

あ 買主の協力欠如

機械の売買契約が締結された
買主(債権者)が約定の検収の準備を行わないことが明らかな状況であった

い 裁判所の判断

売主(債務者)の代金弁済は口頭の提供で足りる
※東京高判昭和62年6月29日

なお,このケースは債権者が必要な協力を行わないという,もう1つの口頭の提供の要件に該当するともいえるでしょう。

4 買戻権行使における受領拒絶と口頭の提供(肯定)

買戻特約付売買において,買主(金銭を貸した者)が,目的物を返したくないために,返済する金銭の受領を拒否したケースがありました。
受領を拒絶しているものとして,口頭の提供で足りることになりました。

<買戻権行使における受領拒絶と口頭の提供(肯定)>

あ 買戻権行使

買戻特約付売買契約が締結された
買戻権者(売主)が買戻期間に売買代金と契約費用を支払う準備がある旨を買主に通知した
買主が受領を拒絶した

い 裁判所の判断

供託の前提として必要な弁済提供口頭の提供で足りる
※大判大正7年11月11日

5 利息制限法による返済の受領拒否と口頭の提供(肯定)

売買以外にも,口頭の提供が問題となるケースはあります。
金銭の貸し借り(消費貸借)において,利息制限法の上限金利によって算定した利息しか払わないことは当然です。この点,債権者がこれを認めず約定利率による利息を主張しても,法的に正当ではありません。
このような理由で債権者(貸主)が受領を拒否した場合は,口頭の提供で足ります。

<利息制限法による返済の受領拒否と口頭の提供(肯定)>

あ 利息制限法の利率での返済

金銭消費貸借が行われた
約定の利率は利息制限法の上限を超過するものであった
債務者(借主)は,利息制限法所定の利率での返済をしようとした

い 約定利率の主張による受領拒否

債権者(貸主)が約定の利率による利息を含めた金額でなければ受領に応じない態度であった

う 裁判所の判断

あらかじめの受領拒絶に該当する
口頭の提供として有効である
※東京高判昭和56年9月30日

6 賃貸借の賃料の受領拒絶と口頭の提供(肯定)

賃貸借契約の当事者は,対立関係が生じると賃料を受け取らないということがよくあります。口頭の提供で足りる典型例です。

<賃貸借の賃料の受領拒絶と口頭の提供(肯定)>

あ 賃料の受領拒絶

賃貸借契約において
賃貸人が賃料の増額を主張して従来の賃料の受領を拒絶した

い 裁判所の判断

賃貸人が債務不履行責任を免れるには,口頭の提供が必要である
(口頭の提供で足りる)
※大判昭和10年5月16日

なお,対立が熾烈なケースでは,賃貸人が特に強く,受取を拒否する態度になっていることがあります。状況(程度)によっては,口頭の提供すらなくても債務不履行責任を免れるという扱いになることもあります。
詳しくはこちら|債権者の明確な受領拒絶の意思表明による債務不履行責任免除(口頭の提供すら不要)

7 共同の賃貸人間の対立と口頭の提供(否定・概要)

共有の不動産の賃貸では,当事者が増えて問題が複雑化する傾向があります。
詳しくはこちら|解決ガイド|共有の収益不動産の3大トラブル=経費・収入分配・管理方法
要するに,賃貸人が複数人存在するという状況です。賃貸人の間で対立があると,賃借人としては対応に困ることが生じがちです。
複数の賃貸人が賃料の支払方法について別の内容を要求したケースがありました。
結論としては,賃借人は口頭の提供では足りないと判断されました。賃貸人(債権者)が賃料の受領を拒否したとはいえないからです。
現実的には供託をすることによってトラブルに巻き込まれずに安全に賃料を支払うことが適切な対応です。

<共同の賃貸人間の対立と口頭の提供(否定・概要)>

あ 当事者

賃貸人=X1,X2
賃借人=Y

い 賃料の支払方法に関する対立

当初,賃料は全額X1に支払うことが3者で合意されていた
X2がYに対して『以後の賃料の半額をX2名義の口座に振り込んで支払う』という要求を書面で通知した
X1はYに対して従前どおりの賃料全額の支払を求めた
その後,YはX2に対して,『従来どおりX1へ支払いたい』と通知した
X2はYに対して『X1の賃料の代理受領権を解除した』と主張し,X2に賃料の半額を支払うことを改めて督促した

う 裁判所の判断(弁済提供の有無)

賃貸人(債権者)のあらかじめの受領拒絶はない
口頭の提供では足りない
※東京地判昭和57年10月18日
詳しくはこちら|共同の賃貸人(共有者)間の賃料支払方法の変更と口頭の提供の効力

本記事では,口頭の提供の要件の1つである債権者の受領拒絶について説明しました。
実際には,受領拒絶といえるのかという点が問題となりやすいです。
実際に債務の弁済(支払,納品)についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。