夫婦が離婚しました。
子供を妻が引き取りました。
夫が妻に毎月支払う養育費も定めました。
その後,元妻や夫が再婚,出産などをした場合は,養育費は変更になるのでしょうか。

代表弁護士三平聡史1 元妻の再婚→養育費減額の傾向
2 元妻の再婚+養子縁組→養育費の減額の傾向が強い
3 元妻の再婚+出産→養育費増額の傾向
4 元夫の再婚→養育費減額の傾向
5 元夫の再婚+再婚相手出産→養育費減額の傾向
6 元夫,元妻それぞれが再婚→増額,減額の要因の大小により決まる
7 過去,将来の養育費のトータルでの過剰+不足→トレードオフ
8 合意されていれば再婚の通知義務がある

1 元妻の再婚→養育費減額の傾向

養育費というのは,子供の扶養義務について,父・母で分担したものです。
算定の考え方は,子供の養育に必要な費用を,父・母で,その経済状況に応じて分配する,というものです。
元妻が別の男性と再婚した場合,再婚相手は,子を扶養する義務はありません。
一方で,元妻は再婚相手(=配偶者)との間に扶養関係(権利・義務)が生じます。

例えば再婚相手の収入が大きい場合,結果的に,元妻の経済的余裕(可処分所得)が増える,ということになります。
そうすると,父・母での負担割合も,余裕のできたをより多めにする,ということになります。
結果的に,の負担(=養育費)が下がる,ということになります。
具体的には,養育費の減額請求が可能な状態となる,ということです(民法880条)。

なお再婚だけで養育費を打ち切るという合意があった場合,無効とされることもあります。
別項目;再婚したら養育費を打ち切るという合意は無効とされる可能性が高い

2 元妻の再婚+養子縁組→養育費の減額の傾向が強い

<事例>

・夫婦が離婚しました。
・子供を妻が引き取りました。
・夫が妻に毎月支払う養育費も定めました。
・その後,(元)妻が別の男性Aと再婚しました。
・Aと子供は養子縁組をしました。

(1)扶養義務者が3人に増える

再婚によって元妻は再婚相手(=配偶者)と扶養関係が生じます。
子供と,再婚相手の養子縁組によって,再婚相手は子供を扶養する義務が生じます。
詳しくはこちら|養子縁組の基本(形式的要件・効果・典型的活用例)
結局,子供の扶養義務者が3人いる,という状態になります。

ところで,従前決定した養育費の金額は,扶養義務者が2名を前提としています。
扶養義務者が1名追加となったので,生活費(扶養の費用)の分担方法は変化します。
分担方法を協議によって決め直すのが合理的です。

仮に協議がまとまらない場合,家庭裁判所に養育費変更の申立をすることができます。
家庭裁判所で協議が整えば良いですが,整わない場合,審判として裁判所が金額を決定することになります。
この場合の算定方法に明確な基準・決まりはないのが現状です。
敢えて,公平に考えると,次のようになるはずです。

<養育費算定方法;原則的理論>

『母(元妻)と再婚相手の2人の親』を1グループ(母グループ)として,収入を合計する
『父の収入 と 母グループの収入』から,一般的な算定式を用いて分担額を算定する

しかし,実際には親族関係からの優先順序が重視されます。
この算定方法をそのまま適用するわけではありません。

(2)扶養義務は養親が優先となる

以上は,扶養義務者の負担が経済状態に応じるという前提です。
しかし,裁判例では,優先順序として,養親が1次的,とされています(後掲裁判例5,判例6,判例7)。

新たな養親は,扶養義務を積極的に負担しています。
実際に,通常は同居しているのが通例です。
そこで,最優先とされるのです。

もちろん,優先である養親の扶養が不十分であれば,実親の扶養義務の割合が,結果的に大きくなることになります。

3 元妻の再婚+出産→養育費増額の傾向

<事例>

・夫婦が離婚しました。
・子供を妻が引き取りました。
・夫が妻に毎月支払う養育費も定めました。
・その後,(元)妻が別の男性Aと再婚しました。
・元妻とAとの間に子供ができました。

元妻が,新たに子供を持つに至った場合は,扶養義務も新たに1人分生じます。
そこで,元妻(=母)は,経済的負担が増えた状態となります。
前提として,子供の養育の費用は,父・母のそれぞれの経済状態に応じて分配を決めることになっています。
経済的負担が増えた方の親は,養育費用の負担割合(負担額)を下げる,ということになります。
つまり,の負担割合が下がり,の負担割合が上がる,ということになります。
具体的アクションとしては,からに対する養育費増額請求が可能,ということになります(民法880条)。

4 元夫の再婚→養育費減額の傾向

<事例>

夫婦が離婚しました。
子供を妻が引き取りました。
夫が妻に毎月支払う養育費も定めました。
その後,(元)夫が別の女性Bと再婚しました。
(元)夫としては,社会保険の負担が大きくなり,手取りが減ったので生活が苦しくなりました。

養育費は合意や審判などで金額が定められた後に,変更が認められることがあります。
当然ですが,主に経済的な事情の変更が生じたことが前提とされています(民法880条)。
再婚によって一方の経済的負担が増えたということも,事情の変更,となります。

逆に,金額を定めた時点で生じていた事情,や予測された事情,については,変更の理由とはなりません。
いわゆる織り込み済みということになるのです。

裁判例において,このタイミングによって変更が認められなかったという事例があります(裁判例1)。
概要を示しておきます。

<元夫の再婚;養育費変更が認められなかった事例;後継裁判例1>

あ 事情

先 元夫が再婚していた+再婚相手の子供(連れ子)と養子縁組をしていた
後 養育費を定める調停成立
↓養育費変更の調停,審判

い 裁判所の判断

『再婚,養子縁組により社会保険料が増加したこと等の理由で収入が減少すること は,その当時予測可能な事情』
※事業経費としてトラックのレンタル料発生→利益(収入)減少も主張されたが,同様に予測可能と判断された

養育費を減額すべき事情の変更とは言えない

5 元夫の再婚+再婚相手出産→養育費減額の傾向

<事例>

夫婦が離婚しました。
子供を妻が引き取りました。
夫が妻に毎月支払う養育費も定めました。
その後,(元)夫が別の女性Aと再婚しました。
元夫とAとの間に子供が生まれました。

元夫に,新たに子供ができた場合,扶養義務が増えた状態となります。
経済的な負担が増えたことになります。
そこで(従前の)子供の養育費用の負担割合を下げるべき,ということになります(民法880条)。

具体的アクションとしては,元夫から元妻への養育費減額請求が可能な状態となります。
審判例として,再婚後に誕生した子供の扶養義務を考慮して,養育費減額を認めたものがあります(後掲裁判例2)。
ただし,この事例では,子供の誕生以外にも,元夫の収入の変化,再婚相手の収入なども総合的に考慮(計算)しています。

6 元夫,元妻それぞれが再婚→増額,減額の要因の大小により決まる

<事例>

夫婦が離婚しました。
子供を妻が引き取りました。
夫が妻に毎月支払う養育費も定めました。
その後,(元)夫,妻それぞれが別の異性と再婚しました。

離婚後に元夫と妻の双方が別の異性と再婚した場合,当然,それぞれの経済的状況は変わります。
新たな配偶者との間での相互の扶養義務が生じます。
子供も,再婚相手と養子縁組した場合は,法的に扶養義務の対象となります。

結果的に,元夫・元妻での経済的状況のバランスがある程度変わった,という場合は,適正な養育費の金額も変わってきます。
このような事後的な事情の変更があった場合,養育費の変更が認められます(民法880条)。
元夫,元妻双方の最新の経済的状況を考慮し,養育費の変更を認めた裁判例がありますので示しておきます。

<元夫・元妻それぞれの再婚;養育費変更が認められた事例;後掲裁判例3>

あ 事情

養育費の合意;離婚後3年間は毎月20万円,以後3女が23歳になるまで毎月30万円
↓その
元夫,元妻いずれも再婚した
3人の子供は,元妻の再婚相手と養子縁組した
↓養育費変更の調停・審判

い 裁判所の判断

合意当時予想し,あるいは前提となし得なかった事情がある
↓合意事項を修正
《修正後の内容》
月額21万円(1人あたり7万円)に減額
支払い終期を成年到達時と短縮
臨時の出費は養父が負担する

7 過去,将来の養育費のトータルでの過剰+不足→トレードオフ

一般的に,養育費を決めた後に,元夫,元妻の経済的バランスが変化した場合は,養育費の変更が認められます(民法880条)。
ただし,実際に養育費変更を認めるかどうか,については現在の経済的バランスだけで判断されるわけではありません。
過去の養育費支払履歴が参照されることもあります。
具体的には,本来減額されるべき事情があったにもかかわらず,減額しない金額を払っていた,という事情が考慮された裁判例があります。
その後の増額すべき事情が生じた時に,トータルで考えて,変更を認めない,という結論に至っています。
この裁判例を紹介します。

<養育費の過剰不足→トータルで変更を認めなかった事例;裁判例4>

あ 事情

養育費の合意
 終期は18歳

元妻の再婚相手と子供とが養子縁組した
元夫(支払義務者)が再婚した→子供が誕生した

これらは減額事由
しかし,変更なく,従前の金額どおりでの支払いが継続した

子供が大学に進学することとなった←想定外
↓養育費変更調停,審判

い 裁判所の判断

養育費支払の終期を18歳から22歳に延長するだけの事情の変更とは認めない

8 合意されていれば再婚の通知義務がある

元妻が再婚した場合,再婚相手の収入が大きいと,元夫から養育費の減額請求を受ける状態となります。
不利な状態になりそうなので,黙っていたいと考える方も多いです。
この点,特に明確なルール(条文)などはありません。
そのことから,通知義務はないということになります。

ただし,離婚時に,離婚協議書などにおいて再婚したら伝えるという約束が特別にされていれば,当然ですが,通知義務はあります。
別項目;協議離婚の際は『離婚届』以外の条件を『離婚協議書』に調印しておくと良い

条文

[民法]
(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
第八百八十条  扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。

判例・参考情報

(判例1)
[平成19年11月 9日 東京高裁 平19(ラ)1199号 養育費減額審判に対する抗告事件]
第2 当裁判所の判断
 1 当裁判所は,原審判と異なり,相手方の養育費減額の申立ては理由がないから却下すべきであると判断する。その理由は以下のとおりである。
 2 記録によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 抗告人と相手方は,平成15年×月×日,協議離婚をするに際し,相手方が抗告人に対し,養育費として未成年者1人につき月額3万円を支払う旨合意し,相手方は抗告人に対し,離婚から平成16年5月まではこの合意のとおり養育費を支払ったが,その後,養育費の減額を主張し,平成16年6月からは未成年者1人につき月額2万円を支払うようになった。
  (2) この間,相手方は,平成17年×月×日,Fと再婚し,平成18年×月×日,Fの長女であるG(平成7年×月×日生)と養子縁組をした。
  (3) 抗告人は,平成18年×月×日,相手方に対し,養育費として未成年者1人につき月額3万円を支払うことを求めて別件調停を申し立てた。相手方は,未成年者1人につき月額2万円を支払うことを主張したが,平成18年6月×日,ア 相手方は未成年者1人につき月額2万2000円を平成18年6月から未成年者らがそれぞれ成年に達する月まで毎月末日限り支払うこと,イ 相手方が未成年者ら3人の養育費として,離婚後平成16年5月まで月額9万円,平成16年6月から平成18年5月まで月額6万円を支払ったことを確認すること,ウ 抗告人が相手方に対し,相手方の実家を介して未成年者らに連絡を取ることを認めること,以上を内容とする調停が成立した。
 この調停の際,当事者双方から各自の平成17年分の所得税の確定申告書が提出され,これらの収入を養育費算定の基礎収入とした上で話合いが行われた。相手方は,調停成立時において,当時仕事に使用していた自己所有のトラックを買い換えるか,又は会社からトラックをレンタルで借りるかしなければならないという事情を認識していた。
  (4) 相手方は,平成18年9月から仕事に使用するトラックをレンタルで借りるようになり,レンタル料として月額10万5000円を支払うようになった。
  (5) 相手方は,平成18年8月分の養育費の支払を怠ったため,抗告人は履行勧告の申出をし,相手方は,平成18年9月×日に8月分の養育費を支払った。相手方は平成18年9月分の養育費について別件調停における合意額の半額しか支払わなかったため,抗告人は,再び履行勧告の申出をしたが,相手方が上記のレンタル料の支払等を理由にこれに応じなかったため,抗告人は,相手方の財産に対して強制執行をした。
  (6) 相手方は,平成18年12月×日,養育費減額の調停(以下「本件調停」という。)を申し立て,減額の理由として,借金の返済が多くなったこと,税金も未払になっていること,トラックのレンタル料を支払うようになったことを挙げた。
  (7) 別件調停において相手方が提出した平成17年分の所得税の確定申告書及び所得税青色申告決算書によれば,相手方の収入は671万9243円であり,経費242万9361円及び青色申告控除10万円を差し引いた所得金額は418万9882円であった。この金額から社会保険料控除6万3200円,生命保険料控除5万円,損害保険料控除3000円,配偶者控除38万円,扶養控除38万円,基礎控除38万円を差し引いた結果,課税される所得金額は293万3000円であった。
 本件調停において相手方が提出した平成18年分の所得税の確定申告書及び所得税青色申告決算書によれば,相手方の収入は680万4411円で,ここから経費376万6657円及び青色申告控除10万円を差し引いた所得金額は293万7754円であった。この金額から社会保険料控除82万1500円,生命保険料控除5万円,損害保険料控除3000円,配偶者控除38万円,扶養控除38万円,基礎控除38万円を差し引いた結果,課税される所得金額は92万3000円であった。
 3(1) 上記2の事実によれば,相手方の平成18年の課税される所得金額は平成17年の課税される所得金額と比較して,収入が約10万円増加し,経費が約134万円,社会保険料が約76万円増加したことから,合計で約200万円減少したことが認められ,それに伴って養育費の算定の基礎となる相手方の総収入も減少したことが認められる。そして,この総収入の減少の原因となった経費の増加は月額10万5000円のトラックのレンタル料の支払によるものであり,社会保険料の増加は婚姻と養子縁組によるものであると認められる。
  (2) しかし,上記のとおり,別件調停の成立時において,相手方は既に再婚し,再婚相手の長女と養子縁組をしており,当時仕事に使用していた自己所有のトラックを買い換えるか又は会社からトラックをレンタルで借りるかしなければならないという事情を認識していたのであるから,トラックを利用した事業者というべき相手方としては,レンタル料がいくらであるかは重大な関心事であり,レンタル料の額,ひいては(1)の総収入の減少についても相手方は具体的に認識していたか,少なくとも十分予測可能であったというべきである。なお,原審判は,その理由として,収入減少の程度が大きく,予想できた減収の範囲を超えていることを掲げているが,関係記録によっても,相手方がどの程度の減収を予想していたかなどを含め上記事情を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
 また,相手方の本件調停の申立書によれば,相手方が別件調停で定められた養育費の支払をしばしば怠っている理由は,トラックのレンタル料の支払のみではなく,それ以外の借金や税金の滞納にもよるのであって,これらの点について,相手方において別件調停の成立時に予測不能であったと認めるに足りる証拠はない。しかも,相手方は,トラックのレンタル料の支払が必要になった平成18年9月に先立つ平成18年8月の段階で養育費の支払を遅滞し始めているのであって,相手方が養育費の支払をしない理由は,必ずしもトラックのレンタル料の支払のみであるとはいえない。
  (3) 調停は当事者双方の話合いの結果調停委員会の関与の下で成立し,調停調書の記載は確定判決と同一の効力を有するのであるから,その内容は最大限尊重されなければならず,調停の当時,当事者に予測不能であったことが後に生じた場合に限り,これを事情の変更と評価して調停の内容を変更することが認められるものであるところ,上記の事情に照らすと,相手方の収入の減少は相手方に予測可能であって,これをもって養育費を減額すべき事情の変更ということはできない。
 したがって,その余について判断するまでもなく,相手方の養育費の減額の申立ては理由がない。

(判例2)
[山口家庭裁判所平成3年(家)第421号、平成3年(家)第422号、平成3年(家)第423号平成4年12月16日]
(4)申立人は昭和62年6月3日現在の妻ふみこと再婚し,同女との間に長男(昭和63年3月11日生),二男(平成2年8月4日生)の二子があるが,妻ふみこは家計を助けるため看護婦として稼働し,月額金168,330円の可処分所得がある。
(略)
2 結論
 以上認定の事実によれば,本件申立時においては調停の成立した昭和63年当時とは申立人の収入が著しく変化したばかりでなく,新たな家庭が出来,そのための生活費を確保せねばならない等,生活状況が大きく変化したことは明らかであるから,そのような事情変更を考慮し,事件本人らの養育費の額を相当額減ずることは己むを得ないというべきである。

(判例3)
[平成 2年 3月 6日 東京家裁 平元(家)3673号 子の監護に関する処分(養育費減額)申立事件]
 2 当裁判所の判断
  (1) 本件調査・審理の結果によれば、以下の各事実を認めることができる。
   ア 申立人と相手方は、昭和47年1月4日婚姻し、両名間に、長女H(昭和49年11月17日生)、二女K(同54年3月17日生)及び三女N(同57年5月30日生)(以下、3児全員について「未成年者ら」と称す。)が出生したが、双方間に不和を来したため、同61年9月3日、未成年者らの親権者を相手方と定めて協議離婚した。
   イ 申立人と相手方は、協議離婚に先立つ昭和61年7月29日、未成年者らの監護・養育に関し、本件公正証書において、前記申立の要旨中に掲記した第一条、第二条・一及び第二条・二のとおり合意した(以下、第二条・一及び第二条・二の両事項を指して「本件合意事項」という)。
   ウ その後、申立人は、昭和61年11月11日Oと、相手方も同63年2月5日Aとそれぞれ再婚し、又、Aにおいては、同年3月14日未成年者らとそれぞれ養子縁組をした。
   エ 申立人は、○○航空(株)のパイロットとして勤務しているが、相手方は、Aが経営する麻雀荘を手伝っているほか特に仕事にはついていない。
  (2) ところで、本件は、前記(1)イの如く、当事者双方が協議離婚するに際し、本件公正証書でもって合意した本件合意事項につき、同離婚後2年経過した時点である昭和63年9月1日に、当該合意事項に基づく養育費等の支払ないし負担義務を負う申立人よりなされたこれらの免除ないし減額申立であるが、本来、債務名義としての効力を有する書面でもってなされた約定については軽々にその変更がなされるべきでないことはもとよりのことである。しかし、当該合意がなされた当時予測ないし前提とされ得なかった事情の変更が生じた場合にこれを変更し得ることも、事情変更の原則ないし民法880条に基づき肯定されるべきである。
 これを本件でみるに、前記(1)ウで認定したような申立人及び相手方双方の再婚、未成年者らとAとの各養子縁組等の事実は、本件合意事項が交わされた当時、現実問題として当事者双方共予想しあるいは前提とし得なかったと解されるのである。しかして、このような事情に伴い、申立人及び相手方双方の側の収支を含む生活状況は、本件合意事項を交わした当時と比較して相当変化しているものと考えられるので、本件公正証書で成立した本件合意事項に基づく養育費の支払ないし負担義務を現在もそのまま申立人に負わせることは、これが今後も相当長期間にわたる継続的給付を内容とするものであることにも照らした場合、客観的に相当性を失した状況になっていることは否定し得ないものと解される。したがって、この点において事情の変更を来したものと考え、当該変更の程度に応じて、以下、本件合意事項の修正を図ることとする。
 なお、申立人の未成年者らに対する養育費の支払はいわゆる生活保持義務に基づくものであることに照らすと、これを全額免除することは当を得たものではなく、この点に関わる申立人の申立は容れ難いところである(但し、本件合意事項のうち、前記第二条・二については後述するとおりである。)。
  (3) 本件においては、前記の如き事情の変更に即し、相当と認められる養育費減額の範囲如何を検討するわけであるから、当事者双方の現在の収支及び生活状況を対照の上、本件事案に即し合理的と思料される生活保護基準方式に則り算出された額に基づき判断することとする。
   ア 本件記録中の当庁家庭裁判所調査官○○作成の調査報告書2通、申立人及び相手方各審問の結果並びにその余の資料によると、申立人及び相手方それぞれの側の収支を含む生活状況は、以下のとおりである。
 (ア) 申立人は、O(無職)と2人で肩書住所地に居住しているところ、前記(1)エの如く、○○航空(株)にパイロットとして勤務し、平成元年中、結与として1976万2849円を得ており、これから源泉徴収税額454万4099円及び社会保険料等65万4963円を控除すると1456万3787円となり、同金額を12で除した121万3648円が平均手取り月収である。
 なお、申立人は、本件合意事項に基づく養育費の支払を同年5月以降遅滞させていたため、同年11月17日、相手方から、同遅滞分を含め未成年者らがそれぞれ満23歳に達する月までの養育費合計額等4460万4563円を請求債権として給料債権に対する差押えを受けた。これにより、申立人は、従前負担していた、住宅ローンその他の借受金の返済が不可能となったため、平成元年12月25日銀行から合計4500万円の融資を受け、同返済金の一部等に充てざるを得ない状況となった。しかして、上記4500万円に関わる返済額は月平均31万3333円、その他勤務先ないし友人に対するそれは合わせて13万5976円の合計44万9309円となるので(これらの返済額は、前者については平成3年以降、後者(友人の分も含めてよいと思われる)ついては同2年6月以降それぞれ見込まれているものであるが、未成年者らに対する各養育費の支払はこれからまだ相当長期にわたって行われなければならないので、本件減額の検討に当たっては、予め現時点でこれらを考慮に入れておくのを相当と解する。)、これを上記平均手取り月収121万3648円から控除すべきであり、さらにこのほか、マンション管理費月額1万1000円及び固定資産税等同6000円の合計1万7000円をも控除し、職業費として15パーセントを考慮した56万5292円が、本件養育費減額の範囲如何を検討する場合の申立人側の基礎収入と認められる。
 (イ) 相手方は、A及び未成年者らと肩書住所地に居住しているところ、前記(1)エの如く、Aの経営する麻雀荘の手伝をしているだけで職にはついていないので固有の収入はなく、生活はもっぱらAの収入によっている。Aは、麻雀荘の経営により、平成元年12月当時月平均手取り約50万4000円を得ているところ、これから、住居費15万2000円、自動車関係費1万7000円、生命保険等掛金8万1000円の合計25万円を控除した25万4000円が、本件養育費減額の範囲如何を検討する場合の相手方側の基礎収入となる(Aについては、麻雀荘自営業者という立場に照らし、職業費は特に考慮しない。)。
 (ウ) 上記(ア)及び(イ)にしたがい、前掲生活保護基準方式に則り算定すると、申立人が未成年者1人につき負担すべき1か月当たりの養育費の額は、別紙算定式のとおり7万円となる。
 なお、前示のとおり、本件は昭和63年9月に申立られたものであるところ、本件合意事項中第二条・一によれば、昭和61年8月より同64年(平成元年)8月までの間申立人が相手方に対して支払を負担すべき養育費の額は、未成年者ら3子分として1か月当たり20万円であるが、同金額は上記算定に基づく1か月当たりの養育費合計額21万円の範囲に含まれるので、本件減額は、同第二条・一により1か月当たりのこれの合計額が30万円となる平成元年9月をもってその始期とし、その支払いの終期は、後記イで指摘すると同様未成年者らがAと養子縁組をしていることに照らし、各自が各々成年に達する月までとするのがそれぞれ相当である。
   イ 既に認定したように、未成年者らはいずれもAと養子縁組をしているので、未成年者らの入学、結婚、病気等の場合に必要とされる臨時出費の負担は、第一次的にはやはり、相手方とAにおいて考慮すべきが筋合いと解される。もとより、未成年者らの父である申立人もかかる費用の負担を全く免れるわけにはゆかない面があると解されるが、これらの費用が全て生活保持義務の範囲に含まれるとは解し難いことも考え合わせると、現時点においては、本件公正証書中の本件合意事項第二条・二に基づく申立人の義務は、これを免除しておくのが相当と思料するものである。
 3 以上の次第であるので、平成元年9月以降、申立人が相手方に対して支払を負担すべき未成年者らの養育費を、未成年者1人当たり毎月7万円あてに減額したうえ、その支払いの終期を各自がそれぞれ成年に達する月までとし、かつ、申立人が負うとされてきた未成年者らの入学、結婚、病気等による臨時出費の負担義務については、これを免除するのを相当と認めるものである。
 よって、平成元年9月以降、本件公正証書中の本件合意事項をその旨変更することとし、主文のとおり審判する。

(判例4)
[平成19年11月 9日 大阪高裁 平19(ラ)656号 子の監護に関する処分(養育費請求)審判に対する抗告事件]
第1 事案の概要等
 1 事案の概要
  (1) 抗告人(元夫)と相手方(元妻)は,昭和62年×月×日婚姻し,平成元年×月×日未成年者をもうけたが,平成7年×月×日,未成年者の親権者を相手方と定めて協議離婚し,以後,相手方が未成年者を監護養育している。
 この間,抗告人は,離婚時における未成年者が18歳に達するまで養育費を支払うとの合意に従い,相手方に対し,月額5万円の養育費を支払ってきた。
  (2) 相手方は,平成18年12月×日,原審に対し,未成年者が大学進学を希望しているがその費用を捻出できないなどとして,未成年者が22歳に達する月まで引き続き月額5万円の養育費の支払を求める調停の申立てをした(平成19年×月×日調停不成立により,原審判手続に移行。)。
  (3) 原審は,平成19年6月22日,平成19年3月から未成年者が成年に達する月までの間の抗告人の分担すべき未成年者の養育費の額を月額1万5000円(月末払い)と定め,抗告人に対し,審判時までの未払分4万5000円(3か月分)の即時支払及び平成19年6月から未成年者が成年に達する月まで,月額1万5000円の支払いを命じる旨の原審判をした。
  (4) 本件は,これに対する抗告人からの不服申立て事件である。
 2 抗告の趣旨及び理由
  (1) 抗告人は,原審判を取り消し,本件を大阪家庭裁判所に差し戻す旨の裁判を求めた。
  (2) 抗告の理由は,別紙のとおりである。
第2 当裁判所の判断
 1 事実関係
  (1) 記録によれば,原審判1頁24行目から3頁12行目までの事実が認められる。
  (2) 記録(当審分を含む。)によれば,更に,次の事実も認められる。
   ア 抗告人は,平成9年×月×日,相手方がDと再婚したことに伴い,未成年者も同人と養子縁組をしたことを知り,その後も,「抗告人は,相手方に対し,未成年者が18歳に達する月まで,その養育費として月額5万円を支払う。」旨の相手方との協議離婚時の合意(以下「本件合意」という。)に従い,平成19年2月まで毎月5万円を支払い続けたが(このうち,未成年者の養子縁組から養父の死亡時までの間の支払分は相当額に達している。),上記養子縁組の事実をもって本件合意により定められた抗告人の養育費分担義務を変更すべき事情として問題を提起することをしなかった。
   イ また,抗告人は,平成9年×月×日に再婚し,妻との間に,同年×月×日長男を,平成12年×月×日長女を,それぞれもうけたが,これらの事情についても,本件合意に定められた養育費分担額の減額事情として問題を提起することはなかった。
 2 上記の事実関係に基づき,相手方の原申立ての当否を検討する。
  (1) 当事者の合意によって養育費の分担額や分担期間を定めた場合も,その後,事情変更が生じて,従来の養育費の定めが実情に適さなくなった場合には,これを変更することができると解される。
 したがって,本件において,相手方が,本件合意による養育費分担の終期(未成年者が18歳に達する月,すなわち,平成19年2月まで)以降も,更に抗告人に対し,養育費の分担を求めるためには,上記合意による終期の定めを維持することが,その実情に照らして相当でないと認め得るような事情変更があることを要する。
  (2) ところで,上記認定事実によれば,本件合意後,未成年者と相手方の再婚相手との養子縁組,抗告人の再婚及び子の誕生という本件合意に定められた養育費の分担義務を減免させるような事情変更が生じたが,これらについては,当事者間において一切考慮されず,その結果,抗告人は,相手方に対し,本件合意どおりの養育費分担額を支払い続けたものである。
 このような本件合意後の経緯に照らせば,未成年者の大学入学やその準備に費用を要することをもって,本件合意による養育費分担義務の終期の定めの延長を認めるべき事情変更があったとみることは相当でない。
  (3) そうすると,抗告人は,本件合意に従った養育費分担義務をすべて履行しており,平成19年3月以降も,抗告人に未成年者の養育費分担義務を認めることはできないから,相手方の本件申立てを却下するのが相当である。
 以上を指摘するものと解される抗告人の主張は理由があるものというべきである。
 3 以上の次第で,本件抗告は理由があるから,家事審判規則19条2項に従い,これと異なる原審判を取り消し,上記説示に沿った審判に代わる裁判をすることとして,主文のとおり決定する。

(判例5)
[仙台高等裁判所昭和36年(ラ)第100号扶養審判に対する即時抗告事件昭和37年6月15日]
 元来養子と実親との血族関係は養子縁組によつて何らの影響を被むることなく従前のまゝ継続し、従つて養子に対する実親の扶養義務も縁組にかかわりなく依然として存続するものではあるが、未成熟子の養子が実親との共同生活を離れ、養子との新たな共同生活に入るような普通一般の縁組の場合には、その当事者の意思からいつても、養子制度の本質からいつても、未成熟養子に対する扶養義務は先ず第一次的には養親に存し、実親の扶養義務は次順位にあるものと考えてよいであろう。
 しかし本件においては前記のように、ウメは養母であると同時に実母であつて、養子縁組といつてもその実態はもともとウメの非嫡出子にすぎなかつた相手方を、ウメの嫡出子とするための意義しかもたず、いわば名を養子制度に借りたという程度のものでしかない。従つて相手方に対する抗告人とウメとの扶養義務にへき右普通一般の養子縁組の場合と同様その間に順位を考えることは不当であり、抗告人にとつては嫡出子であり、抗告人にとつては非嫡出子ではあるが、いずれも実親であることから見て、その扶養義務に先後はなく同順位であり、各自いわゆる生活保持義務としてその資力に応じて相手方が自ら自活の道を立てることができるまでその扶養料を分担すべきものと解するのが相当である。

(判例6)
[札幌家庭裁判所小樽支部昭和46年(家)第277号調停条項変更申立(扶養に関する処分)事件昭和46年11月11日]
 そこで養親と実親との未成熟子に対する扶養義務の順位について考えるに、一般に民法上扶養義務の順位については明文の規定が存しないが、現在の養子制度は未成年子の保護養育を主たる目的とし、縁組は子の福祉と利益のためになされなければならないものであり、未成年子との養子縁組には子の養育を、扶養をも含めて全面的に引受けるという合意が含まれているものと解される。換言すれば養子縁組には親子の愛情による結合と親の愛情をもつて監護養育の実質が伴わなければならないものであり、縁組には養親がかような結合と実質を伴つた親としての役割を果すという合意が含まれているものと解される。従つて実親との関係は扶養をも含めて一定の範囲で制限されるものと考えることができ、養親が資力がない等の理由によつて充分に扶養の義務を履行できない場合を除いては、実親の扶養義務は順位において養親のそれに後れるものと解すべきである。即ち、養子の実親は養親と同程度ではあるが、次順位で扶養義務を負うものと解すべきである。

(判例7)
[長崎家庭裁判所昭和51年(家)第87号養育料増額申立事件昭和51年9月30日]
申立人両名は自己の直系卑属(孫)であり、未成熟子である事件本人を養子とし、一体的共同生活を営んでいるものであるから、このような場合、事件本人の実母も申立人らと生活を共にしながら、事実上事件本人に対する監護権を代行しているとしても、通常一般の縁組と同様、未成熟子である事件本人の福祉と利益のために、親の愛情をもつてその養育を、扶養をも含めて全面的に引受けるという意思のもとに養子縁組をしたと認めるのが相当であつて、このような当事者の意思からいつても、養子制度の本質からいつても、事件本人に対する扶養義務は先ず第一次的に養親である申立人両名に存し、養親が親としての本来の役割を果しているかぎり、実親の扶養義務は後退し、養親が資力がない等の理由によつて充分に扶養義務を履行できないときに限つて、実親である相手方は次順位で扶養義務(生活保持の義務)を負うものと解すべきである。
 また、家庭裁判所の許可を要せずして養子縁組をすることができるような場合に、もし養親たるべき者の養子縁組の意思が、未成熟子の親権者となつていない実親からの扶養料を目当てにし、或いは実親の資力如何によつて左右されることがあるとすれば、それは養子縁組の本質に反するものであるのみならず、親権者でない実親にとつても、資力が充分あつて家庭的、人格的諸事情にも欠けるところがなく、しかも子を引取る意思を有しているのにかかわらず、養子縁組につきその意思を何ら問われることもないままに縁組が結ばれて、養親と同順位で生活保持の義務を負うに至ることは不合理であつて、この点からも、実親の扶養義務は第二次的なものとするのが妥当といわなければならない。