1 遺留分減殺請求の効果発生時点と基本的内容(概要)
2 『請求された者』の遺留分を侵害できない
3 遺留分減殺請求による減殺の順序
4 遺留分減殺の順序の強行規定性
5 遺留分減殺請求で解消される順序|同順位→按分して負担する
6 遺留分減殺請求で解消される順序|同順位の財産内では遺言で指定できる
7 一部減殺の効果=物権共有
8 実際には算定内容で見解の相違→紛争ということも多い

本記事では『遺留分減殺請求を行使した効果』について説明します。
『遺留分』という制度の趣旨や計算方法などは別記事にて説明しています。
詳しくはこちら|遺留分の趣旨と遺留分権利者や算定方法のまとめ

1 遺留分減殺請求の効果発生時点と基本的内容(概要)

遺留分減殺請求形成権という性質があり,通知が到達した時点で法的な効果が生じます。
法的効果の内容は,遺留分が侵害されている範囲で財産(所有権)の一定割合が請求者に移転するというものです。
詳しくはこちら|遺留分減殺請求権は形成権であり意思表示の時点で効力が発生する
本記事では,さらに具体的な効果として,減殺の対象や順序について説明します。

2 『請求された者』の遺留分を侵害できない

遺留分減殺によって『請求された者』が『遺留分侵害』となってしまうのは本末転倒です。
『遺留分侵害』という状態を解消するのが『遺留分』の制度の根幹だからです。
判例上,請求された者の遺留分侵害は回避することとされています。

<請求された者(被減殺者)の遺留分を侵害する場合>

『被減殺者の遺留分』を超える部分だけが減殺の対象となる
→1034条の『目的の価額』=被減殺者の遺留分超過部分
※最高裁平成10年2月26日

3 遺留分減殺請求による減殺の順序

遺留分を侵害する贈与と遺贈は『減殺』の対象となります。
簡単に言えば,解消(キャンセル)される,ということです。この解消される順序はいくつかの見解がありました。現在では,高裁判例と学説はほぼ一致しています。

<遺留分減殺請求による減殺の順序>

あ 前提事情

複数の『遺贈・生前贈与』が特別受益に該当する

い 減殺の順序

次の順序で減殺の対象とする
=遺留分減殺請求により解消されるものの順序
全体として『時間的に後から前へ』という順序である
ア 第1順位 遺贈
イ 第2順位 死因贈与
ウ 第3順位 生前贈与
複数の生前贈与がある場合
→贈与の時点が後から前へという順序とする
※民法1033条,1035条
※東京高裁平成12年3月8日
※宮井忠夫・千藤洋三/於保不二雄ほか『新版注釈民法(26)』有斐閣p463
※中川善之助・泉久雄『相続法 第3版』有斐閣p621
※加藤永一『遺留分』/『叢書民法総合判例研究6巻』有斐閣p42
※中川淳『相続法逐条解説(下巻)』日本加除出版p442
※鈴木禄弥『相続法講義 改訂版』創文社p162
※松原正明『判例先例相続法Ⅱ』日本加除出版p643
※山口純夫/『新・判例コンメンタール民法15』三省堂p453

う 反対説

『い』とは別の見解もある
例;遺贈と死因贈与を同順位とする見解
現在では『い』の見解が有力説である
→一般的な見解(再現可能性が高い)と思われる
※『判例タイムズ1039号』p294〜

4 遺留分減殺の順序の強行規定性

遺留分減殺の順序は民法で規定されています(前記)。事情によっては,この順序を遺言で指定(変更)したいというニーズもあります。しかし,順序の変更はできません。

<遺留分減殺の順序の強行規定性>

『遺贈』と『贈与』の順序は遺言者が指定できない
→『遺贈→贈与』の順序は強行規定である
※高松高裁昭和53年9月6日

5 遺留分減殺請求で解消される順序|同順位→按分して負担する

『遺留分で解消される順位が同じ財産』が複数存在することがあります。
『遺贈した財産』が複数ある,とか『生前贈与・死因贈与した財産』が複数ある,というケースです。
ここで『遺留分侵害額』よりも『同順位の遺贈or贈与の合計額』の方が大きい場合は,算定方法が問題となります。
これについて最高裁判例があるのでまとめます。

<遺留分減殺請求→同順位の中での負担の分配>

負担の分配方法 判例
『法定相続分の割合』で按分する
『遺留分割合を超過する指定相続分の割合』で按分する

※最高裁平成24年1月26日

6 遺留分減殺請求で解消される順序|同順位の財産内では遺言で指定できる

『遺留分で解消される順位が同じ財産』が複数存在すると,遺留分減殺請求の結果,複雑な共有状態となってしまいます。
この点『同順位』の財産の範囲内では『解消の順序』を遺言者が指定することができます。具体例を含めてまとめます。

<遺言者による遺留分減殺の順序の指定と具体例>

あ 規定

減殺の順が同順位の財産について
→遺言者が減殺(解消)の順序を指定できる
※民法1034条ただし書

い 複数の遺贈の中で順序を指定する例

受遺者Aへの遺贈,受遺者Bへの遺贈という順に減殺する

う 遺贈の中の財産で順序を指定する例

次のような具体例がある
ア 不動産を後順位にする
不動産は共有となるとその解消に苦労する
→極力共有となるのを避ける
→減殺の順序を劣後(後順位)にする
イ 複数の不動産について順位を指定する
ウ 減殺の対象外の財産を指定する
遺贈対象財産のうち特定の財産について
→『減殺の対象外』とする
※雨宮則夫ほか『Q&A遺言・信託・任意後見の実務』日本加除出版p195
<→★遺言作成時の注意

7 一部減殺の効果=物権共有

遺留分減殺が,特定の物の遺贈・贈与の一部だけとなることもあります。これを『一部減殺』と呼びます。
この場合は『共有持分』が移転することになります。つまり,結果としては共有の状態となります。この共有の法的性質についてまとめます。

<一部減殺の効果=物権共有>

不動産の一定割合の共有持分請求者に『確定的に』移転する
↓その結果
不動産は『請求者受贈者or受遺者』の共有状態になる(物権共有
※最高裁昭和50年11月7日
詳しくはこちら|遺留分減殺請求後の共有|法的性質・分割手続の種類

受贈者or受遺者から請求者不動産移転登記をする義務が生じる
この共有状態を解消する手続は,共有物分割となる
詳しくはこちら|遺産共有/物権共有|基本・法的性質・分割手続の種類

なお,例外として,受遺者は,その価額分の金銭を弁償することが認められています。
※民法1041条
この場合,現物の返還は避けられます。
別項目;遺留分減殺請求に対する価額弁償の抗弁

<『金銭』についての遺留分減殺請求の効果>

一定割合の『金銭』が請求者に移転(帰属)する
↓その結果
受贈者・受遺者は遺留分減殺請求をした者に,金銭を支払う(返還)義務が生じる

8 実際には算定内容で見解の相違→紛争ということも多い

以上の説明は理論的なものです。
実際には,見解に相違が生じることが多いです。

<遺留分に関する見解の対立が生じる典型>

あ 財産の評価額

主に不動産や非公開会社の株式など

い 生前贈与の性質

遺留分算定基礎財産に含まれる生前贈与は限定されている

これらの内容=遺留分の基本的事項,については別記事でまとめています。
詳しくはこちら|遺留分の趣旨と遺留分権利者や算定方法のまとめ
このような対立があると,現実にはスムーズに移転登記や支払がなされないということになります。