【一般的金銭債権の相続(分割承継・相続分の適用・遺産分割の有無)】

1 金銭債権の相続(分割承継・相続分の適用・遺産分割の有無)

相続する財産の中で代表的なもののひとつは金銭債権です。特によく登場するのは預貯金債権です。それ以外にも貸金債権があるケースもあります。
本記事では、このような金銭債権について、相続に関する法的扱いを説明します。

2 金銭債権の相続への準共有の適用(否定)

相続人が複数人である場合、共同相続の原則論からいくと、金銭債権は相続人の準共有となるはずです。しかし、債権は可分であるというルールの方が優先されるので、結果的に、準共有とはなりません。

金銭債権の相続への準共有の適用(否定)

あ 相続の一般原則=遺産共有

相続において遺言がない場合
→原則として遺産は遺産共有になる
※民法898条

い 債権と準共有

ア 準共有の一般原則 債権が複数の相続人で準共有することになる
※民法264条
イ 可分債権の原則 法令に特別の定めのある場合、共有のルールを適用しない
※民法264条ただし書
債権の可分の規定(民法427条)が特別の定めになる
→結局、一般的な金銭債権は準共有とならない

3 相続における金銭債権の可分性(当然分割)

一般的な金銭債権は可分であり、遺産分割をしなくても、各相続人に相続分に応じて帰属します。遺産分割は不要なのです。
しかし、大きな例外があります。それは預貯金債権です。預貯金については、以前はその種類によって扱いが異なりました。しかし、平成28年の最高裁判例で一律に遺産分割の対象となることになりました。従前の判例が変更されたのです。
逆に、預貯金債権以外の金銭債権については、平成28年の判例では触れられていません。従前と同じ解釈(遺産分割は不要)ということになります。

相続における金銭債権の可分性(当然分割)(※1)

あ 債権の可分性の規定

債権は可分である
※民法427条

い 当然分割

(預貯金以外の)金銭債権は共同相続により当然に分割される
遺産分割は不要である
※最高裁昭和29年4月8日
※最高裁昭和30年5月31日
※最高裁平成16年4月20日

う 預貯金債権(平成28年判例変更)

ア 遺産分割必要 預貯金債権は共同相続により分割されない
遺産分割の対象となる
※最高裁平成28年12月19日
イ 平成28年判例の適用範囲 平成28年判例の判例変更は、預貯金債権だけが対象である(それ以外の金銭債権については対象外である)
→預貯金以外の金銭債権については、現在も(当然分割)が適用される
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由

4 金銭債権の相続で適用される相続分(具体的相続分)

前述のように、金銭債権は相続分に応じて分割承継されます。この相続分とは、法定相続分ではなく具体的相続分を使うのが一般的です。つまり、遺言による指定や、寄与分・特別受益を反映させた割合のことです。

金銭債権の相続で適用される相続分(具体的相続分)

あ 標準=法定相続分

修正する事情(い)がない場合
→法定相続分となる

い 修正あり=具体的相続分

次のような事情がある場合
→反映させた具体的相続分が適用される
ア 遺言による相続分の指定イ 寄与分・特別受益による修正 ※東京地裁平成8年2月23日

5 金銭債権を遺産分割対象にする合意

(預貯金以外の)金銭債権は遺産分割の対象ではないというのが原則論です(前述)。
しかし現実的に、他の財産と一緒に分け方を決める、というニーズは大きいです。そこで相続人の全員が合意すれば、遺産分割の対象にするという扱いも認められています。

金銭債権を遺産分割対象にする同意

あ 原則論

金銭債権は遺産分割の対象ではない(前記※1

い 同意による遺産分割の対象にする解釈

相続人全員の合意がある場合
→金銭債権を遺産分割の対象にすることができる
家裁の実務における一般的な扱いとなっている
※東京高裁平成14年2月15日
※福岡高裁平成8年8月20日
※東京家裁昭和47年11月15日

う 同意なしで遺産分割の対象とする解釈(参考)

同意がなくても適切・必要と認められる場合には金銭債権を遺産分割の対象にするという見解もある
※高知家裁須崎支部昭和40年3月31日
※神戸家裁尼崎支部昭和47年12月28日
しかし、家裁の実務における一般的な解釈ではない

え 預貯金に関する平成28年判例変更

預貯金債権について
→一律に遺産分割の対象となる
共同相続人の同意の有無は関係ない
※最高裁平成28年12月19日
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由

6 遺産ではない財産を遺産分割対象とする合意(参考)

ところで、相続人全員の合意により、本来、遺産分割の対象ではない財産を、遺産分割に含める、という扱いは(遺産の中の金銭債権の)ほかにもあります。相続開始後に発生した賃料債権と、遺産の一部を売却したことで得られた売却代金です。このふたつについては最高裁判例の中で認められています。

遺産ではない財産を遺産分割対象とする合意(参考)

あ 相続開始後の賃料債権

遺産の中の賃貸不動産について、相続開始後に発生した賃料債権は、「遺産」ではない
ただし、相続人の合意により、遺産分割の対象とすることができる
詳しくはこちら|遺産の賃貸不動産の賃料債権の扱い(遺産分割/当然分割・遡及効の制限)

い 遺産の一部の売却代金

遺産の一部である財産を、相続人全員が共同して売却した場合、売却代金は「遺産」ではなくなる
ただし、相続人の合意により、遺産分割の対象とすることができる
詳しくはこちら|遺産分割における換価分割(任意売却と競売)

7 預貯金の相続に関する平成28年判例変更(概要)

金銭債権の相続における統一的解釈として最高裁判例があります(前述)。
そして、金銭債権のうち預貯金債権については、平成28年に判例変更が行われました。

預貯金の相続に関する平成28年判例変更(概要)

あ 原審の判断

相続財産の中の預貯金債権
→遺産分割の対象とならない(前記※1

い 最高裁の審理|大法廷回付

平成28年3月23日
最高裁第1小法廷が審理を大法廷に回付した

う 大法廷の決定

預貯金債権を遺産分割の対象として認めた
※最高裁平成28年12月19日

え 判例変更の範囲(射程)

預貯金債権だけが対象である
それ以外の債権は従前の解釈のままである
例;賃料債権は分割承継となる
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由

8 慰謝料請求権の相続(概要)

金銭債権の1つとして慰謝料請求権もあります。
慰謝料請求権は、そもそも『相続財産』になるかどうか、という見解の対立がありました。
現在は『相続財産になる』という判例の解釈が確立しています。
詳しくはこちら|相続財産の範囲|一身専属権・慰謝料請求権・損害賠償×損益相殺・継続的保証

9 遺産の中の賃貸不動産の賃料債権の扱い(概要)

金銭債権の1つとして賃料債権があります。遺産に賃貸不動産(収益物件)がある場合、賃料の法的扱いは複雑です。
原則論では遺産分割で当該不動産を承継した者に賃料が帰属するはずです。
しかし、原則論を修正する解釈がなされ、相続人の全員が、相続分割合に応じて取得する解釈がとられています。つまり、遺産分割の対象とはならないのです。
詳しくはこちら|遺産の賃貸不動産の賃料債権の扱い(遺産分割/当然分割・遡及効の制限)

本記事では、金銭債権の相続について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に預貯金などの金銭債権の相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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