1 家裁による相対的扶養義務者の指定の判断基準と具体例
2 相対的扶養義務の判断基準
3 約20年の音信なし→否定
4 面識のない姪→否定
5 実子同様に養育された連れ子→肯定
6 扶養を約した連れ子→肯定
7 自ら扶養義務者の指定を求める申立→肯定方向

1 家裁による相対的扶養義務者の指定の判断基準と具体例

民法が定める扶養義務は,いくつかの種類のものがあります。扶養義務の種類の1つとして,特別の事情がある場合にだけ家庭裁判所が3親等内の親族に扶養義務を負わせるという相対的扶養義務があります。
詳しくはこちら|一般的な扶養義務(全体・具体的義務内容の判断基準)
本記事では,家庭裁判所が相対的扶養義務を認める基準や具体例を説明します。

2 相対的扶養義務の判断基準

文字どおり,相対的扶養義務を認めるのは,特別の事情があった場合だけです。判断の大きな傾向としては,特別の事情を否定する方向性にあります。逆に,これを認めるのは,扶養権利者と扶養義務者(と指定される者)の間に,経済的または道義的な貸し借りがある場合や,両者が同居しているというケースに限られる傾向があります。

<相対的扶養義務の判断基準>

あ 判断の傾向

現代の家族関係は,核家族中心で,親族間の結びつきは疎遠になる傾向が強い
扶養当事者の範囲を縮小して公的扶助に委ねるという考え方が強くなっている
→特別の事情の存否の認定は,できるかぎり厳格になされなければならない

い 肯定される状況

家庭裁判所が相対的扶養義務を認める(特別の事情があると認める)のは,次のいずれかのような事情がある場合に限定される
ア 扶養義務を負担させることが相当とされる程度の経済的対価を得ている
イ 高度の道義的恩恵を得ている
ウ 同居者である
※於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)親族(5)改訂版』有斐閣2004年p771

3 約20年の音信なし→否定

以下,家裁が相対的扶養義務者の指定の判断をした実例(裁判例)をいくつか紹介します。
まず,扶養権利者と扶養義務者(候補者)の間に約20年間音信がなかったケースです。経済的対価も道義的恩恵もなく,また同居もしていないということがいえます。結果的に裁判所は扶養義務者として指定しませんでした。

<約20年の音信なし→否定>

あ 事案

Bは,約20年前に約1年間要扶養者Aの店に勤務したことがあった
AとBには,それ以外に交流はなく,音信すらなかった

い 裁判所の判断

Bに扶養義務を負担させる特別の事情があるとは認めない
※大阪家裁昭和50年12月12日
※仙台高裁昭和38年2月25日(同趣旨)
※東京家裁昭和36年5月6日(同趣旨)

4 面識のない姪→否定

次に,扶養権利者と扶養義務者(候補者)が会ったこともないというケースです。このケースでは,ほかの扶養義務者が音信不通なので,当該候補者を扶養義務者として指定する要請はあったのですが,一切会ったことがないことから,裁判所は扶養義務者として指定しませんでした。

<面識のない姪→否定>

あ 事案

Aは精神障害者であった
Aの法定の扶養義務者が養子Cだけであった
Cが関与して,Aは入院することになった
その後数十年にわたり,CはAと音信不通であった
Aの姪BはAの近くに居住していた
AとBは面識がなかった
Bは,自らが扶養義務者とされることを家裁に求めた

い 裁判所の判断

Bに扶養義務を負担させる特別の事情があるとは認めない
※新潟家裁佐渡支部平成12年3月7日

5 実子同様に養育された連れ子→肯定

次に,扶養義務者の候補者は,扶養権利者の連れ子であったケースです。法律上の親子関係はありませんが,実の親子と同様に長年暮らしていました。そこで裁判所は扶養義務者として指定しました。

<実子同様に養育された連れ子→肯定>

あ 事案

継子(連れ子)Bは,継母Aによって実の子同様に養育されてきた
Aが精神分裂病(統合失調症)で入院することになった
Bは,自らが扶養義務者と指定されることを家裁に求めた

い 裁判所の判断

Bに扶養義務を負担させる特別の事情があると認める
※長崎家裁昭和55年12月15日

6 扶養を約した連れ子→肯定

前述のケースと同じように,扶養義務者の候補者が扶養権利者の連れ子であったケースです。候補者の父(扶養権利者の夫)が亡くなった際に,遺産の大部分を候補者が取得し,代わりに候補者が扶養義務者を扶養することを約束していました。このような事情があったので,裁判所は扶養義務者として指定しました。

<扶養を約した連れ子→肯定>

あ 事案

Cが亡くなった
被相続人Cの実子Bが,遺産の大半を取得するとともに,継母Aを扶養することを約した

い 裁判所の判断

Bに扶養義務を負担させる特別の事情があると認める
※和歌山家裁妙寺支部昭和56年4月6日

7 自ら扶養義務者の指定を求める申立→肯定方向

ところで,相対的扶養義務者として,自身を指定することを家裁に申し立てる実例がよくあります。公的手当を受けるためには扶養義務者になる必要があるというような理由です。自ら義務を負うことを希望しているので,家裁はこれを認める傾向があります。

<自ら扶養義務者の指定を求める申立→肯定方向>

あ 典型的な理由

次のような理由で自らを扶養義務者と指定することを求める実例がある
ア 扶養家族諸手当を受けるためにその証明を得る
イ 精神保健法に基づき保護義務者の選任を求めるため(前提として)

い 判断の実情

自らを扶養義務者と指定することを求める場合,比較的緩やかにこれを認めることもある
※大阪家裁昭和42年7月7日(事実上それまで扶養してきたケース)

う 批判

相対的扶養義務者の指定の規定の立法趣旨を逸脱するものだという指摘もある
※於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)親族(5)改訂版』有斐閣2004年p772

本記事では,相対的扶養義務者の指定の判断基準や具体例を説明しました。
実際には,個別的な事情により判断が異なることもあります。
実際に扶養義務や扶養請求(親族間の生活費の負担)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。