【母の再婚相手と子の養子縁組による養育費減額(肯定裁判例)】

1 母の再婚と養子縁組による養育費減額
2 離婚の成立と養育に関する合意
3 父・母の再婚と経済的状況
4 養育費減額請求と事情の変更に関する裁判所の判断
5 変更後の新たな養育費の算定
6 臨時出費の負担義務の免除

1 母の再婚と養子縁組による養育費減額

離婚後の事情によっては,いったん決まった養育費の変更が認められることがあります。
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求が認められる『事情の変更』の判断基準
変更が認められる事情の典型例の1つは父か母が再婚して,再婚相手と子が養子縁組をするというケースです。
詳しくはこちら|離婚後に父か母が再婚すると養育費の変更が認められることがある
本記事では,このような典型的な事情を理由に,養育費の減額が認められた裁判例を紹介します。

2 離婚の成立と養育に関する合意

まずは,離婚が成立した時点で,公正証書で,その後の子の養育に関する金銭の負担が明確に合意されました。

<離婚の成立と養育に関する合意>

あ 協議離婚の成立

夫Xと妻Yは協議離婚をした
親権者・監護権者を妻Yとした

い 離婚時の清算の合意

3人の子の養育に関して『う・え』の内容を公正証書で合意した

う 養育費

月額10万円×3人=30万円
それぞれの子が23歳に達するまで

え 臨時出費の負担義務

子の入学,結婚,病気その他の事故などにより臨時出費があるときは
原則としてXの負担とする

3 父・母の再婚と経済的状況

離婚の後で,父と母はそれぞれが再婚します。
当然,経済的な状況は違ってきます。

<父・母の再婚と経済的状況>

あ 父・母の再婚

元夫XはDと再婚した
元妻YはEと再婚した
3人の子とEは養子縁組をした

い 父の収入状況

Xはパイロットとして航空会社に勤務している

う 母の収入状況

Yは,Eが経営する麻雀荘の手伝いをしている

4 養育費減額請求と事情の変更に関する裁判所の判断

父は,既に公正証書で取り決めた養育に関する負担を免除するか,減額することを求めて審判を申し立てました。
裁判所はまず,事情の変更を認めて,養育費の内容を変更すべきであると判断しました。

<養育費減額請求と事情の変更に関する裁判所の判断>

あ 養育費免除or減額の審判申立

Xは養育費の支払の免除or減額を求める審判を家庭裁判所に申し立てた

い 父・母の再婚の想定可能性

『ア・イ』などの事実は,養育費の合意時点において
X・Yともに予想するor前提とすることはできなかった
ア X・Yそれぞれの再婚イ 3人の子とEとの養子縁組

う 生活状況の変化の程度

X・Y両方の側の収支を含む生活状況について
『い』の事情により,養育費の合意時点と比較して相当変化している
現在は養育費や臨時出費の負担義務は,相当性を失している

え 変更を認める結論

『事情の変更』があった
→事情変更の原則or民法880条に基づき変更する
→養育費の変更を認める
※東京家裁平成2年3月6日

5 変更後の新たな養育費の算定

裁判所は続いて,変更後の新たな養育費の算定をします。
母については,新たな家族(世帯)全体として捉え,再婚相手の収入を用いました。
養子縁組をしたからこそ,このように母と再婚相手を一体とすることが可能となったのです。
再婚したけど養子縁組をしていない,というケースには,このような算定方法が当然にあてはまる,というわけではありません。

<変更後の新たな養育費の算定>

あ 養育費の算定方式

生活保持基準方式により養育費を算定する

い 母の基礎収入

母Yの固有の収入はない
もっぱら再婚相手Eの収入によっている
→Eの収入からYの基礎収入を算定した

う 具体的な養育費月額

1人あたり月額7万円に変更した

え 終期について

3人の子とEが養子縁組をしている
→支払の終期を各自が成年に達する月までとした
※東京家裁平成2年3月6日

6 臨時出費の負担義務の免除

離婚時の当初の合意の内容として,月額の養育費とは別に,臨時の出費について父が負担するというものもありました(前記)。
これについては,まるごと免除することになりました。

<臨時出費の負担義務の免除>

あ 養子縁組の考慮

3人の子はEと養子縁組をしている
養育に関する負担はXよりもEが優先となる

い 負担義務の免除

臨時出費の負担義務について
→Xの負担義務を免除する(変更する)
※東京家裁平成2年3月6日

本記事では,養育費の変更(減額)が認められた事例を紹介しました。
養育費変更などの家事審判では,家庭裁判所の裁量がとても広く,個別的事情や主張・立証によって結論が大きく異なるということがよくあります。
実際の問題に直面している方は,本記事だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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