【共有物の賃貸借の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者】

1 共有物の賃貸借の賃料増減額に関する管理・行為の分類と当事者

共有物(共有不動産)を対象とする賃貸借契約に関する各種行為は管理行為や変更行為に分類されます。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借に関する各種行為の管理行為・変更行為の分類(全体)
本記事では、賃貸借契約に関する行為のうち、賃料の増減額(変更)に関わるものについて、管理行為、変更行為の分類と、誰が誰に対して行うか(当事者)について説明します。

2 一般的な賃貸借における賃料変更の合意の分類

共有物の賃貸借において、賃貸人(共有者)と賃借人が賃料を変更することを合意する場合には、共有物の管理行為となります。

一般的な賃貸借における賃料変更の合意の分類

(注・前提としての一般論として)
一般に共有物の賃貸借契約において賃料変更の合意は、共有物の管理行為に該当し、賃貸人である共有者の過半数でこれをすることができるものと解される。
※東京地判平成14年7月16日

3 一般的な賃貸借における賃料増額請求の分類

共同賃貸人が賃料増額請求をすることは、共有物の管理行為とする裁判例があります。この点、保存行為とする学説もあります。

一般的な賃貸借における賃料増額請求の分類

あ 裁判例

ア 正式に判断した裁判例 賃料増額請求権は、その行使によって賃貸借契約の重要な要素である賃料が一方的に変更されるものである単に現状を維持するための保存行為とはいえず、共有物の利用等の管理行為に当たるというべきである
他の共有者には不利益がないようにみえるが、賃借人がいつまで賃借を希望するか等にも大きな影響を与える・・・不動産をどのように利用して収益を上げるかに関わる問題である・・・賃料を一方的に増額することが常に他の共有者に不利益を生じさせないということはできない
賃料増額請求の行使は管理行為である
※東京地裁平成28年5月25日
※東京高裁平成28年10月19日(控訴審も同様)
※東京地判平成7年1月23日(「増減」請求について同趣旨)
イ 仮定部分の判断として示した裁判例 (仮に原告らの請求が賃料増額請求権を行使する趣旨を含むものであるとしても、共同賃貸人のする賃料増額請求権の行使は、共有物の管理行為であるから、共有者の持分の過半数によらなければならないものと解される。)
※東京地判平成14年7月16日

い 反対説

ア 澤野氏見解 (賃料増額請求について)
賃料額は客観的に相当額が決まるものであることから、多数決によらず、共同賃貸人のうち1人からでもすることができると解すべきであろう
※澤野順彦稿/田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p70
イ 山下氏見解 少なくとも、不相当に低い賃料で賃貸している場合にそれを相当賃料に是正する機会は、過半数に満たない共同賃貸人にも認められるべきではなかろうか。
※山下寛ほか『賃料増減請求訴訟をめぐる諸問題(上)』/『判例タイムズ1289号』2009年p38

4 賃料減額請求の相手方

次に、賃借人から賃料の減額請求をする場合、相手方になる賃貸人が複数いることになります。誰に対して賃料減額の請求をするのか、という問題があります。一般的な見解は、賃貸人の全員に対して行う(通知する)というものです。

賃料減額請求の相手方

あ 見解

賃借人から共同賃貸人に対する減額請求は、賃料の不可分債権としての性質から、全員に対してなされる必要がある
※澤野順彦稿/田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p70
※山下寛ほか稿『賃料増減請求訴訟をめぐる諸問題(上)』/『判例タイムズ1289号』2009年4月p38(同趣旨)

い 賃料債権の性質(参考)

共同賃貸人の賃料債権について
過去には不可分債権とする裁判例があった
平成17年判例により可分債権という見解に統一されている
詳しくはこちら|複数の賃貸人(共同賃貸人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債権・保証金・敷金返還債務)

5 サブリースにおけるマスターリースの賃料変更の合意

以上の説明は、一般的な賃貸借を前提とするものでした。次に、サブリース方式におけるマスターリース契約での賃料変更の合意の扱いを説明します。
まず、マスターリース契約も賃貸借契約として、借地借家法の適用を受けることになります。
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
では、マスターリース契約における賃料変更についても前記の分類があてはまるように思えます。しかし、サブリース方式の場合は、賃貸人(共有者)の権利内容は実質的に賃料収受権のみといえます。そこで、賃料変更が賃貸人に与える影響は、一般的な賃貸借と比べるととても大きいのです。そこで、変更(処分)行為という扱いになります。
ただし、サブリース(マスターリース契約)と一口でいっても内容には幅広いバリエーションがあります。個別的事情によって扱いが違うということもあります。

サブリースにおけるマスターリースの賃料変更の合意

あ 裁判例の引用(要旨)

ア 理由部分 ・・・しかしながら、民法602条所定の期間を超える賃貸借契約(長期賃貸借)を締結することは、共有物の管理行為ではなく処分行為であり、共有者全員の同意を要するものとされていること、本件のような大規模ビルを目的とするサブリース契約における賃貸借の合意においては、賃貸人である建物共有者の権利内容は賃料収受権のみであるといっても過言ではないところ、賃料の変更は共有者の権利に対して重大な影響を与えるものと考えられること、本件賃貸借契約においては、・・・賃貸借の中途解約権が契約上否定され、その反面、賃貸人は賃貸借存続期間中一定額の賃料を得ることを期待しうる地位にあること、本件賃貸借契約においては、賃料の変更につき、「賃料は、租税公課の大幅な改定、その他経済情勢に著しい変動があった場合、この契約締結後3年経過するごとに、地権者(賃貸人)及び被告(賃借人)が協議の上改定できる。」と定められており、これは、賃料変更の合意については、賃貸人である共有者全員の同意を要するとの内容を示したものと解すべきこと等を考慮すると・・・
イ 結論部分 本件賃貸借契約において、賃貸人、賃借人間の合意により賃料を変更する場合には、賃貸人である共有者の持分の過半数を有する者と賃借人の間における合意のみでは足りず、賃貸人である共有者全員の同意を得る必要があるものというべきである。
※東京地判平成14年7月16日

い 判断の個別性

本判決は、管理行為か変更行為(処分行為)かの判断に際し、関係人の利害状況を具体的に検討するなど個々の事案ごとに個別具体的な事情を踏まえ、利害状況等を検討している点でも、今後参考になるものといえます。
※山本昌平稿/『共有関係における紛争事例解説集』新日本法規出版2005年p71〜

6 サブリースにおけるマスターリースの賃料増額請求

マスターリース契約の賃料について、賃貸人(共有者)が賃料増額請求をする状況もあります。これについて、前記の賃料変更の合意とは違って管理行為に該当するという見解もあります。これも以上と同様に、個別的事情によって違う扱いとなることも十分にありえます。

サブリースにおけるマスターリースの賃料増額請求

マスターリース契約における賃料増額請求は、固定収入を得たいという賃貸人の利益に重大な影響を与えるとまではいえませんが、マスターリース契約であっても借主が賃料支払を継続することができるかどうかという問題がある以上、・・・管理行為に該当すると考えられます。
※村松聡一郎稿/鈴木一洋ほか編『共有の法律相談』青林書院2019年p62

7 賃料増減額請求に関する共同訴訟形態(概要)

賃貸人が複数いるケースにおける、賃料の増減額請求に関する訴訟は、類似必要的共同訴訟と考えられています。つまり、共同賃貸人の全員が当事者になることが必須というわけではありません。

賃料増減額請求に関する共同訴訟形態(概要)

増減額請求権の行使を前提とする訴訟について
→類似必要的共同訴訟となる見解が一般的である
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣p652
詳しくはこちら|共有物と共同訴訟形態(損害賠償・境界確定・登記請求・賃料増減額)

8 賃借人が複数であるケースにおける賃料増減額請求(参考)

賃貸借契約の賃借人が複数いるケースもあります。賃借権が準共有になっているという状態です。このような賃貸借でも、賃料増減額請求についての問題があります。本記事で説明したのと逆のパターンです。これについては、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共同賃借人(賃借権の準共有)の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者

本記事では、共有物(共有不動産)の賃貸借の賃料の増減額に関する変更行為、管理行為の分類と当事者について説明しました。
実際には、具体的・個別的な事情によって違う法的な分類となることもあります。
実際の共有物の扱いの問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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