1 被相続人の預金|履歴調査|典型例|通常
2 前提|取引履歴開示請求
3 被相続人の預金取引履歴開示請求
4 取引履歴開示請求×上告不受理|判断なし
5 被相続人の預金|履歴調査|典型例|解約済
6 解約済|被相続人の預金取引履歴開示請求
7 信用情報機関×被相続人の信用情報取得

1 被相続人の預金|履歴調査|典型例|通常

相続に関して被相続人の預金の調査を行うことはよくあります。
本記事では被相続人の預金の調査について説明します。
まずは,調査が必要とされる典型的な事情をまとめます。

<被相続人の預金|履歴調査|典型例|通常(※1)>

あ 親族による使い込み|典型例

父Aが長男Bと同居していた
Aは自身の預金の通帳・印鑑・カードをBに預けていた
Bは日頃からAに無断で預金を引き出していた
Aはほとんど自己のために資金を使っていた

い 相続後の情報収集

Aが亡くなった
相続人=長男B・次男C
Cは『Bによる使い込み』に感づいていた
しかし具体的な情報・証拠を持っていなかった
Cは,銀行から預金の取引履歴を取得したい

2 前提|取引履歴開示請求

前記のような状況では,預金の調査が行われます。
これについてはちょっと複雑な解釈論があります。
この解釈では『預金者自身による調査』が前提となっています。
そこで最初に預金者による取引履歴開示請求についてまとめます。

<前提|取引履歴開示請求(※2)>

預金契約には取引履歴・経過の開示義務が含まれる
預金者が金融機関に取引履歴・経過の開示を請求した場合
→金融機関は,口座の取引履歴を開示する義務を負う
※最高裁平成21年1月22日

3 被相続人の預金取引履歴開示請求

被相続人の預金について『相続人』が調査する理論を説明します。
結果的に相続人が単独で開示請求できます。
その理論はちょっと複雑です。
判例の解釈論を整理します。

<被相続人の預金取引履歴開示請求>

あ 預金者の地位の承継

預金者が死亡した
複数の相続人が承継した
→預金契約上の地位は共同相続人全員に帰属する
=準共有の状態である(※3)

い 預金債権との違い

『あ』と預金債権の帰属とは別である

う 取引履歴の開示請求|基本

取引履歴の開示請求について
→預金契約者の地位に基づき行使できる(前記※2)

え 取引履歴の開示請求|相続人

相続人による取引履歴の開示請求について
→上記※3の準共有の『保存』行為に該当する
→各相続人は単独で請求できる
※民法264条,252条ただし書き
※最高裁平成21年1月22日

4 取引履歴開示請求×上告不受理|判断なし

相続人による被相続人の預金の調査は可能です(前記)。
この点,一見すると否定するような判例があります。
間違って理解してしまうことが多いようです。
迷わないように別の判例の位置付け・意味を整理しておきます。

<取引履歴開示請求×上告不受理|判断なし>

あ 請求内容

原告=預金者の共同相続人の1人
請求内容=預金口座の取引経過明細開示請求

い 原審の判断

否定した

う 最高裁の判断

上告・上告受理申立について
→それぞれ棄却・不受理とした
※最高裁平成17年5月20日

え 判断内容・分析

上告受理の申立の理由について
→法令の解釈に関する重要な事項が含まれていない
法律解釈についての判断を示したものではない
判例としての意義・効力を有するものではない
※『判例タイムズ1290号』p133

5 被相続人の預金|履歴調査|典型例|解約済

以上の状況とはちょっと違っているケースもあります。
既に被相続人によって預金口座が『解約済み』という場合です。
この場合,払い戻された資産が行方不明となる傾向があります。
特に資産状況が分からなくなる変わったケースをまとめます。

<被相続人の預金|履歴調査|典型例|解約済>

あ 前提事情

前記※1の状況を前提とする

い 解約準備

父Aの生前において
長男Bは,Aから『預金解約』の委任状を預かっていた
Aがサインをした状態であった
Aの印鑑登録カードも預かっていた

う 解約代行

Aが危篤に陥った
Bは,急いで預金の解約し払戻を受けた

え 相続後の調査

Aが死亡した
Cは,銀行から預金の取引履歴を取得したい

ちょっと変わっている事情かもしれません。
しかし,意図的な『操作・隠匿』ということも実際に生じています。

6 解約済|被相続人の預金取引履歴開示請求

解約済みの預金口座の調査は理論的に難しいところがあります。
最高裁の統一的な解釈に至っていないのです。
下級審裁判例は見解が分かれているのです。

<解約済|被相続人の預金取引履歴開示請求>

あ 前提事情

被相続人が生前に預金契約を解約した
相続人が金融機関に対し,取引履歴の開示を請求する

い 見解
見解 裁判例
開示請求肯定 東京地裁平成22年9月16日
開示請求否定 東京高裁平成23年8月3日

※いずれも確定した判決ではない

前記裁判例は,その後上告されています。
最高裁での判断に至れば,見解が統一されることになります。

7 信用情報機関×被相続人の信用情報取得

被相続人の金融資産の調査方法は金融機関への照会だけではありません。
信用情報機関への照会という方法もあります。

<信用情報機関×被相続人の信用情報取得>

信用情報機関 登録内容
日本信用情報機構=JICC 貸金業者(消費者金融等)に関する情報
CCB (平成21年にJICCと合併済)
CIC 割賦販売等のクレジット事業(流通系)に関する情報
全国銀行個人信用情報センター 銀行・信用金庫等に関する情報

外部サイト|JICC|ご本人が亡くなっている場合の開示手続き

これによって,被相続人の財産が発覚する,ということもあります。
遺産調査の1つの方法と言えます。