【民事訴訟における公示送達の要件(公示送達を使える状況)】

1 民事訴訟における公示送達の要件
2 住所・居所不明のケースにおける公示送達(規定)
3 住所・居所不明な当事者の範囲
4 住所が『知れない』程度
5 住所が『知れない』の調査方法
6 就業場所送達で支障が生じたケースの公示送達
7 外国機関経由の送達手続自体不能なケースの公示送達
8 外国機関経由の送達に時間を要するケースの公示送達

1 民事訴訟における公示送達の要件

民事訴訟の手続の中に送達というものがあります。訴状などの重要な書類を当事者に届けるというものです。民事訴訟法には,送達の種類(方法)がいくつか決められています。
詳しくはこちら|送達の種類(通常送達・就業先送達・補充送達・付郵便送達・公示送達)
送達の種類の1つに公示送達があります。掲示するだけで,実際には当事者(相手)に届いていないのに送達として認める(届いたことにする),という特殊なものです。
本記事では公示送達の要件,つまり,どのような状況であれば公示送達を使えるのか,ということについて説明します。

2 住所・居所不明のケースにおける公示送達(規定)

公示送達が使える状況を大きく分けると3つあります。まず,1つ目は,送達する相手の住所や居所が分からないというものです。
最初に規定の内容だけを押さえておきます。

<住所・居所不明のケースにおける公示送達(規定)>

当事者の住所・居所,その他送達をすべき場所が知れない場合
(→公示送達をすることができる)
※民事訴訟法110条1項1号

なお,このように送達の規定の中では,住所や居所がよく登場します。住所や居所の解釈については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)
詳しくはこちら|民法上の『居所』(規定・意味・住所との違い)

3 住所・居所不明な当事者の範囲

前記のように,当事者の住所や居所が不明である場合に公示送達を使うことができます。
ここで,住所や居所が不明である当事者とは具体的に誰のことを指すか,という問題があります。
大まかに言うと,純粋な当事者ではなくても送達を受領できる者が実際に送達の受領をすることができる場合には公示送達は使えないということになります。公示送達は最後の手段という位置づけなのです。

<住所・居所不明な当事者の範囲>

あ 本人以外の送達受領権限者の判明

法定代理人,訴訟代理人,送達受取人など送達受領権限のある者がいる場合で,これらの者の住所などが明らかな時,またはこれらの者を選任することができる時
→公示送達によることはできない

い 法人の代表者の判明

会社などの法人について,営業所または事務所がなくなった場合
代表者の住所などが明らかであれば,そこを到達場所として送達することができる
→公示送達によることはできない

う 法定代理人の不明

法定代理人の住所などが不明の時
→公示送達によることができる
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2016年p289

4 住所が『知れない』程度

前記のように,送達する相手の住所や居所が『知れない』,つまり,分からないという場合に公示送達ができます。
この『知れない』(分からない)とは一定の範囲での調査を尽くしたが判明しないという意味です。少なくとも(自然人であれば)住民票の写しを取り寄せて,記載された住所に赴いて,そこにその人が居住している形跡がない,というようなことを確認(調査)する必要があります。

<住所が『知れない』程度>

あ 基本的解釈

住所などが知れないというのは
単に申立人が主観的に知らないというだけでは足りない
相当の注意を尽くして調査したが不明であることを要する
しかし,何人にも知れないというほど確定的でなければならないというわけではない
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2016年p289

い 判断材料(資料)

裁判実務では,要件を証明する資料として,次のようなものが提出される例が多い
ア 住民票,戸籍の附票,外国人登録証明書イ 商業登記事項証明書(会社の営業所について)ウ 報告書 当事者(代理人)やマンションなどの不動産管理会社が作成する
『う』のような記載事項や添付書面が一般的である
エ 弁護士会照会による回答書

う 報告書の内容

ア 記載事項 電気ガス水道の使用状況
郵便受の状況
建物・部屋の外観
近隣の者からの聴取結果
イ 添付資料 写真など
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2016年p289

5 住所が『知れない』の調査方法

前記のように,送達する相手の住所が『知れない』(分からない)という判断をするためには,住民票をはじめとして,細かいことをいろいろと調査する必要があります。
具体的な資料を集めるのは,原則として申立人(訴訟の原告)ということになります。ただし,訴訟の中のメインの権利義務の証明というわけではないので,裁判所による職権調査も可能です。

<住所が『知れない』の調査方法>

あ 原則

(住所が知れないかどうかについて)
申立人の提出資料によって判断されるのが通例である

い 例外

必要があれば職権調査も行われる
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2016年p289

6 就業場所送達で支障が生じたケースの公示送達

公示送達ができるケースの2つ目は,送達相手の就業場所は分かっているけれど就業場所側の事情で就業場所送達が実現しない,というものです。
なお,条文上は,付郵便送達ができない場合,とだけしか記載されていません。一見,なんのことか分かりにくいですが,就業場所送達では付郵便送達が認められていないので,それに対応して作られた制度(規定)という趣旨なのです。

<就業場所送達で支障が生じたケースの公示送達>

あ 規定

書留郵便に付する送達(107条)ができない場合
(→公示送達をすることができる)
※民事訴訟法110条1項2号

い 具体的な状況

就業場所送達を試みたが,送達名宛人の不在,あるいは送達受領資格者の受領拒否により送達が実現しない場合のことである
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2016年p289

7 外国機関経由の送達手続自体不能なケースの公示送達

外国への送達では,その国の機関に協力してもらって送達をする(してもらう)のが原則です。
詳しくはこちら|民事訴訟・保全手続における日本国外への送達(方法・所要期間)
しかし,この外国への送達に問題が生じることがあります。
公示送達が認められる状況の最後(3つ目)は,このような,外国への送達に問題がある状況です。
外国への送達に関する公示送達は,さらに2つの種類(状況)に分けられます。
まず,外国の機関を通した送達の手続自体ができないという状況です。具体的には,日本と送達先の国との間に協力関係がないというものと,協力関係はあっても現時点で戦乱や天災の混乱で具体的に送達の手続ができないというものがあります。

<外国機関経由の送達手続自体不能なケースの公示送達>

あ 規定(条文引用)

外国においてすべき送達について、第百八条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
(→公示送達をすることができる)
※民事訴訟法110条1項3号

い 具体例

ア 嘱託自体不能 外国において送達すべき場合に,当該外国との間に条約も国際慣行もないため,108条による送達の嘱託をすることができない
イ 異常事態による不能 (外国の機関への嘱託が可能であっても,)当該外国に戦乱または天災があっため,目的を達することができない
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2016年p289

8 外国機関経由の送達に時間を要するケースの公示送達

外国への送達に問題があるケースでの公示送達の2つ目の状況は,外国の機関を通した送達が進んではいるけれど時間がかかりすぎるというものです。
日本の最高裁が嘱託手続を行った時を起算点として,そこから6か月後に外国の機関から送達証明書が届かない,という状況です。

<外国機関経由の送達に時間を要するケースの公示送達>

あ 規定(条文引用)

第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
(→公示送達をすることができる)
※民事訴訟法110条1項4号

い 期間計算に関する見解

ア 早期カウントスタート説 期間の起算点については,最高裁判所が外務省に送達のための嘱託手続をとった時という見解
→裁判実務はこの見解を採用している
イ 国外滞在期間カウント説 日本の最後の機関の手を離れた時から日本側の最先端の機関に送付されるまでの期間とする見解
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2016年p289,290

本記事では公示送達の要件について説明しました。
実際には,具体的な状況によって公示送達を使えるかどうかが違ってくることがあります。
実際に送達に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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