1 建物の老朽化による建物賃貸借契約終了の方法の種類
2 賃貸人による修繕義務(参考)
3 建物の『滅失』による賃貸借終了
4 建物の著しい老朽化による『滅失』扱い
5 建物の老朽化による正当事由(概要)
6 建物の老朽化による明渡の裁判例(概要)
7 耐震強度不足による『滅失』の扱い
8 耐震性に関する公的基準と公的施策(概要)
9 マンションの建替決議と賃貸借終了
10 老朽化した建物の賃貸人の現実的な対応

1 建物の老朽化による建物賃貸借契約終了の方法の種類

賃貸借の対象となっている建物の老朽化が進むことによって,結果的に賃貸借契約が終了となる(賃借人が退去することになる)ことがあります。
法的な扱いは,状況によって大きく違ってきます。
本記事では,建物の老朽化による賃貸借契約の終了について説明します。

2 賃貸人による修繕義務(参考)

賃貸借の対象となっている建物に不具合が生じた場合,通常は,賃貸人が修繕する義務が発生します。修繕することによって,老朽化が進んで生じた不具合を解消することになります。
詳しくはこちら|賃貸人の修繕義務の基本(特約の有効性・賃借人の責任による障害発生)
このように,老朽化が進んでも契約が終了することにつながらない方が原則です。一方,状況によっては例外的に契約が終了する結果となることもあります。以下,説明します。

3 建物の『滅失』による賃貸借終了

建物が滅失すると,当事者のアクションがなくても自動的に賃貸借契約は終了します。災害によって建物自体がなくなったというようなケースです。
さすがに修繕してまた使えるようにすることにはなりません。
契約が終了するので賃借人は退去することになりますが,明渡料は不要です。一方で,敷金は全額を返還することになります。

建物の『滅失』による賃貸借終了

あ 契約終了

建物が『滅失』した場合,当然に賃貸借契約は終了する
解除通知(民法620条)などの手続は不要である

い 明渡料の必要性

正当事由による明渡請求ではない
→明渡料(立退料)は不要である

う 敷金返還

賃貸人は賃借人に敷金を返還する
原状回復費用(特別損耗分)の控除はしない
=敷金全額を返還する
※最高裁昭和42年6月22日

4 建物の著しい老朽化による『滅失』扱い

建物自体がまったくなくなったわけではなくても滅失と同じような状況もあります。長期間の経過により建物の老朽化が著しく進んだようなケースです。
この場合は,滅失と同じ扱いとなり,賃貸借契約は終了するという解釈になります。ただし,滅失と同じ程度のものすごい老朽化に至っていることが必要です。

建物の著しい老朽化による『滅失』扱い

あ 基本的事項

建物の倒壊,崩壊の危険性が高い場合
→建物滅失に準じる損壊・老朽化といえる
→建物の滅失と同じ扱いとなる

い 損壊・老朽化の程度の基準

『ア・イ』のいずれかに該当する
ア 建物の主要部分が消失したイ 消失部分の修復に要する費用が不相応である 『不相応』=修復のために『新築するのに近い程度の費用』を要する

う 朽廃との類似性(参考)

建物の『朽廃』という状態に近いといえる
詳しくはこちら|旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)

え 老朽化の判断要素の例

ア 築年数イ 材質,構造ウ 具体的な異常の発生 建物・土台の腐食,傾斜,ドア開閉の可否,など
エ 受けたダメージ 戦災に遭った,など
※最高裁昭和42年6月22日

5 建物の老朽化による正当事由(概要)

滅失と同じといえるほどの老朽化ではない場合は,契約終了にはなりません。原則にもどって,賃貸人が修繕して,賃借人が使い続ける,ということになります。
ただ,賃貸人(オーナー)としては,建物を解体して全面的に改築したいと考えることも多いです。この点,賃貸人の都合で契約を終了させる方法もあります。契約期間の満了において更新拒絶をするか,契約期間が定まっていない場合は解約申入をする,という方法です。
いずれの場合でも,契約が終了するには正当事由が認められる必要があります。建物の老朽化が進んでいることは正当事由が認められる方向に働く1つの事情,ということになります。よほど老朽化が進んでいない限り,老朽化だけでは足りず,ほかに明渡料の提供も必要になります。

建物の老朽化による正当事由(概要)

あ 基本的事項

賃貸人が更新拒絶or解約申入をする
正当事由があれば契約が終了する
※借地借家法28条

い 建物の老朽化と正当事由

建物の老朽化が進んでいる場合
→正当事由が認められる方向に働く

う 明渡料

正当事由による契約終了について
明渡料の支払を伴うことが多い
明渡料が不要となることもある
詳しくはこちら|建物の老朽化と建物賃貸借終了の正当事由

6 建物の老朽化による明渡の裁判例(概要)

建物の老朽化のために賃貸借を終了させ,明渡を実現するケースはとても多いです。
裁判例としても参考となるものが数多くあります。
裁判例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|建物の老朽化による建物賃貸借終了・明渡の裁判例の集約

7 耐震強度不足による『滅失』の扱い

単純な老朽化とは違い,建物の耐震強度不足によって,建替が望ましいという状況もあります。
賃借人が入居している場合,建替の前提として明渡を実現する必要があります。
耐震強度不足の程度が著しく,倒壊のおそれがあるようなケースでは,滅失と同じ扱いとして賃貸借が終了します。

耐震強度不足による『滅失』の扱い(※1)

あ 基本的事項

『い〜う』の事情がある場合
→『建物の滅失』に準じた扱いとなることがある
→賃貸借契約終了となる

い 法令上の建替義務

建替えが法令上義務付けられている
例;建設時の耐震強度検査に偽装があった

う 現実的な建替の必要性

建替えが現実的に必須といえる状況である
例;耐震強度検査結果が『倒壊リスクが高い』判定であった
※東京地裁平成23年3月25日

8 耐震性に関する公的基準と公的施策(概要)

実際には,建物の耐震性の不足する程度の判断は複雑です。
これに関して,公的な検査や耐震工事の促進策が実施されています。
ただし,公的なこれらの施策と賃貸借の終了は直接つながるとは限りません。

耐震性に関する公的基準と公的施策(概要)

あ 自治体による震災被害への対応

自治体が建物の耐震性検査・耐震補強の促進を行っている
倒壊リスクが高い判定であれば賃貸借終了につながる(前記※1
耐震補強の助成対象となっただけでは賃貸借終了につながらない
詳しくはこちら|自治体による建物耐震性に関する施策(危険度判定・耐震化促進策)

い 旧耐震基準であることのリスク

古い建物は旧耐震基準によって建築されている
現在の新耐震基準には適合していない
『既存不適格建物』と呼ぶ
詳しくはこちら|既存不適格建物の適用除外(建築基準法3条2項)
→このことだけで賃貸借終了につながらない
詳しくはこちら|建築基準法の建物の耐震基準(新/旧耐震基準)

9 マンションの建替決議と賃貸借終了

マンションの老朽化や耐震強度の不安から,立て替えるケースが増えつつあります。
総会(集会)で建替決議がなされたとしても,それだけで建物賃貸借が終了できないという見解が一般的です。
建替決議がなされても,倒壊のおそれがあるほどの老朽化というわけではないからです。

マンションの建替決議と賃貸借終了

あ 前提事情

区分所有建物において『建替決議』がなされた
→建替えをすることが決定した
詳しくはこちら|区分所有法の集会・総会|基本|決議要件|管理規約の効力

い 賃貸借終了との関係

→これだけでは,客観的な建物の危険性が判明しない
→賃貸借終了につながらない傾向がある

10 老朽化した建物の賃貸人の現実的な対応

以上のように,建物の老朽化は建物賃貸借の終了につながることもあります。
また,建物賃貸借の終了の方式(種類)には複数のものがあります。
そこで,実務的には,賃貸人としては複数の理由を併記した通知を行っておくと,良いでしょう。
これにより,後から主張が不足していたことになるリスクを回避できます。

老朽化した建物の賃貸人の現実的な対応

あ 書面による通知

賃貸人から賃借人へ賃貸借契約の終了の通知をする
内容としては『ア・イ』の2つを両方記載しておく
ア 滅失に準じる老朽化を原因とする契約終了イ 正当事由による更新拒絶・解約申入

い 協議

賃貸人と賃借人において
退去の具体的方法・時期について協議する

本記事では,建物の老朽化によって建物賃貸借契約が終了するいろいろなパターンを説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に建物賃貸借に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。